その53 その後
聖女奪還軍は決戦前日にバルカン軍が撤収し、総兵力は3万となった。
それでもまだ兵力差は倍以上あったが、マリアに唆されたカイムとそのシンパによって、キエル魔道国の不参加が内部から広まり、士気も低下してしまった。
イーリス王は戦いを見送ろうとしたものの、ファルーンに先手を取られて、ハンドレッドの突撃を受けてしまう。
ファルーン軍はイーリス王目掛けて猛攻をかけ、イーリス軍も三伯を中心に応戦。
あらかじめ、ハンドレッド対策をしてきたイーリス軍は、常に数的優位を保ち、秘密兵器であるクロスボウを使った距離を保った攻撃と、聖騎士団の回復魔法で、戦いを優勢に進めた。
だが、ファルーン王マルス率いるハンドレッドの上位ランカーが攻撃に加わると、形勢は逆転。
マルスによってイーリス王は討ち取られ、三伯もことごとく戦死。聖騎士団の団長もオグマによって討たれ、イーリス軍は壊滅的な被害を受けた。
残った義勇軍も、カーミラ率いるドルセン軍の攻撃を受けて、指揮系統が寸断される。これを見て、参加していた傭兵や冒険者たちが逃げ出し、さらに他の兵たちも雪崩を打って逃走。ここにファルーン軍の勝利が確定した。
一方、シーラたちに奪われた王都を奪還するために、撤退したバルカン軍だったが、森の中の道を抜けようとしたところで、キーリ率いるウォーウルフ部隊の強襲を受ける。その攻撃自体はすぐに終わったものの、魔導士たちが集中して狙われ、魔導士団が壊滅的な被害を受けた。
これによって、バルカン軍の魔法の結界が手薄になったのを見たフラウとその配下の魔法師団は、炎の魔法で森ごとバルカン軍を焼き払い、一兵も逃さずバルカン軍を全滅させた。
王の死とこの残虐な所行を知ったバルカン国はファルーンの軍門に下り、シーラが治めるところとなった。その後生まれたシーラの子を正式な王とし、長く続く国家となる。
マーヴェ教国は聖騎士団の一部を率いて戦場を離脱したカイムたち(と黒の騎士団)によって占拠され、教皇は退位させられ、新たな教皇にマリアが就くこととなった。
王を失ったイーリス国は国王の子がすぐに即位したが、国内に自然発生を装った「マーヴェ教国に帰属すべき」という運動が起きる。有力貴族の何人かも、これに同調。反対派は次々と謎の死を遂げ、力を失ったイーリス国は、ついにマーヴェ教国に併合された。
マリアの教皇と王になるという妄執がついに達成されたのだ。その後、マーヴェ教国は処女受胎したと主張するマリアの子が王となったが、それはマルスの子ではないかと密かに噂された。
これによってファルーンは事実上、アレス大陸の南部の国家のほとんどを支配下におき、残るは北の大国ロンザ帝国となった。
ロンザ帝国は後継者争いが激化しており、「力こそ正義」という国是もあってか、功を示そうとした皇太子が大軍を率いて南下。バルカン領へと侵入した。
これに対して、成長した白竜に乗ったカサンドラが皇太子の軍に立ちふさがった。
「兄上、気が変わったので、わたしが帝位を継ぎます」
実兄である皇太子にそう告げると、カサンドラは白竜と共に皇太子の軍を蹂躙、そのままロンザ帝国へと向かった。
抵抗する者たちをすべて殺し、その力を示すと、ロンザ皇帝は渋々娘の即位を認めた。
「しかし、何故おまえはまだそんなに若いのだ?」
年老いた皇帝は娘が妙に若いことが気になったという。
カサンドラはファルーンの官僚団を招き入れると、政治を任せ、ロンザ帝国はファルーンと同じような政治体制に徐々に移っていった。
アレス大陸のほぼ全土を統一したマルスが次に目を向けたのは、未開の地である広大な魔獣の森であった。マルスが目を向けた、というより、更なる戦いを求めたハンドレッドやフラウ、カサンドラなどの要望によるものだったとも言われている。
何年にも渡る遠征の末、とうとう魔獣の森の中心地に到達したマルスたちが見たものは、そこで細々と生きながらえていた魔族たちであった。
何百年も前に勇者たちに追いやられて、魔獣の森へ入った魔族たちであったが、あまりの過酷な環境に生きていくのが精一杯な状態だった。魔獣の森から出て行こうにも周囲の原生モンスターが強すぎて、結界の中から出られない状態が続いていたのだ。
食べる物にも事欠く有様の魔族たち。その長は魔王を名乗り、やってきたマルスに食料を要求して一騎討ちを挑んだ。しかし、あえなく返り討ちにあってしまう。
「何だ、その強さは!? 勇者よりも強いではないか! おまえは本当に人間か?」
驚愕する魔王にマルスは聞いた。
「そんなことより、食べる物が無かったら、何でモンスターの肉を食わないんだ?」
マルスは魔族の力の根源をモンスターの肉によるものではないかと考えていたのだ。実際に魔王はマルスが戦ってきた中で最も強い相手だった。
「あれは毒だぞ? そんなものを食うくらいなら死んだ方がマシだ」
頭がおかしいんじゃないか? という目でマルスを見た魔王に対し、マルスは若干傷ついた表情を見せたものの、魔族たちに食料を分け与えたという。
魔王との一騎打ちに勝利したことで、魔族たちを傘下に収めたマルスは、魔獣の森を魔族の領土として認め、その開発に力を貸した。
女性であった今代の魔王はマルスの第五妃となり、その子孫が代々魔獣の森を治めることとなる。
アレス大陸の統一を成し遂げたマルスだったが、政治にはあまり関心がなく、主に宰相のガマラスと、弟のカドニア王ニコルが中心となって大陸全土の政治・経済的な改革が進められた。
それは極力貴族を廃した民衆中心の政治形態であり、当然これに抵抗する者たちもいたが、ハンドレッドによって容赦なく鎮圧された。
王族も象徴的なものとなり、時代が進むにつれて「王族自体を排するべき」という声まで出始めたが、そういった声が出るたびに、組織として残り続けたハンドレッドによって粛清された。平和となった世の中にあっても、ハンドレッドは王家の忠実な騎士であり、選りすぐりの超人たちであった。
マルスを始めとするハンドレッドのメンバーは皆長寿であり、平均寿命が100を超え、モンスターの肉の効用に注目が集まることもあった。しかし、そのあまりの副作用に非人道的な食べ物とされ、正式に食べることを禁じられたが、王族とハンドレッドのメンバーだけが例外とされた。
アレス大陸史上最も偉大な王となり、死ぬまで無敗を誇ったマルスだが、死に際して伝えた言葉は
「本当はあんな不味い物は食べたくなかった」
だったという。
本当は2022年中に終わらせる予定でしたが、思ったよりも長くなりそうで、ここで終わりとさせて頂きます。
読んでいただいた方々には申し訳なさと感謝しかありません。
次作は色々な反省を踏まえ、より良い物にしたいと考えております。
今まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
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2023年9月29日、GCN文庫より書籍化。




