022
――水中都市ルビア:ルビア城・通路――
(SAHAGEY’S EYES)
戦い疲れた俺は、イラーク海域から戻ってきていた。
ルビア城は、水岩石と珊瑚の壁で彩られていた。
ルビア城というのは、イエンツーユイが軍を率いて陥落させた元半魚人の城。
ここには、マーマンやマーメイドが多く住んでいた。
長いこと住んでいるが、その全てが敗戦と共に生活が一変した。侵略したクロコノイドの奴隷になっていた。
奴隷の半魚人の働きぶりを眺めながら、テンタルスの俺は入城した。
そんなルビア城に戻った俺を、一人のクロコノイドが出迎えた。
「お帰りなさいませ、サハギー大都督」
「ああ、戻ったぞ。ナヨシ左将軍だっけか?」
出迎えたのが、灰色鱗のクロコノイドだ。
青いコートを着ていて、目にはメガネをかけている知的なナヨシ将軍だ。
皇帝エツに言われて、ナヨシは留守番をしていた。
随分と、偉そうな名前だけの将軍様だ。ナヨシを軽蔑の目で、俺は見ていた。
それでも、ナヨシ左将軍は満面の笑みで出迎えた。
「サハギー将軍は、イラークの攻略は?」
「まだ、道半ばだ。休憩がてら、城に戻ってきた。
俺の待機兵は、訓練場か?」
「はい、テンタルスは訓練場にいます。
そういえば敵の伏兵は、どうだったですか?」
「岩場が多いからな、兵士を隠し放題だろうな。
実際に、半魚人の伏兵が、あちこちに隠れていた」
俺は歩きながら、訓練場を目指す。
ナヨシも、俺の金魚の糞のように後ろを歩いてきた。
「イエンツーユイ将軍は?」
「そっちは、俺とルートが違う。戦場で、出会ってもいない。
最も敵軍が、岩場にどれぐらい隠しているか分からない」
烏賊足四本で地面を歩きながら、ナヨシ将軍に適当に話を合わせていた。
話をしながら、俺は心の中で軽蔑をしていた。
(コイツは表に出て、戦うことはしないんだろうな)と。
俺は、好きじゃ無いタイプだ。いや、はっきり言って嫌いな奴だ。
だけど、俺は大人だ。適当に話を合わせて、訓練場の前に辿り着いた。
「ナヨシ将軍は、ここで戦況を見ていたんだろう。現在は、どうなんだ?」
「それが……ですね」難しい顔を、見せたナヨシ。
「岩場が予想以上に乱雑にあって、状況が分かりません」
「は?」俺は首をかしげた。
「とにかく敵の伏兵は、どこに隠れているのか分かりません」
「あっそ」ナヨシから、有益な情報は得られない。
だが、それもビアスの作戦だろう。
天才のビアスは、情報操作も上手と言うことか。
遠隔で、兵を自在に操れる力は驚異だ。
水弾魔術でも無く、水流魔術の力を使うでも無く、知謀だけで戦える天才。
本当にどんな頭の中をしているのだろうか、脳みそを調べたくなる程だ。
「やはり敵に回すのは、嫌な相手だ。ビアス・トンプソン」
「ナヨシ殿、それで一つ話があるのですが」
「なんだ?」
「現在、イエンツーユイ様が半魚人の同盟軍スキュラと戦っていました。
ですが、半魚人軍が包囲をしております。数は、三千ほどとの話です。
それに不穏な動きとして、イラークのビアス軍が動いたと報告がありました。
イエンツーユイ将軍とはいえ、勝てるかどうか……」
「は?なんだ、それは?」ナヨシがオロオロしている中、俺は憤った顔を見せた。
その後、すぐに落ち着いた顔に戻った。
(お前も将軍なら、お前が助けにいけよ!)
心の中では、怒りがわき上がる。だけど、俺は大人だ。
努めて冷静を、装っていた俺。
(それにしても、慎重派のビアスが動いたのか)
ナヨシの弱気より、こっちの方が驚きだ。
「まあ、アイツなら大丈夫だとは思う。
軍神イエンツーユイは、少なくとも一対一勝負なら深海で一番強い。
俺はその強さを、間近で見ていたから知っている」
「だが、イエンツーユイ将軍は女ですよ」なぜか反論するナヨシ。
「それは関係ないだろ!」
俺は、適当にナヨシをあしらっていた。
そう思いながらも、俺は冷静に考えていた。
(ここでビアス将軍とイエンツーユイがどちらかが消えれば、俺たちの利益にもなる。
天才的な頭脳と、女にしておくのは惜しい軍神の武力。
さて、どちらが消えるか楽しみではあるが……)
などと、不敵に俺は笑っていた。だが、俺は一つの考えが合った。
それと同時に、俺は訓練所の扉を開いた。
扉を開けると、訓練をしている俺の同士……テンタルス兵が待っていた。
待機兵のテンタルスは、戦いを待ちわびていた。
「ナヨシ、ちょっくら遊びに行ってくるわ」
「サハギー将軍」ナヨシが呼ぶも、俺は既に動いていた。
再び、俺はイラーク海域の方に軍を率いていた。




