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その8 フラウ

―――フラウ視点―――


 私は生まれつき魔力が見えた。

 人、動物、植物に宿る魔力、大気に流れる魔力、それが初めから見えた。

 だから、魔力を使うのは簡単。

 初めて発した言葉が雷の呪文。雷の魔力が、私と相性が良かったから。


 父は喜んでいた。この子は天才に違いないと。

 父は色々な呪文を私に教えた。簡単だったので、すぐ覚えた。

 6才の時に、父に連れられて初めてモンスターを倒した。

 そして、魔導士団に入れられた。毎日モンスターを倒していた。

 特に何も思わなかった。言われたから倒していただけ。

 変わることのない灰色のような日常。


 マルス王子と会ったのは8才の時。

 父が婚約者として引き合わせた。

 王子だけど、身にまとっているものが高価なだけで中身は普通。

 魔力は少し高めな程度。

 ただ、契約紋の呪文を覚えた時だったので、実験台に使った。

 婚約者なので問題ない。

 契約紋は成功。王子と五感を同調できた。転移も王子が寝ている間に実験して成功。満足。

 そして、興味がなくなった。

 

 11才の時、王子が毒殺されそうになった。

 毒に興味があったので、久しぶりに契約紋を使った。

 王子はキラーラビットと戦っていた。そして、食べた。

 ……不味い。

 なぜこんなものを食べている? 王子に少し興味が出た。


 それから時々王子と契約紋で同調した。

 王子は毎晩、キラーラビットと戦って食べていた。

 戦い方が少しずつ上手くなり、キラーラビットの食べ方も上達した。

 そして、王子はカサンドラと出会った。

 私より魔力量が多い初めての人間。嵐のような魔力を内包した戦士。


 王子は7日に1度、カサンドラと修行していた。

 修行……というより虐待?

 だけど、王子の魔力が上がっていた。

 力も強くなったが、魔力が上がったことに驚いた。

 人の潜在的な魔力量は、生まれた時から変わらない。

 どんなに魔法を練習しても、定められた限界は超えられない。

 私の魔力も生まれた時から変わらなかった。


 微量で気づかなかったが、キラーラビットの肉を食べていたときも、王子の魔力は上がっていた。

 私もモンスターの肉を食べることにした。

 王子を見習って、キラーラビットの肉から食べる。

 変わらないと思っていた魔力がほんのわずかに上がっていた。


 マルス王子を見ていると面白い。

 いつも死にかける修行、強力なモンスターとの闘い、命を狙われ続ける日常。

 毎日が私を飽きさせない。ずっと見ていたい。婚約者がマルス王子で良かった。


 3年経って、モンスターの肉で魔力を上げた私は、雷帝と呼ばれるようになった。

 その頃、父上はマルス王子との婚約を解消し、第二王子と婚約させると言い出したので断った。

 雷撃で家を半壊させたら、父上も私の意見を尊重してくれた。


 カサンドラと別れた王子は、ハンドレッドを仲間にした。

 ハンドレッドはどんどん強く、大きくなった。

 そして、反乱を起こそうとしていた。

 ファルーン国と戦う、そんなことは考えたこともなかった。

 でも面白そうだ。

 私の名前も出てきた。マルス王子は私とあまり会っていないが、私はずっとマルス王子を監視……見守ってきた。

 これは婚約者的にあまり良くない。

 私も反乱に参加することにした。今後は婚約者らしく行動する。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 反乱を起こすことが何故か確定し、私生活がフラウに見張られるとわかってから、僕は精神的に疲れていた。

 そして今は馬上で、ハンドレッドの拠点へと向かう途中だ。

 周囲には護衛の白騎士が30人程付いている。

 

