026
私は許せなかった。
味方を裏切り、襲いかかる敵軍。
半魚人の大軍に対して、私は次々と切り捨ていていた。
数の上では、圧倒的劣勢だ。だがそんなもの、私には関係ない。
「次は誰だ?」
「イエンツーユイを倒せ」
半魚人は、私目がけて槍を突きつけてきた。
それを、私は全部避けてそのまま半魚人の兵士を斬りつけた。
周囲には、大量の半魚人の死体が流れていた。
「なぜだ、なぜ……倒れぬ」
マーマン兵士が、不安そうに呟いた。
それでも、敵の兵士は士気が高い。怯むことはあっても、敵軍の勢いは止まらない。
「イエンツーユイ様、大丈夫ですか?」
「平気だ」クロコノイドの男の兵士が、声をかけてきた。
私は、ベージュ達を助けるためにダメージを覚悟でここに来た。
しかし、私以外の兵士は疲れていた。既に、ほとんどの兵士が倒れていた。
「お前は生き残れ」
「ですが……」
「私は大丈夫だ、まだ……やれる」
だけど、私の呼吸は既に荒い。
着ていた黒いコートは、ボロボロだ。
戦闘用のボロくなったコートを着て、二本の剣を握った。
切れ目無くマーマン兵が、珊瑚の槍で突きつけた。
私の後ろにいたクロコノイドの兵士が、マーマンの兵士に倒された。
仲間を殺したマーマンの兵士を、一瞬にして私は切り捨てた。
「くそっ」苦々しい顔で呟く私。
戦う私の中に、怒りがこみ上げてきた。
半魚人の兵士が、次々と迫ってきた。
後ろには、ベージュとメルルーサが戦っていた。
連戦で、二人もかなり疲れていた。だが、まだかろうじて生きていた。
(せめて、生存者だけでも守り切らなければ)
私は前を向いて、剣を振るう。
襲いかかる半魚人の兵士を、剣で切り捨てた。
だが、敵の兵士は次々と加勢していく。
「お前ら、逃げろ!」私は後ろの双子に声をかけた。
「戦います!」
「はい、メル達の責任ですから」
ベージュとメルルーサは、まだ心が折れていない。
だが、彼女たちはまだ若い新兵だ。新兵を守るのは、将軍の義務だ。
「馬鹿者、お前達はこんなところで死んではいけない」
「将軍は死ぬつもりですか?」心配そうに、ベージュが叫ぶ。
「私はこんな場所で、死ぬつもりは無い」
話をしながらも、双子の前で私は剣を振るう。
迫る敵を切り捨てて、必死に戦っていた。
「数が多すぎる、このままではお前達は死ぬぞ」
「だけど……」敵が迫っては、襲いかかってきた。
体力の限界ももう近い。私以上にベージュ達の疲労が気になっていた。
敵を蹴散らしながらも、一瞬でも気を抜けない戦いが続く。
だけど、ピンチはいつまでも続かない。
「イエンツーユイ将軍っ!救援に来ました」
後ろからクロコノイドの兵士が、姿を見せた。
私はこの声で、すぐに理解した。味方の増援だ。
「ニギス、遅いではないか」
私の後ろには、ニギスが軍を率いていた。
茶色の鯨革鎧の老人クロコノイドは、絶妙の場面で姿を見せていた。
「すいません、敵が多くて遅れてしまいました」
「遅刻厳禁だ。だったら、今からしっかりと働いてもらうぞ」
「ははっ、老人使いが荒いですな。将軍は」
「それが、私の軍だ。ニギスよ」
すぐに私たちの前に、クロコノイド軍が加勢した。
ニギスが加勢した後、さらに戦況は変わった。
「それより、さらに軍の姿を感じますぞ」
「ああ、そうだな。ヤツが来たか」
私は、はっきりと感じた。
次にこの広場に来る部隊が、完全に戦況を一変する存在だと言うことを。
まもなくして、姿を見せたのは白い肌の種族。テンタルスの軍団だ。
「おおっ、やっているな」
サハギー将軍が率いるテンタルスの増援軍が、私たちの後ろから姿を見せていた。




