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水の中の戦争  作者: 葉月 優奈
三話:スキュラ女王の七種族会議
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028

――王都センブレル・センブレル円卓の間――

(NASUTYUN’S EYES)

ここは半魚人の都、センブレルだ。

世界には二つの海が存在する。『北洋』と『南洋』。

セビド海域を中心に、南北と二つの海に分れていた。

北洋で最も大きな都が、このセンブレル。半魚人軍最大の都市だ。


センブレル城のほぼ中央に、この部屋があった。

水岩石と大きな円卓、奥の壁には王の肖像画だ。

ナスチュン王である俺は、上座に座る。だけど半魚人軍の円卓には、肘当てしか無い。


「どうして、アイツは死んじまうんだよ!」

報告を聞いていた俺は、泣いていた。

体の右側にある肘当てに、すがりつくように泣いていた。


「ビアス将軍は、イラーク海域防衛戦でクロコノイドの軍により討ち取られました。

その後、クロコノイド軍の土葬師がビアス様を埋めたそうです」

話しているのは、円卓の前で立ち泳ぎをする一般兵のマーマンだ。

海藻紙に書かれた、戦況報告を円卓の上座にいる俺に報告していた。


「そうか……」涙が止まらないが、俺は王だ。

ビアスとの思い出もたくさんあるが、王として毅然とした態度を取らないといけない。

涙を拭いて、前を向いていた。


「ナスチュン王」

円卓を囲んでいたのは、俺だけじゃ無い。

円卓の右隣では、一人のマーメイドがいた。

金属鎧を着ていて、強ばった顔の若いマーメイド。

赤い鱗の下半身の魚と、上半身は若い女の顔。

赤く短い髪のマーメイドの目には、涙が見えた。


「テトラ将軍か……」

「はい、ビアス様はイラーク海域で亡くなったそうです……」

「ああ、クロコノイドに殺された」

「ビアス様を討ったのは、イエンツーユイでしょうか?」

テトラは、彼女の名前を出すと不機嫌な顔に変わっていた。

テトラにとっては、大事な父を殺された仇だ。


「ああ、だがお前は冷静でいろ。

たとえ、目の前にイエンツーユイが現れようとも」

「分かっています、あたしは子供ではありませんから」

テトラは、怒りを殺した顔を見せていた。

大きな剣を背負い、前線で戦う勇猛なマーメイド。


「しかし肥沃な土地イラークを、ついに失ってしまったか。

これは、とてつもなく痛手だ」

「イラークは、センブレルに直接つながる水中都市。

あそこを敵に抑えられると、こちらも動きにくくなる。

資源的にも、かなり苦しい。まあ直接攻め込まれるのが、一番厄介ですが」


話していたのは、水色の肩まで届く長い髪のマーマン。

彼の名は、『ビンナガ・エルンスト』。ビアスの軍の副官だ。

ビンナガとビアスは従兄弟同士で、ビアスから知略も学んでいた。ビアスの弟子のような存在。

気になるのは若いマーマンにもかかわらず、目にクマが見えていた。不健康そうな顔だ。


「確かに、責めるのも難しいわね。

狭い岩場が、周囲を覆う中で広い広場の中に突如現れる水中都市だから。

岩場の城を守る城壁、敵の手に落ちると危険よね」

「懸念は、それだけじゃ無い」

テトラの言葉に、俺は厳しい顔で周囲を見ていた。


この円卓には五人分の肘当て……席があった。

だけど、人がいるのは四人だ。一人だけ、空席になっていた。

空席を指し示して、俺はぐっと涙をこらえた。


「俺たちは最強の軍師(ビアス)を失った。

攻守の要で、頭脳でもある経験豊富な彼がいなくなった。

このままでは、遠くない未来に……俺たち半魚人は滅んでしまう」

「そうならないように、四天王を緊急で呼び寄せたのでしょう。

今後、どうするか?を話す為に。ですが、もう結論は出ているのではありませんか?」

「ギマか、どうしてだ?」

俺が声をかけたのは、テトラのさらに右隣の肘当てにいるギマだ。

黒いローブを着ていた、痩せているマーマンは手を上げて話始めていた。


「『水魔砲』を使うべきです」

ギマは、一つの提言をしてきた。だけど、俺は眉をひそめた。

「『水魔砲』か。ダメだ。アレは使えぬ。

正確な距離を定めても、誤差がどうしても生じてしまう」

「精度なら問題ありません。私は水弾魔術師。

水魔砲が、神器であっても魔法の武具であるのならば、私が魔術を制御して見せましょう」

ギマが、自信たっぷりに言ってきた。

だけど、俺は難しい顔でギマの提案を聞いていた。


「精度の問題が、あっても距離は?」

「センブレルからイラークを狙うにも、距離が遠すぎる。それに……」

「それに?」

「仮に当たったとしても、イラークにいる仲間に犠牲が出てしまうだろう」

そんな危険な武器を、俺は使う気にはなれない」

俺は、ギマの提案をスッパリと断った。


『水魔砲』は、海神ポセイドンが半魚人のために残した神器だ。

水弾魔法の何百倍の威力がある水弾を放つ、砲台。

ギマが提案した水魔砲は、水弾魔法の原理を用いた魔導兵器だ。

大量の魔力を水神結晶で消費し、放つ強力な一撃だ。


かつてスキュラとの戦いでも、一度だけ使用されて多くのスキュラ兵を退けた。

だが、あまりにも強力な威力で海底地形の山が抉り取られるほどの強力な兵器だ。

その後はスキュラとは同盟もしたので、今まで使う機会がなくなったからだ。


「では水魔砲を使わないとなれば、クロコダイル軍をどうするつもりですか?ナスチュン王」

「ビアス様が、亡くなる前に一つしていたことがあります」

ここで割って入ってきたのが、ビンナガだ。


「それはなんだ?」

「一人、客人をお呼びしております」

ビンナガが呼び出して、円卓の間の扉が開く。

扉が開いて出てきたのが、一人の蛇女族(スキュラ)だ。

スキュラの中でも珍しい獰猛(どうもう)な猟犬を下半身にした、スキュラが姿を見せていた。



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