012
シーワーム、それは深海で暴れる魔物。
光る砂から少し離れたところは、闇の世界が存在していた。
闇の世界に住む、深海のモンスターだ。
大きな体で、体長は六メートルほどの巨体。
獰猛で、攻撃性も強い。普段は光の砂に出てくることがない。
闇のモンスターは、私たちポセイドンの種族に対して敵対的だ。
海神ポセイドンに祝福されずに、恨んでいると思われていたからだ。
大きなシーワームを黙認した私は、すぐにソリの手すりに手をかけた。
飛び出す私に呼応して、護衛の兵士も出ていく。
「お前たちは、ここで待っていろ!」
ニギスと、双子の新兵に声をかけて、私は飛び出て行く。
勇ましい私の腰には、二本の金属剣。
ゴンスイ鍛冶職人が打ち直した二本の剣を携え、ソリの外に出た。
ソリを引っ張る巨大な鯨は、怯えていた。
私の前には、同時に出てきた衛兵が珊瑚の剣を持っていた。
「すぐに仕留めて、先を急ぐぞ!」
「イエンツーユイ様も、戦われるのですか?」
「無論だ」と短く言って、二本の剣を抜いた。
両手で剣を扱い、鱗で覆われた足で泳いでいた。
えらのついた赤い鱗の足をバタつかせて、シーワームの距離を詰めた。
近づくと感じる大きなシーワーム、私よりも体長が何倍もあった。
動くだけで強い水流が起こり、泳ぐ私の体を流していく。
「イエンツーユイ様!」声をかける兵士。
それでも、流れの中を力強く泳いで耐えた私。
すぐに、動く巨体に剣で斬りつけた。
(さすがに、体力はあるか)
二本の剣で斬りつけたシーワームは、苦しんでいた。
それでも、まだまだ体力が有り余っていた。
シーワームが強引に体を動かして、水流を起こして私を引き離す。
「ならば、我らが!」後ろの兵士達も動いた。
泳いで、シーワームに近づくが水流の流れが激しくて兵士達は近づけない。
「くっ、なんという流れだ」
「これでは、近づけない」兵士の悔しそうな声が聞こえた。
「お前達は、ソリを守れ!」
「はっ!」兵士は近づくのを諦めて、ソリの方に槍を身構えた。
それを見たワームが、ソリの方に突っ込んできた。
巨体をうねらせて、突っ込んできた。
「させるか!」
剣を構えて泳ぐ私が、両手に持つ剣をクロスさせて割り込んだ。
ワームの頭に命中し、ワームの頭を切りつけた。
痛がる巨大なワームは、攻撃を受けて私に体を向けてきた。
ワームはそのまま、私に向けて突進を続けた。
小さな私の体ごと、巨大で吹き飛ばそうとした。
至近距離の突進、ワームがそのまま私に向かってきた。大きな体の、強烈な威圧感。
「ちっ」私は、体を反らせてワームの突進を避けた。
体が柔らかい私には、それが可能だ。
咄嗟にワームの突進の力を避けていた。
だけど、水流が強く小さな私の体を流していた。
(かなり、タフな戦闘になるな)
目でシーワームの動きを追う。
「将軍、大丈夫ですか?」
「まだ、来るぞ」
力を外に逃がしたワームだが、巨漢に似合わず大きく円を描いて方向転換した。
私は、冷静にワームの動きを見ていた。
巨体が動く度に水流に流されて、バランスが取りづらい相手だ。
「これは骨の折れる相手だな」ボソっと私は呟く。
「なら、ベージュ達に任せればいい」
勢いよく、ソリから出てきたのはあの双子だ。
ベージュとメルルーサが手に、武器を持って現れた。
ベージュの持っている武器は、長い棘珊瑚の槍。
メルルーサが持っているのが、水岩石を加工した大きな金属の盾だ。
「お前達では、邪魔だ!下がれ!」
「だからこそ、ベージュ達の出番でしょ」
ベージュとメルルーサが、自信たっぷりに私の前に出た。
私の前にいる小さな双子に対し、巨大なワームが突進してきた。
強い水の流れが、ワームを中心に巻き起こった。
流されそうなベージュを、盾を構えたメルルーサがしっかりと手をつかんで引き戻す。
自分の体よりも大きな盾を構えて、ワームの突進に備えた。
そして、ワームがメルルーサに盾に激しくぶつかった。
ぶつかったワームの強い一撃だが、メルルーサの盾がビクともしない。
「ベージュっ!」
「うん」メルルーサの声に反応して、ワームの頭に向けて泳いでいく。
すぐさま盾に頭をめり込ませたワームに対し、棘珊瑚の槍を何度も突き刺した。
一発一発、棘珊瑚の槍を突き刺すベージュ。
ギャアアアッ、と叫ぶワーム。
盾で動かないワームの頭に、ベージュの槍が何度も刺さった。
必死に暴れるワームは、ベージュを振り下ろそうとしたがベージュの小柄な体が振り落とされない。
槍を突き刺して、耐えながら何度も珊瑚の槍を刺していた。
数回刺した後、ワームの動きが徐々に弱まっていく。
一分も経たないうちに、ワームの動きがぐったりしていた。
それでも、ベージュはしばらく槍を何度も刺していた。
「ベージュ、終わっているよ」
メルルーサが、槍を何度も刺すベージュに声をかけた。
ベージュも、我に返ったのか動かないワームの頭でじっと見ていた。
「あっ、ほんとだ」
驚くほど、見事な手際の双子を私は感心して見ていた。
「すごいな、お前達……」
「見た見た、イエンツーユイ様?ベージュ達の戦い」
「ふう、疲れました」
ベージュは胸を張り、メルルーサはほっとした顔で持っていた武器と盾を背中に背負う。
ベージュとメルルーサの倒したシーワームもまた、水中を漂う大きな屍になっていた。




