003
――水中都市ルビア――
(YENTUYUI’S EYES)
ルビア海域のほぼ中央にある水中都市、それがルビアだ。
ここは深海であり、この世界では水中に都市が存在していた。
元々、半魚人が支配したルビアの町の中に、大きな中世ヨーロッパ風の城が見えた。
海の岩に珊瑚で彩りを添えた壁で囲まれた水の中の城は、町の中でもひときわ大きな建物だ。
城の旗は、今クロコノイドの旗が揺らめいた。
旗の見えるほぼ真下に、見晴らしのいいテラスがあった。
テラスの上から、下を眺める赤き鱗のクロコノイド。
それが私、『ユナ・イエンツーユイ』だ。
鯨革の黒いコートで、赤い鱗を隠す。腰には二本の剣、だけど鞘だけだ。
二足歩行で、人間のように立ったままテラスの下の風景を見下ろしていた。
「イエンツーユイ様、以上で水岩石の掘削状況を報告します」
「そうか、ご苦労」
無表情の私に話しかけるのは、私より一回り大きな体のクロコノイドの兵士。
水色の鱗で、鰐の頭に人間の顔が挟まれた男のクロコノイドだ。
腰には、珊瑚に金属の刃をつけた曲刀が携えられていた。
「続いて、水資源海藻の採集状況ですが……この地でとれる海藻はポセイワカメの生存群を確認しました。
食料資源に関してルビアは、かなり豊富かと思われます」
「ルビアは、海神ポセイドンの加護が強いと?」
「そのようです」報告役の兵士は、淡々と語った。
深海世界には、肥えた土地と貧しい土地が存在した。
具体的な土地の区別は、光る砂……ポセイドンサンドによるものだ。
町の中で見える地面は、光る砂だ。
太陽の光が届かない深海の世界で、光る砂は唯一の視界だ。
クロコノイドや、半魚人は光る砂の近くで街を作り、文明を作り、生活をする。
だけど、深海世界はすべてが明るいわけではない。
光る砂がない場所は、当然のごとく暗い。
暗い場所を「ポセイドンの加護がない」と、深海では表現されていた。
この光の砂は、ポセイドンの加護そのものだと深海全域で信じられていた。
光の砂は、さらに海藻の育成や武器や道具に用いられる珊瑚……ほかの生物の生育にも役立つ。
つまりは、私たちにとって大事な存在だということだ。
「なるほどな、食糧事情も問題はない。
なれば、『水神結晶』の発掘状況はどうだ?」
「水神結晶も、ルビア海域の北部に鉱脈が確認できました。
かなり大きな鉱脈で、ほかにも南部にいくつか。
ルビアの町では確認できませんでしたが、我らクロコノイドの地よりもかなり多いかと」
「そうか、報告ご苦労」私は報告を聞き、部下をねぎらう。
私のいる城のテラスから見える下では、ルビアの街並み。
街では、肉体労働している半魚人の姿が見えた。
監視しているのは、クロコノイドの兵士。
重そうな袋を抱えて、右へ泳いだりしている半魚人の働き。
マーマンも、マーメイドも関係なく、こき使われていた。
「ルビアは随分と土地に、恵まれていたのだな」
「はい、半魚人が爆発的に繫栄した理由も頷けますね」
「だが、負けたものは勝者に全てを搾取される。
人材も、資材も、エネルギーも、食糧も。
これが深海で生まれた、この世界の摂理だ」
負けた半魚人は、文字通りの奴隷扱いになっていた。
いくら肥沃な土地を有していても、戦争に負ければすべてを失う。
勝ったものがすべてを手に入れる、奴隷の半魚人を見ながら私は思う。
だからこそ、私たちは戦いには勝ち続けなければならない。
「イエンツーユイ様」
「ん?」
「後続隊のニギス様が、明日にルビスに合流すると報告がありました」
「わかった」報告を受けた私は、テラスに背を向けた。
「これから私は、武器の回収をしに工房に向かう。
私がいない間、お前らに留守は任せたぞ」
「はっ」私に対して、若いクロコノイドの兵士は敬礼をしていた。




