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水の中の戦争  作者: 葉月 優奈
二話:テンタルスの死神将軍
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テンタルスの集団の加勢で、形成は逆転した。

ニギスの軍が、合流して五千と五千。数の上では互角。

敵の兵士は、私たちが仁王立ちをして数を減らしていた。

サハギー将軍の加勢が三千、士気が高い猛者の登場で勢いが逆転した。


形成が逆転した私たちは、もう負けなかった。

敵軍は援軍を見るなり、勢いが弱まった。

逃げ出す半魚人も、現れて混乱していた。


こうなっては私の軍が、負ける要素は無い。

広場には大軍が、有利に働いて私たちの軍は一気に押し返した。

そのまま、私たちは広場の半魚人を追い払っていた。


「やりましたな、イエンツーユイ様」

声をかけてきたのは、ニギスだ。

白い鰐頭で老けた顔のニギスは、勝ちどきを上げていた。


「ああ、ニギスご苦労だったな」

「しかし、イエンツーユイ様が双子を追いかけたときは驚きましたぞ」

ニギスは、からかうように言ってきた。私は照れくさそうな頬で、顔を背けた。


「サハギー将軍も、来てくれたからな」

「現在、彼は残党の後始末をしております」

「働き者だな、私たちの軍も見習って欲しい」

私の言葉に、ニギスは苦笑いをしていた。

そんな私は、少し遠くにいたベージュとメルルーサを見つけた。


「ベージュ、メルルーサ。こっちに来い」

私が、二人を手招きしていた。

小さく白いセーラー服の女の子クロコノイドは、私に呼ばれて泳いできた。

だけど、表情は優れない。

私も又、毅然とした顔で二人に腕を組んで見下ろしていた。


「はい、イエンツーユイ様」

「ごめんなさい」

ベージュと、メルルーサはすっかりしおらしくなっていた。


「今回の件は、軍の隊列を乱して敵の罠にかかった。

そして、自らの命を危機にさらして、私にも迷惑をかけた」

「はい、返す言葉がありません」

「ごめんなさい」

「これは重要な違反で、軍学校でちゃんと学んでいるよな?」

「軍律違反で、処罰」

「そうだな、処罰は私が決める。

だが、その前に聞かないといけない事がある。

どうして、包囲されたときにあの場所に向かった?」

「包囲を突破するために、あの場所だけが兵士がいなかったからです」

ベージュは、真面目に答えていた。

いつも通りの明るさは無いが、彼女から真摯な言葉が聞こえた。


「いえ、メルがいけないんです。メルが……見つけて」

「いいや、悪いのはベージュです」

二人とも、互いをかばい合っていた。

私はそんな二人のやりとりを、じっと見ていた。


「戦場の違和感を見つけるのは得意か。なるほど、これはいい情報だ。

やはり、小さな姿は戦場でも役に立つのだな」

「そうでしょ、ベージュ達は……」

「調子に乗らない。処罰の方は、後で追って連絡する。覚悟しておけよ」

「は、はい。ごめんなさい」

すぐにベージュは、落ち込んだ顔になっていた。

ベージュのことを、宥めるメルルーサ。


双子と会話をしている中で、私は一つの死体を見つけていた。

私の前には、一人の死体が海を漂っていた。それは、マーマンでビアスだ。

彼は半魚人の裏切りにあって、殺されてしまった。


すぐに、私は一人の兵士を見つけた。

私の軍にいる部隊の中で、全身黒っぽい服を着たクロコノイドを見つけて呼び寄せた。

「お前、『土葬師』か?」

「はい」私の言葉に、黒い服を着たクロコノイドは答えた。


『土葬師』は、軍の中にいつも数十名用意していた。

これは、戦死者を埋める事を仕事とした専用の兵士。

死体は海に残り、いつまでも漂い続けてしまう。

私たちポセイドンの加護を受けた七種族は、死後は土に返るようになっていた。

だから、土葬師が死体を埋めてポセイドンの元に返す役目があるのだ。


「あそこにいるビアス将軍を、弔ってやれ」

彼は裏切られた。哀れなマーマン。

敵の兵士も、七種族ならば土葬してやるのが勝者の使命だ。

戦後処理として、彼を埋めてあげることにした。


その指示を出そうとしたとき、奥の岩場に隠れたマーメイドが姿を見せた。

数は一人だけ、短い水色の髪に鯨革の鎧を着ていた。

「敵兵か?」だけど、マーメイドはすぐに手を上げていた。

戦いの意志がないことを、マーメイドが示していた。


「ユナ・イエンツーユイ将軍様ですか?」

「ああ、私がそうだ。暗殺に来たのか?」

「いえいえ、全然違います。あたしはビアス軍の元兵士です。

ですがあなた方の強さに、あたし達は降伏をする所存です」

「ふむ、それは正しい判断だ。だが一度、お前を拘束をさせてもらうぞ」

「はい」マーメイドの兵士は、抵抗もしない。

すぐに私は周りにいるクロコノイドを、呼び寄せた。


そのまま、マーメイドは両手を縛られていた。

魔法を発動させそうな指輪も、預かっていた。


「で、話があるのだろう」

「はい、ビアス様に預かっていた言葉をあなたに渡すように言われました」

「申してみよ」

「「僕を殺す者がいるならば、間違いなく『ギマ・ジョンソン』だ」と」

「ギマ・ジョンソン。なるほど、さっきの暗殺の差し金か」

私はビアスの暗殺を、目の当たりにした。

敵はなぜ、ビアスを殺そうとしたのかが分からない。

だがマーメイドは、話を続けていた。


「さらに「ギマは、トリトンを探している。

トリトンは、クロコノイドの中にいる」と」

「やはり、ビアス殿は気づいていたのか」

私は、ビアスの言葉に驚きがあった。

それは私がずっと気にしていた一つの疑問、ビアスに私は勝てなかった。

初めての出会いだけで、ヤツは私の心を見抜いていたのだから。



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