017
狭い岩場で戦いは続く。
若いマーマンは、この俺に真っ直ぐに向かっていく。
持っている武器は、棘珊瑚の槍。一般的に半魚人が使う武器だ。
だけど、俺は攻撃を仕掛けない。
こう見えても、俺はテンタルスの中で王に次ぐ最高位のサハギー大都督。
俺の姿を見ただけで、普通の敵は震え上がるがコイツにはそれが無かった。
それとも俺の事を、知らないのだろうか。
(少し様子を見るか)
勇猛果敢に槍を握って攻めてきたマーマンに、俺は後ろに下がった。
真っ直ぐな槍は、簡単に避けられた。
それでも、諦めないマーマンは槍を突き立ててきた。
休むこと無く、俺に対して攻撃をしていた。
「ここだっ!」下半身の魚を使って泳ぎながら、距離を詰めるマーマン。
だけど四本ある足を使い、岩場を利用しながらあり得ない動きで攪乱していた。
俺の足は四本あり、細かな動きの泳ぎの調整ができたのだ。
武器は何も持っていないが、手を使い方向転換をして槍の攻撃を全部避けていく。
「ちょこまかと逃げているな!戦え!」
「そんなまっすぐな槍で、俺のことを殺せないぜ」
「くそっ!」目の前のマーマンは、純粋に悔しがっていた。
だが俺はまだ、マーマンに攻撃を一切していない。
ひたすらに、マーマンの槍を回避していた。
俺は白い六本の手に武器を、一つも持っていないのだ。
「お前、戦う気があるのか?」マーマンが槍の攻撃を、避けられて疲れていた。
「戦う?違うな。
俺は殺しが好きだ。圧倒的な殺しがな。聞くがお前……初戦か?」
「それがどうした?」
「弱い、殺すに値しない。実力差がありすぎる。
今ここで逃げるのならば、見逃してやってもいいぞ」
「ふざけるな!」怒った顔に変わった、マーマン。
そのまま、棘珊瑚を両手でグルグルと回し始めた。
「ボクの奥義を見せてやる。秘技……」
だけど俺の手は静かに、槍を持つマーマンに対して伸ばした。
触手のように長く伸びた手が、マーマンの二本の手と下半身の魚の尾びれと、首に巻きついてきた。
「これは……」
「テンタルスの戦い方を、お前に教えてやる。
俺たちテンタルスは、手は多いが、手の指が二本しか無い。
だから、この戦い方が生まれた。マーマンにもあるだろう。体を作る骨が」
「まさか……」
「関節技」白い手が、腰に巻きついていた。
若いマーマンが引き離そうと体を、必死にもがく。
それでも、腰に手が回っていて動かない。
手も二本の白い触手のような手が、あり得ない方向に相手の体を曲げていく。
極めつけは、首だ。首に二本の白い手が絡んでいて、首を曲げていた。
「お、おまえ……」
「じゃあな」俺の白い腕が、マーマンの首をしっかりと折っていた。
それと同時に、白い腕に包まれたマーマンは二度と動かなくなった。




