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水の中の戦争  作者: 葉月 優奈
一話: クロコノイドの皇帝
11/56

011

――ルビア海域・ホエールスレイ内――

翌朝、私の姿は『ホエールスレイ』の中にあった。

大きな深海鯨(キングホエール)が引くソリ……ホエールスレイは、深海でよく使われる移動手段だ。

八人乗りの中型ホエールスレイは、乗り心地は安定していた。

深海鯨の泳ぐ速度は、半魚人やクロコノイドよりも倍の速さで泳ぐ。


御者が深海鯨を操り、ルビアの都市を出てルビア海域を進んでいく。

屋根のついたソリ。

ソリはガラス窓で、見える景色は光の砂と海藻ワカメの群生地だ。

光の砂にユラユラ揺れるワカメの光景は、幻想的だ。

ここを数日前は、戦場で戦っていた場所だとは思えない。


「わー、すごいね」

「うん、あれが『ポセイダルソルト』だよね」

ベージュとメルルーサは、ソリの窓から海の外を眺めていた。

白いセーラー服を着た双子は、はしゃいでいた。


「順調にいけば明日には、セビド砦につくと思われます」

「そうか」一緒に乗り込んだニギスから、報告を受ける私。

屋根のついたソリには、七人も乗っていた。

無論、全員クロコノイドで私の部下だ。選抜も私が行なった。


副官のニギス、双子の新兵ベージュとメルルーサ、護衛の二人の兵士と私だ。

私も、いつも通り黒いコートを着ていた。

戦闘用の黒コートは、私の体になじんでいた。


「イエンツーユイ様は、黒いコートもセクシーです」

「そうか?」メルルーサの言葉に、素っ気なく返す私。

あまり、言われたことが内から私は適当に返していた。

引っ込み思案なメルルーサに対し、入れ替わるようにベージュが出てきた。


「さすが、将軍って感じよね。その服、防御力とか高いの?」

「機能性重視だ」

「ふーん、色気重視ね」

「違う」私は否定したが、ベージュが怪しい顔で見ていた。

長いスカート部分に、手を伸ばそうとしてきた。

ベージュの手をメルルーサが、諫めた。


「やめなよ、将軍様が困っているし」

「えー、いいじゃん。将軍の赤い鱗に黒いコート。

なんか色っぽいし、こういう色気で戦っているんだなって」

「失礼ですよ……というか違います」

言われた私では無く、メルルーサが否定した。

私は、冷めた顔で二人の会話を見ていた。


「しかし、将軍が双子を連れていくとは、驚きましたぞ」

「悪いか?」

「いえ、教育を頼んだのはこちらですから、なんの問題ありません。

でも双子には、かなり期待をしていると見ていいのでは?」

「そうではない」

「ベージュ達は、将軍にまだ負けたわけじゃないから」

いきなり、不満の顔で強がっているベージュ。


「ちょっと、ベージュ。そんなこと、言っちゃだめだよ」

「だって、悔しいんだもん」

メルルーサに宥められて、口を尖らせたベージュ。


あの後も双子は何度も私に挑んできたが、一度も私に攻撃を当てられなかった。

全てを跳ね返し、ベージュの体は傷だらけだ。

メルルーサも、それに巻き込まれて軽い傷がいくつも増えていた。


「なるほど、随分と好かれているようですな。将軍」

「いきなり斬りかかるのにか?」

ニギスがいたずらっぽく笑い、私がそっぽを向く。


「それにしても、エツ皇帝の招集ですが」

「まずは、今回のルビス海域の戦況報告だろう。

皇帝には戦果報告書も送ったが、私と直接話をしたいそうだ」

「ふむ、なるほど。

今回の活躍で、褒美もあるだろうし」

「金か」

「おお、出るのか金」

なぜか、目を輝かせてきたベージュ。

メルルーサは、そんなベージュを呆れた顔で引っ張る。

狭いソリでも、双子は元気だ。


「出ますとも、戦場で活躍をすれば報奨金が出ます。

活躍をされれば、地位も名声も思いのままですぞ」

「それは凄いな、いくらぐらい出るのだ?」

「報奨金は百万イダルですぞ。さらに活躍すれば、ボーナスも出ますぞ」

「おお、すごい」金には目がない幼いベージュ。


この深海世界では、通貨が存在していた。

そもそも深海世界で流通しているのは、一つだけしか存在しない。

『イダル貨幣』と呼ばれるもので、この貨幣で深海の全ての国で共有通貨として用いられていた。


「ニギス様、一つよろしいですか?」聞いたのはメルルーサ。

「はい、なんでしょう?」

「メル達のパパは、優秀でしたか?」

「ええ、優秀でしたとも。

それはもう、クロコノイドでも一二を争う武芸の持ち主でしたぞ」

「でも、なんでパパは死んだの?」

メルルーサの無垢な質問は、時に残酷だ。

女の子の無垢な質問に、思わずニギスの表情が凍り付いてしまう。

ニギスの前に座っていた私は、冷静に言い放った。


「敵は、数で勝る半魚人軍だった。

劣勢だったわが軍は、大軍の半魚人軍に分断されてしまった。

ユウゼン様の軍を援護できずに、孤立してしまった」

「それでも三銃士のパパは、弱くなかったのよね。なぜ?」

「敵の軍師……四天王の一人ビアスの策にハマったのだ」

私の言葉を、メルルーサの隣にいたベージュも一緒に真剣な顔で聞いていた。


「ビアスの策?」

「私たちクロコノイドと同じように、敵の半魚人にも四天王という強い将軍が存在する。

半魚人四天王の一人、マーマンのビアスはおそらく強くないだろう。

武芸だけならば、お前たちの父ユウゼン様のほうが遥かに上だ。

だが、ビアスには私たちにない武器を持っていた」

「その武器は?」

「智謀だ。ビアスは、とても頭がいい。

狡猾に迅速に兵を動かし、意のままに兵を操ってくる。用兵術の天才だ。

ビアスはユウゼン様の大勢が整わないうちに、兵士で包囲戦を仕掛けた。

敵は多勢に無勢、ユウゼン様が奮戦するもかなわなかった」

「つまりは……」

「敵を分断させて、弱らせて戦うヤツということだ」

「卑怯だね、そいつ!」

「そんな奴に、メル達は勝てるの?」

憤りを見せるベージュに、心配そうな顔をみせたメルルーサ。

双子でよく似た顔でも、反応は少し違う。


「大丈夫だ、私たちにはニギスがいる」

「え、わし?」

私は目の前のニギスを指さす。いきなり言われて、ニギスが目を丸くした。

自分の顔を指さして、驚いた顔を見せた。


「ニギスは頭がいいからな、頼りにしておるぞ」

「ですが、イエンツーユイ様の武芸の方が優れております。

イエンツーユイ様は、百人の半魚人に包囲されても一人で百人斬りをして生き残った強者。

女の中でも……いえ男性を含めても、最強のクロコノイドですから」

「ああ、そうだな」私は照れることも無く、堂々と言っていた。

ニギスは、からかい返してきたが目論見が失敗したようだ。


そんな会話をしている時だった、急にソリが激しく動いた。

そりを引くキングホエールの動きが、止まっていた。


「どうした?」私が低い天井のソリに、立ち上がった。

すぐに前にいる御者に、声をかけた。


「奴がいる、ホエールが怯えて動かない」

「奴って?」

「シーワームだ」前に乗り出した私は、ホエールの前に一匹の巨大なワームを見つけていた。




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