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私たちの目の前に出てきたのは、蛇女族だ。
スキュラには、なぜか女しか存在しない。女性の上半身をして、下半身は蛇に限らず様々な生物と同化した種族。
私たちの前を阻むのは、下半身がオコゼのスキュラ。
つまり、半魚人と異なり頭が二つある種族だ。
スキュラは、現在半魚人と同盟を結んでいた。
ここに現れたスキュラは、つまりは私たちの敵だ。
オコゼの頭を持ったスキュラは、見える範囲で二十人ほど。
スキュラの強さは、半魚人二人分の強さと言われていた。
一気に緊迫感が増した、岩場の戦場。
「オコゼヘッドが、私たちの軍を止めるつもり?」
「お前らクロコノイドを、ここで抹殺する」
「邪魔をするなら、遠慮はしない」
クロコノイドの軍を背に、私は前に出ていた。
オコゼヘッドの後ろにも、スキュラの兵士達だ。やはり、全ての下半身がオコゼだ。
上半身のスキュラは、白いフリルのシャツを着ているが武器は持っていない。
見た目は丸腰だが、戦い方は決して侮れない。
「かかれっ!」先頭にいたオコゼヘッドが、指示を出してきた。
それと同時に、オコゼヘッドが私たちの方に向かってきた。
迷うこと無く、私は剣を抜いてオコゼヘッドの方を指し示す。
「敵を全て蹴散らせ!」
私の声に反応した、クロコノイドが動き出した。
戦争の開幕だ。早速私の前に、一人のオコゼヘッドが迫ってきた。
向かってきたスキュラは、青い髪が長い。
手には長く爪が伸びて、口にも牙が見えた。
下半身の大きなオニオコゼが、口を開けて噛みつこうとしてきた。
同時に上半身の女性が口元で詠唱をしていた、魔法だ。
種族的に知能がとても高いスキュラは、武器を持たない。
武器を持たない代わりに、下半身の武器と上半身の魔法で攻撃をしてきた。
大体のスキュラは、水弾魔術を会得して使えるからだ。
当然私の目の前のスキュラも、右手では既に水の弾丸が発生していた。
水弾魔術の、水弾丸だ。
魔法の発生源は、両手にある爪。
爪が魔法の発動先になっていて、そこから水の弾丸を発生させた。
そのまま、スキュラは私に向かって水弾を飛ばしてきた。
オコゼの頭で逃げる位置を予測して、少し離れた場所に水弾を放ってきた。
だけど、私は冷静だ。
その場を動かないで、二本の剣を上手く使い分けた。
右手で持つ剣でオコゼの口を、左手で持つ剣でスキュラの首を狙う。
そのまま、首を跳ねたオコゼヘッドは意識を失って水中に漂っていた。
「私に殺されたいヤツは、来るがいい」
向かってくるオコゼヘッドを、私は挑発した。
私の圧倒的な強さに、オコゼヘッドは一瞬怯んだ。
だけど、戦場で怯めばすぐに他の軍が動く。
そして、私も遠慮はしない。
怯えるオコゼヘッドに、私は剣を持ったまま泳いでいた。
エラのある足の泳ぎで、私は間合いを詰めた。
驚くオコゼヘッドは、オコゼの頭で噛みつこうとする。
だけど、そんな慌てた攻撃は当たるはずも無い。
冷静な顔で、私はすぐに剣を振るう。
オコゼの頭の攻撃を、見切った私はそのままオコゼの下からスキュラの体に剣を突き刺した。
同時にもう一本の剣で、スキュラの上半身の体を斬りつけた。
あっという間に、オコゼヘッドは海の中を漂っていた。
「す、凄いですね」メルルーサは、盾を見ながら私の戦いを見ていた。
「ベージュ達も、負けていられないわよ」
私の戦いぶりを見ていた双子は、触発されて動いていた。
珊瑚槍を持ったベージュと、大きな盾のメルルーサだ。
見た目は小さな双子のクロコノイドに、迫ってきた一人のオコゼヘッド。
「ここは、ガキの来るところじゃないんだよ」
オコゼヘッドが、ベージュ達に迫ってきた。
迫ったが、すぐに反応したのがメルルーサだ。
大きな盾を構えて、オコゼヘッドに向かっていく。
「やらせない」盾を持ったメルルーサは、強気だ。
突き出されたメルルーサの大きな盾が、オコゼの口を弾き返す。
だがオコゼヘッドは、スキュラだ。上半身と、下半身が別に動くことができた。
上半身の女性の体が、魔法の詠唱を始めていた。
「邪魔なことを、ガキめ……」
「ベージュ達を、舐めないで!」
そのまま、ベージュは迷うこと無く珊瑚の槍をスキュラの胸を貫いた。
子供のクロコノイドとは思えないほど、力強い槍の一撃でオコゼヘッドを倒していた。




