021
ベタ参謀の報告だと、同盟軍スキュラの戦力は千程度と推測されていた。
数の上では、私たちの部隊の方が多い。
だが、これは半魚人軍の兵士八千では無い。
ましてやスキュラの強さは、半魚人二人分の強さと言われていた。
待ち伏せしたスキュラの軍勢が、伏兵として私たちを阻んできた。
数は少ないが、個々の強さならばスキュラが上だ。
上半身の女と下半身の生物で、成り立つスキュラ。
つまり二人を、同時に相手にしているような強さだ。
スキュラとの戦いは、小一時間ほど続いた。
狭い岩場で、戦いにくい場所での戦い。
それでも数で勝る私の軍は、徐々にスキュラの軍を追い詰めていく。
(こんなところで、終わるわけにはいけない)
目指す相手は、スキュラの伏兵ではない。
イラーク海域の制圧であり、イラークの支配。
そのためにも敵の援軍であるスキュラを、さっさと蹴散らして先に進まなければいけない。
だが劣勢の中でも、スキュラは粘っていた。
相手は、オコゼヘッドの一種類だけ。
だが魔法と、オコゼの口による連係攻撃に思わぬ苦戦をしていた。
「なぜ、お前達は戦う?」
剣を振るいながら、私は戦っていた。
数が減っても、オコゼヘッドは立ち向かってくる。武人としては見事だ。
魔法と攻撃ができても、私の敵ではない。
私の剣に、斬られて海中に浮かぶスキュラ。
死して浮かぶスキュラが、私の周りを漂っていた。
「頃合いか、引け!」
急に一人のオコゼヘッドが、声を出す。
リーダー格と思われるオコゼヘッドの声に反応して、他のオコゼヘッドが一斉に動き出す。
撤退の動きだ、オコゼヘッドが背を向けて岩場に逃げ出した。
「イエンツーユイ様、オコゼヘッドが逃げていきます」
眺めるニギスが、逃げるオコゼヘッドを見ていた。
岩場の方に、撤退する動きを見て私は周囲を見回した。
周囲を見回したときに、私は何かを感じた。
「どうやら奴らは、役目を果たして帰るようだ」
「イエンツーユイ様、どういうことですか?」
「既に敵兵が、私たちを取り囲んでいる」
私は、周囲に目を配っていた。
少し離れた岩場には、既に半魚人が隠れていた。
私は、相手の殺気を水中でも感じていた。
どうやらスキュラとの戦い中に、半魚人の兵士が背後に回り込んだようだ。
間もなくオコゼヘッドと入れ替わるように、半漁人マーマン兵が姿を見せていた。
「お前達は、既に取り囲まれているのだ。
さあ、降伏するなら今のうちだぞ、イエンツーユイ将軍?」
不敵に笑う上半身が鯨革鎧のマーマン。
下半身は藍色の鱗をした若いマーマンの兵士が、道を阻まれるように現れた。
数は三千、包囲をされて一気に窮地に立たされた私たち。
これが敵……ビアスの用兵術だと納得していた。
「嫌らしいな、敵の戦術は」
「全くです」
私とニギスは、話しながら敵の伏兵を見ていた。
周囲にも、千の兵士だ。数はまだ上だけど、包囲されているので分が悪い。
だけど私の後ろでは、一人の兵士が不穏な動きをしていることを、私は気づいていなかった。