「王子、初の実戦で緊張しておられるのですか? 表情が暗いですぞ?」


 声をかけてきたのは、白騎士団の副団長ブランだった。


「そのように緊張されなくとも、戦いは黒の騎士団や赤の騎士団に任せれば良いのです」


 ブラン率いる白騎士の任務は僕の護衛で、ハンドレッドとの戦いに加わる気はまったくなさそうだ。

 白騎士団は貴族の子弟から成り立っており、身分が高い連中は多いものの、実力は低い。今回、僕の護衛に付けられた白騎士は、その中でも剣が使えるほうだが、それでもたかが知れている。

 ハンドレッドと本当に戦いになったとしても、白騎士は役に立たないだろうから、ブランの言っていることは、ある意味正しい。


「さよう、王子はハンドレッドのリーダーであるゼロスとかいう男を倒せばいいだけ」


「ゼロスくらい倒さねば、王子の実績にはなりませんからなぁ。

 黒と赤の騎士団には、勢い余ってゼロスまで倒さぬよう言っておきますゆえ、ご安心ください」


 他の白騎士団の騎士たちも声をかけてきた。

 今回の出陣に際して、とにかく、僕がゼロスを倒さなければいけないことになっている。王位継承には少なくともその実績が必要で、さもなくば弟に王位継承を譲らなくてはならない、という雰囲気だ。

 僕はいくつもの暗殺計画から逃れてきたわけだが、それで味方が増えるわけでもなく、「何とか生き延びている王子」という評価をされている。

 もはや、ほとんどの貴族にとって、王位は弟に継承されるのが既定路線なのだが、廃嫡するにも理由が必要で、今回のハンドレッド討伐がその理由にされるのだろう。

 だから、僕は「ハンドレッドと戦って負ける」か「戦いの最中に戦死」という筋書きになっているはずだ。

 この白騎士たちも、僕を守るどころか背中から刺してくる可能性が高い。

 やたらとゼロスとの一騎打ちを勧めてくるが、内心負けて死ねばいいとでも思っているのだろう。


 黒の騎士団と赤の騎士団との合流地点が見えた時、白騎士たちは驚いていた。

 各騎士団は通常500人程度が在籍しているのだが、集結している黒の騎士団と赤の騎士団の数は合計で1000を超えている。つまり、全戦力を投入してきているわけだ。


「クロム殿とワーレン殿は全軍を引き連れてきたようですな」

 

「ハンドレッドなぞ、平民が騎士の真似事をしているに過ぎないのに……」


「そんな連中相手に本気を出すとは。我が国の騎士団も地に墜ちたものだ」


 白騎士たちが口々に黒の騎士団と赤の騎士団を嘲る。彼らは黒の騎士たちを下に見ており、ハンドレッドの実力も過小評価しているのだろう。

 そこにクロムとワーレンが馬を走らせてきた。


「マルス王子、こちらの準備は整いました。できれば始める前に一言頂ければと思います」

 

