018
俺の得意技は、関節技。
全てのテンタルスは、この戦い方が基本的だ。
武器を扱うほど、テンタルスの長い手は器用にできていない。
六本も手があるので、操ろうとするにも脳が追いつかないのが理由だ。
だからテンタルスは、武器を使うのをやめた。ただ一人を覗いては。
「雑魚の死体は、つまらない」
首が折れたマーマンが、俺の前に漂っていた。
ここは水の中、死んだヤツはしばらく水中を彷徨っていた。
ふわふわと彷徨う死体を、俺はつまらない顔で眺めていた。
「お前ら、とっととこいつらを仕留めるぞ!」
「はい、サハギー様」俺は檄を飛ばした。
周りのテンタルスの兵士も、次々とマーマンやマーメイドの兵士を関節で絞め殺していた。
だが、戦況は互角だ。
こちらの軍は五千ではなく、三千だ。
二千の補充兵はルビアに残していた。
だが、敵であるマーマンとマーメイドの数が、減っていかない。
岩場から、次々と小出しで半魚人の増援が出てきた。
「おかしいな」
二十人ほど半魚人を絞め殺した俺も、さすがに気になっていた。
狭い岩場の戦場で、戦場で戦える兵士の数は限られていた。
それでも、次から次へと半魚人が行く手を阻む。
(キリがないな。これがマーマンの数の暴力か)
マーマンの兵士が、奥の岩場からすぐに加勢してきた。
敵の数は減らないし、こちらのテンタルス軍の兵士が疲れていた。
「ここは、絶対に通さない。ビアス様の為に」
再び出てくる、似たような金属鎧のマーマンだ。
マーマンの兵士が、軍勢を率いてこちらに向かってきた。
狭い岩場だけど、後ろにもかなりの兵士がいた。
「まだ、増援かよ」
「どうされます?サハギー将軍」
テンタルスの副官が、俺に指示を求めてきた。
副官の男も、疲れた様子が見えた。
俺は周囲を見回す。
周りのテンタスルは疲労が濃い。海にはテンタルスの同士の死体も漂っていた。
それでも次から出てくるマーマンを見て、俺は苦々しい顔で決意した。
「さすがに、これ以上の被害は出せない。一旦撤退するぞ!」
「ですがサハギー様、ここの戦線はどうされます?
ベタ様の指示では、ここの戦線を維持しないと戦況的に厳しくなるかと……」
「この地を取らなくても、なんとかなるだろう。
別働隊には、俺たちの軍神がいるんだ。
ここでは、無駄な消耗戦をするべきじゃ無い
引きつけて、兵力を分断させただけで俺たちの仕事は既に完了している」
「了解しました」
「ずらかるぞ!」俺が叫んだ。
テンタルスの副官に声をかけて、俺達は撤退を開始していた。
逃げる俺の目の前には、マーマンの死体とテンタルスの死体が、水中に漂っていた。




