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水の中の戦争  作者: 葉月 優奈
二話:テンタルスの死神将軍
22/56

022

――水中都市ルビア:ルビア城・通路――

(SAHAGEY’S EYES)

戦い疲れた俺は、イラーク海域から戻ってきていた。

ルビア城は、水岩石と珊瑚の壁で彩られていた。


ルビア城というのは、イエンツーユイが軍を率いて陥落させた元半魚人の城。

ここには、マーマンやマーメイドが多く住んでいた。

長いこと住んでいるが、その全てが敗戦と共に生活が一変した。侵略したクロコノイドの奴隷になっていた。

奴隷の半魚人の働きぶりを眺めながら、テンタルスの俺は入城した。


そんなルビア城に戻った俺を、一人のクロコノイドが出迎えた。

「お帰りなさいませ、サハギー大都督」

「ああ、戻ったぞ。ナヨシ左将軍だっけか?」

出迎えたのが、灰色鱗のクロコノイドだ。


青いコートを着ていて、目にはメガネをかけている知的なナヨシ将軍だ。

皇帝エツに言われて、ナヨシは留守番をしていた。

随分と、偉そうな名前だけの将軍様だ。ナヨシを軽蔑の目で、俺は見ていた。

それでも、ナヨシ左将軍は満面の笑みで出迎えた。


「サハギー将軍は、イラークの攻略は?」

「まだ、道半ばだ。休憩がてら、城に戻ってきた。

俺の待機兵は、訓練場か?」

「はい、テンタルスは訓練場にいます。

そういえば敵の伏兵は、どうだったですか?」

「岩場が多いからな、兵士を隠し放題だろうな。

実際に、半魚人の伏兵が、あちこちに隠れていた」

俺は歩きながら、訓練場を目指す。

ナヨシも、俺の金魚の糞のように後ろを歩いてきた。


「イエンツーユイ将軍は?」

「そっちは、俺とルートが違う。戦場で、出会ってもいない。

最も敵軍が、岩場にどれぐらい隠しているか分からない」

烏賊足四本で地面を歩きながら、ナヨシ将軍に適当に話を合わせていた。


話をしながら、俺は心の中で軽蔑をしていた。

(コイツは表に出て、戦うことはしないんだろうな)と。

俺は、好きじゃ無いタイプだ。いや、はっきり言って嫌いな奴だ。

だけど、俺は大人だ。適当に話を合わせて、訓練場の前に辿り着いた。


「ナヨシ将軍は、ここで戦況を見ていたんだろう。現在は、どうなんだ?」

「それが……ですね」難しい顔を、見せたナヨシ。


「岩場が予想以上に乱雑にあって、状況が分かりません」

「は?」俺は首をかしげた。

「とにかく敵の伏兵は、どこに隠れているのか分かりません」

「あっそ」ナヨシから、有益な情報は得られない。

だが、それもビアスの作戦だろう。


天才のビアスは、情報操作も上手と言うことか。

遠隔で、兵を自在に操れる力は驚異だ。

水弾魔術でも無く、水流魔術の力を使うでも無く、知謀だけで戦える天才。

本当にどんな頭の中をしているのだろうか、脳みそを調べたくなる程だ。


「やはり敵に回すのは、嫌な相手だ。ビアス・トンプソン」

「ナヨシ殿、それで一つ話があるのですが」

「なんだ?」

「現在、イエンツーユイ様が半魚人の同盟軍スキュラと戦っていました。

ですが、半魚人軍が包囲をしております。数は、三千ほどとの話です。

それに不穏な動きとして、イラークのビアス軍が動いたと報告がありました。

イエンツーユイ将軍とはいえ、勝てるかどうか……」

「は?なんだ、それは?」ナヨシがオロオロしている中、俺は憤った顔を見せた。

その後、すぐに落ち着いた顔に戻った。


(お前も将軍なら、お前が助けにいけよ!)

心の中では、怒りがわき上がる。だけど、俺は大人だ。

努めて冷静を、装っていた俺。


(それにしても、慎重派のビアスが動いたのか)

ナヨシの弱気より、こっちの方が驚きだ。


「まあ、アイツなら大丈夫だとは思う。

軍神イエンツーユイは、少なくとも一対一(タイマン)勝負なら深海で一番強い。

俺はその強さを、間近で見ていたから知っている」

「だが、イエンツーユイ将軍は女ですよ」なぜか反論するナヨシ。

「それは関係ないだろ!」

俺は、適当にナヨシをあしらっていた。

そう思いながらも、俺は冷静に考えていた。


(ここでビアス将軍とイエンツーユイがどちらかが消えれば、俺たちの利益にもなる。

天才的な頭脳と、女にしておくのは惜しい軍神の武力。

さて、どちらが消えるか楽しみではあるが……)

などと、不敵に俺は笑っていた。だが、俺は一つの考えが合った。


それと同時に、俺は訓練所の扉を開いた。

扉を開けると、訓練をしている俺の同士……テンタルス兵が待っていた。

待機兵のテンタルスは、戦いを待ちわびていた。


「ナヨシ、ちょっくら遊びに行ってくるわ」

「サハギー将軍」ナヨシが呼ぶも、俺は既に動いていた。

再び、俺はイラーク海域の方に軍を率いていた。



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