027
テンタルスの集団の加勢で、形成は逆転した。
ニギスの軍が、合流して五千と五千。数の上では互角。
敵の兵士は、私たちが仁王立ちをして数を減らしていた。
サハギー将軍の加勢が三千、士気が高い猛者の登場で勢いが逆転した。
形成が逆転した私たちは、もう負けなかった。
敵軍は援軍を見るなり、勢いが弱まった。
逃げ出す半魚人も、現れて混乱していた。
こうなっては私の軍が、負ける要素は無い。
広場には大軍が、有利に働いて私たちの軍は一気に押し返した。
そのまま、私たちは広場の半魚人を追い払っていた。
「やりましたな、イエンツーユイ様」
声をかけてきたのは、ニギスだ。
白い鰐頭で老けた顔のニギスは、勝ちどきを上げていた。
「ああ、ニギスご苦労だったな」
「しかし、イエンツーユイ様が双子を追いかけたときは驚きましたぞ」
ニギスは、からかうように言ってきた。私は照れくさそうな頬で、顔を背けた。
「サハギー将軍も、来てくれたからな」
「現在、彼は残党の後始末をしております」
「働き者だな、私たちの軍も見習って欲しい」
私の言葉に、ニギスは苦笑いをしていた。
そんな私は、少し遠くにいたベージュとメルルーサを見つけた。
「ベージュ、メルルーサ。こっちに来い」
私が、二人を手招きしていた。
小さく白いセーラー服の女の子クロコノイドは、私に呼ばれて泳いできた。
だけど、表情は優れない。
私も又、毅然とした顔で二人に腕を組んで見下ろしていた。
「はい、イエンツーユイ様」
「ごめんなさい」
ベージュと、メルルーサはすっかりしおらしくなっていた。
「今回の件は、軍の隊列を乱して敵の罠にかかった。
そして、自らの命を危機にさらして、私にも迷惑をかけた」
「はい、返す言葉がありません」
「ごめんなさい」
「これは重要な違反で、軍学校でちゃんと学んでいるよな?」
「軍律違反で、処罰」
「そうだな、処罰は私が決める。
だが、その前に聞かないといけない事がある。
どうして、包囲されたときにあの場所に向かった?」
「包囲を突破するために、あの場所だけが兵士がいなかったからです」
ベージュは、真面目に答えていた。
いつも通りの明るさは無いが、彼女から真摯な言葉が聞こえた。
「いえ、メルがいけないんです。メルが……見つけて」
「いいや、悪いのはベージュです」
二人とも、互いをかばい合っていた。
私はそんな二人のやりとりを、じっと見ていた。
「戦場の違和感を見つけるのは得意か。なるほど、これはいい情報だ。
やはり、小さな姿は戦場でも役に立つのだな」
「そうでしょ、ベージュ達は……」
「調子に乗らない。処罰の方は、後で追って連絡する。覚悟しておけよ」
「は、はい。ごめんなさい」
すぐにベージュは、落ち込んだ顔になっていた。
ベージュのことを、宥めるメルルーサ。
双子と会話をしている中で、私は一つの死体を見つけていた。
私の前には、一人の死体が海を漂っていた。それは、マーマンでビアスだ。
彼は半魚人の裏切りにあって、殺されてしまった。
すぐに、私は一人の兵士を見つけた。
私の軍にいる部隊の中で、全身黒っぽい服を着たクロコノイドを見つけて呼び寄せた。
「お前、『土葬師』か?」
「はい」私の言葉に、黒い服を着たクロコノイドは答えた。
『土葬師』は、軍の中にいつも数十名用意していた。
これは、戦死者を埋める事を仕事とした専用の兵士。
死体は海に残り、いつまでも漂い続けてしまう。
私たちポセイドンの加護を受けた七種族は、死後は土に返るようになっていた。
だから、土葬師が死体を埋めてポセイドンの元に返す役目があるのだ。
「あそこにいるビアス将軍を、弔ってやれ」
彼は裏切られた。哀れなマーマン。
敵の兵士も、七種族ならば土葬してやるのが勝者の使命だ。
戦後処理として、彼を埋めてあげることにした。
その指示を出そうとしたとき、奥の岩場に隠れたマーメイドが姿を見せた。
数は一人だけ、短い水色の髪に鯨革の鎧を着ていた。
「敵兵か?」だけど、マーメイドはすぐに手を上げていた。
戦いの意志がないことを、マーメイドが示していた。
「ユナ・イエンツーユイ将軍様ですか?」
「ああ、私がそうだ。暗殺に来たのか?」
「いえいえ、全然違います。あたしはビアス軍の元兵士です。
ですがあなた方の強さに、あたし達は降伏をする所存です」
「ふむ、それは正しい判断だ。だが一度、お前を拘束をさせてもらうぞ」
「はい」マーメイドの兵士は、抵抗もしない。
すぐに私は周りにいるクロコノイドを、呼び寄せた。
そのまま、マーメイドは両手を縛られていた。
魔法を発動させそうな指輪も、預かっていた。
「で、話があるのだろう」
「はい、ビアス様に預かっていた言葉をあなたに渡すように言われました」
「申してみよ」
「「僕を殺す者がいるならば、間違いなく『ギマ・ジョンソン』だ」と」
「ギマ・ジョンソン。なるほど、さっきの暗殺の差し金か」
私はビアスの暗殺を、目の当たりにした。
敵はなぜ、ビアスを殺そうとしたのかが分からない。
だがマーメイドは、話を続けていた。
「さらに「ギマは、トリトンを探している。
トリトンは、クロコノイドの中にいる」と」
「やはり、ビアス殿は気づいていたのか」
私は、ビアスの言葉に驚きがあった。
それは私がずっと気にしていた一つの疑問、ビアスに私は勝てなかった。
初めての出会いだけで、ヤツは私の心を見抜いていたのだから。




