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水の中の戦争  作者: 葉月 優奈
一話: クロコノイドの皇帝
12/56

012

シーワーム、それは深海で暴れる魔物。

光る砂から少し離れたところは、闇の世界が存在していた。

闇の世界に住む、深海のモンスターだ。


大きな体で、体長は六メートルほどの巨体。

獰猛で、攻撃性も強い。普段は光の砂に出てくることがない。

闇のモンスターは、私たちポセイドンの種族に対して敵対的だ。

海神ポセイドンに祝福されずに、恨んでいると思われていたからだ。


大きなシーワームを黙認した私は、すぐにソリの手すりに手をかけた。

飛び出す私に呼応して、護衛の兵士も出ていく。


「お前たちは、ここで待っていろ!」

ニギスと、双子の新兵に声をかけて、私は飛び出て行く。

勇ましい私の腰には、二本の金属剣。

ゴンスイ鍛冶職人が打ち直した二本の剣(カリム&パッション)を携え、ソリの外に出た。


ソリを引っ張る巨大な鯨は、怯えていた。

私の前には、同時に出てきた衛兵が珊瑚の剣を持っていた。


「すぐに仕留めて、先を急ぐぞ!」

「イエンツーユイ様も、戦われるのですか?」

「無論だ」と短く言って、二本の剣を抜いた。

両手で剣を扱い、鱗で覆われた足で泳いでいた。

えらのついた赤い鱗の足をバタつかせて、シーワームの距離を詰めた。


近づくと感じる大きなシーワーム、私よりも体長が何倍もあった。

動くだけで強い水流が起こり、泳ぐ私の体を流していく。


「イエンツーユイ様!」声をかける兵士。

それでも、流れの中を力強く泳いで耐えた私。

すぐに、動く巨体に剣で斬りつけた。


(さすがに、体力はあるか)

二本の剣で斬りつけたシーワームは、苦しんでいた。

それでも、まだまだ体力が有り余っていた。

シーワームが強引に体を動かして、水流を起こして私を引き離す。


「ならば、我らが!」後ろの兵士達も動いた。

泳いで、シーワームに近づくが水流の流れが激しくて兵士達は近づけない。


「くっ、なんという流れだ」

「これでは、近づけない」兵士の悔しそうな声が聞こえた。

「お前達は、ソリを守れ!」

「はっ!」兵士は近づくのを諦めて、ソリの方に槍を身構えた。

それを見たワームが、ソリの方に突っ込んできた。

巨体をうねらせて、突っ込んできた。


「させるか!」

剣を構えて泳ぐ私が、両手に持つ剣をクロスさせて割り込んだ。

ワームの頭に命中し、ワームの頭を切りつけた。

痛がる巨大なワームは、攻撃を受けて私に体を向けてきた。


ワームはそのまま、私に向けて突進を続けた。

小さな私の体ごと、巨大で吹き飛ばそうとした。

至近距離の突進、ワームがそのまま私に向かってきた。大きな体の、強烈な威圧感。


「ちっ」私は、体を反らせてワームの突進を避けた。

体が柔らかい私には、それが可能だ。

咄嗟(とっさ)にワームの突進の力を避けていた。

だけど、水流が強く小さな私の体を流していた。


(かなり、タフな戦闘になるな)

目でシーワームの動きを追う。


「将軍、大丈夫ですか?」

「まだ、来るぞ」

力を外に逃がしたワームだが、巨漢に似合わず大きく円を描いて方向転換した。

私は、冷静にワームの動きを見ていた。

巨体が動く度に水流に流されて、バランスが取りづらい相手だ。


「これは骨の折れる相手だな」ボソっと私は呟く。

「なら、ベージュ達に任せればいい」

勢いよく、ソリから出てきたのはあの双子だ。

ベージュとメルルーサが手に、武器を持って現れた。

ベージュの持っている武器は、長い棘珊瑚の槍。

メルルーサが持っているのが、水岩石を加工した大きな金属の盾だ。


「お前達では、邪魔だ!下がれ!」

「だからこそ、ベージュ達の出番でしょ」

ベージュとメルルーサが、自信たっぷりに私の前に出た。


私の前にいる小さな双子に対し、巨大なワームが突進してきた。

強い水の流れが、ワームを中心に巻き起こった。

流されそうなベージュを、盾を構えたメルルーサがしっかりと手をつかんで引き戻す。

自分の体よりも大きな盾を構えて、ワームの突進に備えた。


そして、ワームがメルルーサに盾に激しくぶつかった。

ぶつかったワームの強い一撃だが、メルルーサの盾がビクともしない。


「ベージュっ!」

「うん」メルルーサの声に反応して、ワームの頭に向けて泳いでいく。

すぐさま盾に頭をめり込ませたワームに対し、棘珊瑚の槍を何度も突き刺した。


一発一発、棘珊瑚の槍を突き刺すベージュ。

ギャアアアッ、と叫ぶワーム。

盾で動かないワームの頭に、ベージュの槍が何度も刺さった。

必死に暴れるワームは、ベージュを振り下ろそうとしたがベージュの小柄な体が振り落とされない。


槍を突き刺して、耐えながら何度も珊瑚の槍を刺していた。

数回刺した後、ワームの動きが徐々に弱まっていく。

一分も経たないうちに、ワームの動きがぐったりしていた。

それでも、ベージュはしばらく槍を何度も刺していた。


「ベージュ、終わっているよ」

メルルーサが、槍を何度も刺すベージュに声をかけた。

ベージュも、我に返ったのか動かないワームの頭でじっと見ていた。


「あっ、ほんとだ」

驚くほど、見事な手際の双子を私は感心して見ていた。


「すごいな、お前達……」

「見た見た、イエンツーユイ様?ベージュ達の戦い」

「ふう、疲れました」

ベージュは胸を張り、メルルーサはほっとした顔で持っていた武器と盾を背中に背負う。

ベージュとメルルーサの倒したシーワームもまた、水中を漂う大きな屍になっていた。



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