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その34 妃候補選考会

 大会の開始時刻が近づいてきたので、僕と師匠は別々に闘技場へと向かった。


 さすがに師匠が結婚相手になるのは嫌だなぁ。自分の師だったし、10才くらい年上だった人だし、何というか気まずい。

 他の7人の参加者の中に、師匠に勝てる逸材はいないだろうか?

 ……いや剣聖に勝てるような化け物がファルーン王家に入ってくるのは、それはそれで問題があるな。


 唯一の希望は、師匠の着けている白い仮面だ。例によって呪われた仮面で、着けたが最後、視覚を完全に遮断してしまうらしい。

 師匠はこれを鍛錬のために装備している。気配だけで知覚できるようになるとか言っていたが、何のためにそんな苦行に身を置いているのか理解に苦しむ。目で見ればいいじゃん。

 わざわざ白い仮面を選んだのは、呪いのおかげで簡単に外れないかららしい。師匠自身は呪いに耐性が付いたので、簡単に取り外しができるようだが。


 あと師匠には武器を使わないよう、お願いしておいた。


「師匠が剣を振るったら相手が死んでしまいますので、素手で戦ってください」


 と言ったら、


「なるほど、わかった」


 と簡単に承諾してくれた。

 これで視覚を失い、武器が無い状態なのだから対戦相手にも勝機があるはずだ。

 あとは他の妃候補の健闘を祈るのみである。


 僕が席に戻ると、ガマラスが尋ねてきた


「陛下、今回は陛下も賭けに参加されるので?」


「うむ。カサンドラに可能な限り全額賭ける」


 ……いやまあ、それでも師匠が勝つ気がするんだよね。


―――――――――――――――


 ついに妃候補選考会という名の武道会が始まった。

 女同士の戦いということで、今回も観客席は超満員だ。


 1回戦はミネルバ対レイア。

 盗賊団の首領と傭兵団の頭目という気の強そうな女同士の戦いである。

 ミネルバが槍のように長い戦斧を得物とし、レイアはオーソドックスな長剣使いだった。

 試合はミネルバが戦斧を鞭のように振り回し、レイアが一方的に防戦に追い込まれる展開。 

 最後は長剣を叩き落とされたレイアが敗北を認めた。

 

「あの長さの戦斧を自在に扱うとは、かなりの腕力と技量を持ってますな」


 とヤマトはミネルバを評価した。

 大口を叩くことだけあって、力は本物のようだ。



 2回戦目は師匠対ノーア。

 ノーアは魔導士のようでローブ姿に杖を構えている。

 一方、師匠はというと約束通り手ぶらであった。


「カサンドラさん、武器はどうされました?」


 というアナウンスに対し、


「不要だ」


 と答えた。

(よし、いける! がんばれ、ノーア!)

 僕は心の中で師匠の対戦相手に声援を送った。

  

 試合は開始前から呪文を仕込んでいたノーアが、初っ端に火球を発動。

 それを見たフラウは「まあまあの魔力」とつぶやいた。


 で、そのまあまあの火球を師匠は掌で受け止め、握り潰した。


「えっ?」


 ノーアが絶句する。


「魔法使いのようだが、他に魔法はないのか?」


 師匠は他の魔法も受けるつもりらしい。


「無理です。降参します」


 ノーアは涙目になって負けを認めた。

 魔法を素手で受け止めて、そのまま握り潰すという離れ業にざわつく場内。


「あのカサンドラという女、何者ですか? 魔法に対する特殊な力でも持っているのですか?」


 ヤマトも驚いている。

 あーあれは特殊な力じゃなくて、気合だよ、気合。僕が知る師匠はそういう人間である。


 

