024
あたしは失敗した。
初陣で、功を焦った。
これならば、死んだ方がまだ良かったかもしれない。
だけど、ベージュは死んでいない。メルルーサも元気だ。
「なんで、なんで?」
イエンツーユイの傷だらけの背中が、とても大きく見えた。
それでも、半魚人の兵士を強引に蹴散らした。
黙って戦う将軍の背中を見て、あたしは唖然としてしまう。
「どうして?」
だけど、無言で戦うイエンツーユイ。
軍神として、いつも先頭で戦うイエンツーユイ将軍。
「馬鹿者」一言だけ呟いた、イエンツーユイ。
「ごめんなさい」あたしは謝った。
ここで謝っても、絶対に許されることじゃない。
あたしがやったことは、取り返しのつかないことだ。
あたしの失敗だ。
功を焦り、我を忘れたあたしが突っ込んでいった結果がこのザマだ。
軍から孤立してしまい、敵の罠にはまってしまった。
その結果、将軍の身を危険にさらしてしまった。
「やっと分かったか」
「ですが、将軍……そのキズは?」メルルーサは逆に、心配していた。
「私は大丈夫。ここを切り抜けるぞ」
「はい、将軍!」前を向いているイエンツーユイ。
あたしと、メルルーサに声をかけていた。
そのまま、将軍が半魚人軍を蹴散らした。
やはり、イエンツーユイ将軍は頼もしい。
剣で次々と、半魚人を倒していく。
その動きは、華麗で圧倒的だ。自分の前に敵がいなければ、見とれてしまうほどだ。
(やっぱり、将軍は凄い)
あたしもまた、半魚人軍を切り捨てた。
槍で襲ってくる半魚人の敵を、突き刺していた。
岩場の伏兵を、見える範囲蹴散らしていたイエンツーユイ将軍。
だけど、イエンツーユイは難しい顔を見せていた。
「これで、終わったよね?」
「そんなに、簡単にいかぬようだな」
周りには半魚人の兵士の死体が、いくつも浮いていた。
敵軍は沈静化していて、周りの軍は既に機能していない。
「だが、来るぞ」
「来るって?」
「敵の集団だ」
あたしたちがいる場所は、岩場が壁のように連なっているが少し広い空間が見えた。
ここは、広い場所。敵兵を隠す場所は無い。
だけどそれが、敵がこの広場におびき寄せる理由でもあった。
「どういうことですか?」メルルーサが、将軍に問う。
「そのままの意味だ、来るぞ」
イエンツーユイ将軍の言うとおり、前から大軍が姿を見せた。
そこにいたのは、半魚人の軍。数は千はいるだろうか。
マーマンとマーメイドの兵士が、珊瑚の槍をみな持っていた。
ただ、一人のマーマンを除いて。
そのマーマンは中央に陣取って、泳いで姿を見せていた。
小柄な体で、三角帽子に青いコート。兵士が着ている鎧とは、明らかに違う。
帽子を被ったマーマンは、じっとあたし達を見ていた。
そんなあたしの前にいた、イエンツーユイ将軍が口を開いた。
「あなたが、ビアス将軍ですか?」
イエンツーユイの言葉に、「ええ」とビアスは静かに答えた。




