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モンスターの肉を食っていたら王位に就いた件  作者: 駄犬


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52/53

その52 前日

 聖女奪還を掲げた義勇軍は、事実上の対ファルーン連合軍であり、各地から兵が集まっていた。

 その人数は膨大で、集結すれば総勢5万を超える近年例のないような大軍であった。

 連合軍の核となっているのはマーヴェ教国の聖騎士団とイーリス軍、バルカン軍、それにキエル魔道国の魔導士団だった。

 特にマーヴェ教国の聖騎士団は回復魔法に優れた騎士団として、キエル魔道国の魔導士団は最強の魔法使いの集団として名を馳せており、いかに躍進著しいファルーンといえども、この戦いには分が悪いと、もっぱらの評判であった。

 そのため、勝ち馬に乗ろうとした傭兵や冒険者たちまでが集まっている。

 ファルーンとその影響下にある国ではハンドレッドのシステムが広がっており、ハンドレッドが傭兵や冒険者の代わりを務めている。そのため、ファルーンは傭兵や冒険者たちから、あまり良く思われていないという背景もあった。これ以上、ファルーンが勢力を伸ばすと、仕事にあぶれるのではないかという危機感があるのだ。

 ただ、ここにきて、「キエル魔道国の魔導士団が忽然と消えた」という噂が立った。

 キエル魔道国が連合軍を覆うように張っていた結界が消えたのだ。結界自体は数日後にまた再構築されたのだが、それはイーリス軍の魔導士団によるものだった。

 連合軍には微妙な雰囲気が漂ったものの、イーリス軍と肩を並べる主力であるバルカン軍2万がついに合流したことで、兵力が5万を超え、士気は持ち直している。

 一方、連合軍と対峙していたカーミラ率いるドルセン軍にもファルーン軍が合流し、こちらも決戦の準備は整いつつあった。


―――――


「うん? 何だって?」


 ファルーン軍を率いてドルセンとイーリスの国境までやってきた僕は、フラウから変なことを言われた。


「キーリがキエル魔道国を滅ぼした」


 フラウはいつものように淡々としている。


「あそこの?」


 遠くに見える連合軍を指差した。


「違う。本国。マルスが指示した通りにキーリがやった」


 何で?

 僕は連合軍の中の魔道国軍を相手にしろと言ったけど、国を滅ぼしに行けなどなんて言った覚えはない。

 確かにモンスター軍は「ちょっと間引きしたいなー」と思うくらい数が増えていたが、国を滅ぼせる数になってたなんて洒落にならない。


「……で、損害は?」


「ウォーウルフ隊を除いて壊滅状態」


「ふーん、まあいいんじゃないかな」


 増えすぎたモンスターが減る分には問題はない。使いやすいウォーウルフ隊とワイバーン隊が残っていれば良い。現在、ワイバーン隊はシーラたちと共にバルカン国へ行っている。


「キーリはどうしている? ファルーンに戻った?」


「魔道国で待機中。魔道国の持つゲートを使えば、ウォーウルフ隊ごと移動することが可能」


 ゲート。大型の転送用魔法陣か。噂には聞いていたけど便利だな。


「じゃあ、こっちに来るように言っておいて。連合軍の数が多いから、使える戦力は増やしておきたい」


「わかった」


―――――


「陛下! お伝えしたいことがあります!」


 フラウと入れ替わるように天幕に駆け込んできたのは、バルカン国に行っているはずのワイバーン隊隊長ギュネイだった。

 バルカン国との交渉に進展があったのだろうか?


「どうした?」


「シーラ様が父君の説得に成功。国内に残る七星剣の三家を味方につけ、バルカン王都の制圧に成功しました!」


「……え?」


 なんでそうなった? 平和的な外交努力をして欲しかったのに、何でクーデター起こしてるの?


「わたしも作戦の成功をお知らせするために、急ぎ、こちらに飛んできた次第ですが、連合軍のバルカン軍にも連絡は行っている模様です。空から確認したのですが、すでにバルカン軍に撤退する動きがありました。恐らく本国に戻るつもりでしょう。如何いたしましょうか? シーラ様が率いる反乱軍は3000程度なので、2万の軍が戻るとなると、さすがに分が悪いかと」


 如何するも何も、僕にどうしろと?

 敵陣を突破して、バルカン軍を追撃しろというのか?

 そんな余剰戦力がどこに……


「陛下! ただいま戻りました!」


 そこにやってきたのはキーリだった。後ろにはフラウがいる。早速連れて来てくれたのだろう。さすが転移魔法陣、早いな。


「ご命令通り、キエル魔道国を滅ぼしました!」


 うん、僕はそんな命令出してないけどね。


「いやーマトウ師は強かったですよ? 大量のモンスターを送り込んだのに、魔法一発でやられちゃいました! でもまあ最後はわたしがサクッと決めました!」


 戦いに勝ったことで高揚しているのか、キーリのテンションがいつも以上に高い。まあ、あの伝説の魔導士マトウを倒したのだから、無理も無いか。……サクッと決めたってどういうことだろう?


