023
――イラーク海域――
(BEJU’S EYES)
岩場の海域に、敵の伏兵。
対するベージュ達の軍は、スキュラの伏兵で消耗していた。
疲れの見えるあたし達の周りには、クロコノイドの兵士。
だけど、前に出てきた半魚人軍は元気だ。当たり前だ、戦っていないのだから。
「これってヤバイ?」
あたしの後ろには、双子の妹メルルーサもいた。
「うん、ヤバイね」
敵の数が、全然減っていかない。
戦争前に、イエンツーユイ様が言っていたのは敵軍が多いこと。
だから兵士の数と、まともにやり合ってはいけない。
それでも、敵の包囲にあってあたし達の軍はピンチだ。
前にいる総大将イエンツーユイは、動きを警戒しているのか敵の出方を見ていた。
だけど、敵軍も前に出ない。
こちらを見て、睨み合っていた。
「あれ、行かないのかな?」
「変だよね」あたしとメルルーサは、周囲を見回していた。
前のイエンツーユイは、睨みをきかせているが敵軍は後ろの岩場に次々と増えていた。
増援は、黙っていても増えていく。
「数が増えているね」
「うん」奥にいた伏兵の数が、増えているのが分かった。
それでも動かない、イエンツーユイ。
じれったいにらみ合いが、あたし達の前で続いていた。
「どうする?」
「あ、あそこ」メルルーサは、一つの岩場を見つけた。
そこには敵兵の姿が無い、だけど岩場が狭い。
敵の配置に、小柄なクロコノイドのあたし達だけが気づいた。
まだ、イエンツーユイもニギスは気づいていない様子だ。
「ねえ、ここで活躍したら……」
「うん、出世できるね」
「よし、行くか」
迷うこと無くあたしは、部隊から外れて泳ぎだした。
メルルーサもすぐに、あたしに追従して狭い岩場を目指して泳いでいく。
後ろの動きを感じた、イエンツーユイは二人の行動に気づいた。
「馬鹿者、何をしている!」
だけど、イエンツーユイの声を無視していた。
「二人で、ピンチを脱っして……」
「半魚人を倒すっ!」
大きな盾を持ったメルルーサも、岩場の影に入っていった。
既に、本隊から二人の姿が見えなくなっていた。
岩場を抜けると、隠れていた半魚人がいた。
だけど、不意を打たれたのか半魚人はあたしらから逃げていく。
「どけっ、お前ら!」
あたしは、半魚人を追いかけて岩場を泳いでいく。
敵軍の半魚人は、ちりぢりになって逃げていた。
(狙いは、回り込んで半魚人軍を後ろから叩く)
敵を追いかけて、あたしメルルーサと泳ぐ。
二人とならば、どこまでも泳いでいけた。
あたし達は、弱くない。強いことをイエンツーユイ将軍に、見せつけるんだ。
まもなくして、さっきスキュラと戦った戦場の裏に回っていた。
だけど岩場が、壁になっていた。
「ベージュ、あれ!」
すると、さっきまで泳いできた道は半魚人に塞がれていた。
背後には、さっきのスキュラが戦っていた戦場だ。
だけど岩場柱が、壁になって邪魔をしていた。
「こっちは、抜けられないか」
間もなくして、戦場の裏である岩場に辿り着いた。
だけど、それは罠だった。
背後には壁、目の前には半魚人マーマンの兵士が六人。
槍を持ったマーマンに、完全に囲まれてしまった。
「ならば、ベージュの強さで」
だけど、マーマンが槍であたしのことを刺してきた。
逃げ場が無い中でも、小さな体で回避した。
「これって……」
「マズイよね?」メルルーサも、必死に盾で防御をしていた。
しかし、敵のマーマンが六人。逃げ場も無い狭い場所だ。
小さな体なので、足を使って槍を回避はできるがスペースが無い。
「消えろ、ガキ共」大きな体のマーマン兵士が迫る。
はっきりと感じた、死の恐怖。
(やばい、負ける。死にたくない……)
こんな雑魚に、最強クロコノイドのベージュ達は死ぬの。
名も無きマーマンの槍に、ベージュ達は殺されるの。
だけど、マーマンの背後から一人の影が近づいてきた。
それと同時に、マーマンを吹き飛ばした。
近づく影に反応したマーマンだけど、背後から迫る影に対応できない。
壁になった黒い影は、一人のクロコノイド。
深紅の鱗のクロコノイドが、壁になっていた。
「イエンツーユイ将軍!」
あたしは、驚いた。
キズらだけのイエンツーユイ将軍が、無表情でこの岩場に来ていた。