 クロムが言った。


「クロム殿、王子には直接話しかけず、我々を通してもらいたい」


 ブランが尊大な態度で、クロムに注意した。


「そもそも、ハンドレッドなる連中を倒すのに、わざわざ王子がお声がけする必要などないでしょうに」


 黒の騎士団長相手に、ブランの態度がでかい。

 だが、クロムも白騎士たちを無視して、僕だけしか見ていない。

 気づけば周囲を黒の騎士団と赤の騎士団に囲まれている。

 準備が整っているのは見ればわかる。白騎士も僕も、これから起こることから逃げることはできないのだろう。

 何故こんなことになってしまったのか。そこまでして取りたい王位ではない。命さえ助かれば、それで良かったはずなのに。

 とはいえ、ハンドレッド、赤の騎士団、黒の騎士団を今更見放すこともできない。

 僕はしぶしぶ剣を抜くと、城の方角を指し示した。


「全軍に告げる。敵は王都にあり!」


 投げやりに発した言葉に、黒の騎士団と赤の騎士団から怒号のような歓声が上がる。


「王子! 何を言っておられる! 敵はハンドレッドですぞ!」


 ブランが咎めるように叫んだ。

 そのブランに、僕は持っていた剣を振り下ろす。


 飛び散る血。

 物を言わなくなったブランはドサリと馬から落ちる。

 それを見て、黒の騎士団と赤の騎士団が熱狂した。

 高慢な白騎士団のことが嫌いだったんだろうなぁ。


「ご乱心めされたか、王子! 我らに一体何の非が……」


 他の白騎士たちが僕に詰め寄った。


「ゼロスと戦わせて、僕が勝とうと負けようと、おまえたちがとどめを刺す、そういう算段だったんだろ?」


「何故そのことを……」


 白騎士のひとりが呻いた。いやいや、そんなことは誰でも気づくから。僕をどれだけ馬鹿だと思ってるんだ?


「さすが、マルス王子。すべてお見通しというわけですな」


 クロムが笑いながら、白騎士のひとりを斬り倒した。

 笑顔で人を殺すな。


「我々は……副騎士団長から言われただけで……」


「そうです! 我々の意志ではありません。ただ、命じられただけです!」


 顔を青くした残りの白騎士たちが命乞いを始める。

 僕は無言で白騎士をもうひとり斬ると、残りは黒の騎士と赤の騎士が始末した。


 白騎士を殺したのを、見張り役が遠くから見ていたかもしれないし、元より魔法で監視されている可能性もある。

 ここからは時間との勝負だ。


 馬を飛ばして、全速力で王都へと向かう。

 黒の騎士団と赤の騎士団が後ろに続いた。




 反乱軍を率いて、王都に近づくと、城門は慌てて閉ざされようとしていた。

 だが、その動きが止まると、今度は逆に城門が開いていく。 

 青騎士団のブレッドが予定通り内応したのだろう。


 門に入ると、そのブレッドが青騎士を率いて近づいてきた。


「マルス王子、青騎士団、今よりその麾下に入ります」


「騎士団長はどうした?」


「あちらに」


 ブレッドが指し示した先には、青騎士が何人か倒れていた。

 騎士団長とその側近たちだろう。城門を閉ざす指示をしたところで殺されたのだ。


「では、青騎士団は王都の混乱を避けるために治安維持に動け。我々は王城へと向かう」


「はっ!」


 僕は王城へと馬を走らせた。何事かと集まっていた民衆たちは、その勢いに驚いて道を開ける。

 城の前では、武装した集団が城兵たちと戦っているのが見える。

 オグマが率いるハンドレッドだ。

 あらかじめ王都に集まっていた彼らは、僕たちが王都に入ったのを合図に蜂起していたのだ。


 ハンドレッドのメンバーの装備は、城兵に比べて貧弱なものの、個々の力量がそれを覆しており、戦いを優勢に進めている。

 魔導士団は出てきていない。フラウが上手く抑えているのだろう。


 ハンドレッドが道を確保してくれたおかげで、城内への侵入がスムーズに進む。

 城内では白騎士団と、貴族たちの護衛騎士たちが抵抗を始めた。

 白騎士団はともかく、護衛騎士たちは手練れ揃いで黒の騎士団と赤の騎士団と互角の戦いをしていた。


 抵抗する騎士たちを倒して、玉座の間へと向かう。

 僕が知る限りの城の抜け道はあらかじめ塞いだが、時間がかかり過ぎれば、ガマラスたちが逃亡するかもしれない。


 道すがら、前々から嫌いだった貴族たちをついでにぶった斬りながら、玉座の間へと至ったが、そこへ入るや否や身体に異変が起こった。


 待ち受けていたのは冒険者たちだった。

評価を頂けると、大変ありがたいので、宜しくお願い致します。

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素直な気持ち…この婚約者気持ち悪い!
「全軍に告げる。敵は王都にあり!」  投げやりに発した言葉に、黒の騎士団と赤の騎士団から怒号のような歓声が上がる。 怒号が聞こえてきましたよ~~
 主人公が人を殺せる性格で大変すき
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