「うむ、よくやってくれた。さすがはキーリが作ったモンスター軍団だな」


「ありがとうございます! 損害は大きかったですが、ワンちゃんたちはみんな無事なので、ご安心ください!」


「うんうん、ウォーウルフ部隊は健在なんだな。じゃあ、またちょっとやって欲しいことがあるんだが」


「はい! 何なりと!」


 連戦になるのにキーリは嫌な顔ひとつしない。


「シーラがバルカン国の王都を制圧したらしいのだが、あそこにいるバルカン軍にすんなり戻られると困る。補給路を断ちつつ、夜襲でも奇襲でも仕掛けて削って欲しい」


「なるほど! それならワンちゃんたちが大得意なので、おまかせ下さい!」

 

「頼むぞ。フラウも同行してくれないか? 2万の軍を消耗させるには、ウォーウルフ部隊だけでは厳しいだろう。こっちはキエル魔道国がいなくなったし、何とかなる」


「わかった」


 フラウは無表情に承諾してくれた。


「うまくやってくれたら、キエル魔道国の跡地を魔導士たちで好きなように使ってかまわないぞ?」


「えっ? それってフラウ様の直轄地になるってことですか?」


 直轄……まあそういうことになるのかな? 魔道国は誰も寄り付かないような荒野のど真ん中にあるので使い勝手が悪い。飛び地になるし、ファルーンでいちいち管理するのも面倒だろう。


「うむ、もともと魔法使いたちの聖地みたいな場所だったし、バルカン軍を倒してくれれば、フラウに管理を任せよう」


「わかりました! がんばります!」


「わたしもがんばる」


 キーリと、珍しくやる気を出したフラウはすぐに出撃すべく天幕を出た。

 キエル魔道国は魔導士たちにとって価値のある場所なのだろう。


「というわけだ、ギュネイ。シーラに伝えてくれ」


 キーリが入ってきてから大人しく控えていたギュネイに声をかけた。


「かしこまりました。すぐにバルカンに戻ります」


 跪いてそう答えるとギュネイも天幕を後にした。


―――――


 聖騎士団副団長のカイムは昂揚していた。自分たちの行動に賛同する勢力が5万に達したのだ。

 聖騎士団自体は1000ほどの兵力に過ぎなかったが、これほどの兵力が集まれば、ファルーンからマリア様を奪還することなど容易い。

 奪還した暁には、さしもの教皇といえども、マリアを正式に聖女と認めざるを得なくなるだろう。

 真の聖女を得たマーヴェ教国はこれまで以上にマーヴェ神の加護を得るに違いない。

 マリア様こそ、この荒廃した地上に降り立った天使である。マリア様以外の人間など塵芥に等しい。

 いっそマリア様が教皇になるべきなのだ。貴族の出というだけで、マーヴェ教国の上層部に君臨している連中に神の寵愛などなく、連中に指導者たる資格はない。

 そんな風にカイムは考えていた。いや、カイムだけではない。聖騎士団の熱烈なマリア信奉者たちは、貴族出身者を忌み嫌っており、信仰に基づいた正しい教国のあり方を夢想し、そのトップにはマリアがふさわしいと思っていた。


 バルカン軍も到着し、いよいよファルーン軍との戦いが間近に迫ったその日、カイムが自分の天幕に戻ると置手紙があった。


 その内容は、野営地の近くにある森の中に来るよう指示されてあり、従わなかった場合は、マリアの命は無いというものだった。手紙の中にはマリアがいつも身に着けていたロザリオが同封されていた。

 ファルーンによるものであることは明白だった。


「卑劣な!」


 カイムは歯噛みした。恐れていたことだが、聖女を失ってしまえば、この連合軍の大義が失われてしまう。いや、それでも連合軍は各々の欲のためにファルーンを攻めるだろうが、少なくとも自分たちにとっては意味のないものになる。


 どのような要求がされるかわからないが、従うしかない。


 カイムは手紙をくしゃりと掌で握りつぶすと、装備を整えて天幕を出た。 


 騎士たちが用を足すために森の中に入るのは珍しいことではないため、カイムの行動はそれほど目立ったものではない。

 だが、カイムは森の奥へ奥へと行く。指定された場所は、森の最深部にあった。


 そうしてたどり着いたその場所には、フードを目深に被ったひとりの人物が立っていた。

 他に人影はいない。


「何者だ」


 カイムが誰何すると、その人物はフードを外し、顔を露わにした。


「マリア様……」


「お久しぶりです、カイム様」


 カイムは夢ではないかと思った。ファルーンに連れ去られた日から、夢にまで見たマリアの姿が、すぐそこにあるのだ。

 カイムは涙を流し、歓喜のあまり膝から崩れ落ちた。


「……良かった、ご無事で本当に良かった! しかし、あの手紙は一体?」


 涙を拭うとカイムはマリアに尋ねた。


「こんなところまで来ていただいて、すいません、カイム様。しかし、こうでもしないとわたしの命は危ういのです」


 マリアは沈痛な表情を浮かべて答えた。


「どういうことですか?」


「実は……この一連の出来事はすべて教皇様によって仕組まれたことなのです。教皇様はわたしをファルーンに引き渡し、それを口実にファルーンに軍を差し向けたのです」


「なんと! いやしかし、教皇様は連合軍に否定的だったはずでは?」


「あれはファルーンの敵意を自分に向けないための上辺だけのもの。あくまでも自発的にファルーン討伐軍が結成されたことにし、教国は無関係を装いたかったのです」


「しかし、何故そのようなことを……」


「わたしとファルーンは共に貴族階級の方々にとっては不都合な存在なのです。わたしは貴族出身ではない聖女候補、ファルーンは貴族を廃する国として、あの方々にとっては望ましくなかった。そこで教皇様は一計を案じました。わたしを敢えてファルーンに差し出し、それを口実に奪還軍を結成させ、ファルーンを滅ぼし、わたしもファルーンの手によって弑させようとしたのです」

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― 新着の感想 ―
いや~この聖女の腹の中真っ黒だろうなぁ
[良い点] 何気にキーリが一番の武功を立てたのかな? キャッキャしてるけど怖い子なんですよね……
[一言] 割と教皇さんだけは純粋に被害者なんだよなぁ…… 側近達はまぁ他の国の意を受けて動いてるし他の国はやらなきゃやられるで先に動いてるけど、 教皇さんだけはマリアの謀略で貶められてるだけっていう
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