 3戦目はシーラ対シャーリー。

 Sランクの冒険者と凄腕のアサシンの戦いである。

 軽装の鎧に両手に剣を構えるシーラに対し、黒いベールと衣服に身を包んだシャーリーも両手に短剣を握っている。

 開始するなり、シャーリーは短剣を投げつけるが、シーラはそれを簡単に剣で弾いた。

 シャーリーはさらに短剣を取り出して投擲するが、これも簡単に対処される。


 が、弾いたはずの短剣が宙に浮き、再びシーラに向かって飛んでいった。

 計4本の短剣が宙に浮き、意志を持ったかのように動いているのだ。

 見ればシャーリーの回りには、さらに10本近い短剣が浮遊している。


「珍しい技を使いますわね、あのアサシン」


 カーミラが言った。いや、おまえも大概珍しい技を使ってたけどな。


 10本を超える短剣の対処を迫られるシーラだが、さすがSランクの冒険者だけあって、完全に受け切っている。背後から飛んでくる短剣も、後ろに目が付いているかのように避けたため、観客からは拍手喝采である。

 そして、シーラはシャーリーに向かって走りだした。シャーリーもさらに短剣を2本取り出すと、それを両手に持ち、迎撃する構えを見せる。

 両者ともに電光石火の速さで両手の剣を振るう。さすがにシャーリーは他の短剣を操る余裕が無いようだ。

 最後はシーラが相手の首筋にピタリと刃を当てて、シャーリーが負けを認めた。

 見事な腕前というしかない。



 4戦目はカレン対サーシャ。

 サーシャは騎士の家の出の冒険者のようで、この大会には珍しく、騎士の礼法に則った正統的な剣の構えをしている。

 家柄や作法的には、サーシャが圧倒的に妃候補に相応しいんだろうな。

 ハンドレッドに所属するカレンは闘技場でもおなじみの顔であるため、観客席から応援する声がたくさん聞かれた。

 試合はとても普通だった。まるで騎士の練習試合を見ているかのように、普通に剣を打ち合う互角の展開で、最終的には基礎体力で勝るカレンが勝利。

 試合が終わった後は、再戦を誓ってふたりが握手していた。


「なんつーのかな、悪くはない試合だったんだが、他の試合がアレだっただけに普通だったな」


 オグマがみんなの声を代弁していた。



 準決勝第一試合はミネルバ対師匠。


「魔法を手で抑え込むとは珍しい技を使うが、わたしの斧はどうかな?」


 不敵に笑うミネルバに対し、


「同じことだ。変わらん」


 と師匠は返した。

 はたから見れば挑発に挑発で応じたように見えるが、師匠は事実を述べているだけである。


(神様、お願いします、ミネルバに力を!)

 僕はミネルバの勝利を神に願った。


 試合が始まると、速攻でミネルバが戦斧を師匠に叩きつけた。

 が、師匠は最小限の動きでそれを避けつつ、戦斧の柄を片手で掴んだ。


「なにっ!」


 ミネルバはそれを振り払おうと両手に力を込めるが、ビクともしない。

 逆に師匠が片手に力を込めると、戦斧がミネルバごと持ち上がった。冗談みたいな腕力である。

 師匠は戦斧を思いっきりスイングすることで、持ち上げたミネルバを闘技場の壁めがけて吹っ飛ばした。猛烈なスピードで壁に激突したミネルバは失神、戦闘不能と見なされて、師匠が勝者となった。


 圧倒的な力の差に、またも場内がざわついている。


「あのカサンドラとかいう女。陛下の知り合いのようですが、何者なのですか?」


 ガマラスが僕に尋ねてきた


「……わたしの師にあたる。剣聖カサンドラだ」


 特に隠すつもりもなかったのだが、何となく言いそびれていたことを、ついに僕は白状した。


「なんと、あの赤鬼カサンドラですか! 長い間まったく話を聞きませんでしたが?」


「10年ほど冬眠していたらしいからな。剣聖の名は表に出すな。面倒なことになるかもしれん」


 退場していく師匠を見ながら、僕は言った。



 準決勝2試合目はシーラ対カレン。

 2本の剣を鮮やかに使いこなすシーラに対して、カレンは防戦一方に追い込まれ、あっという間に決着が着いてしまった。


「相手が悪かったな。シーラとかいう女はかなりの使い手だ。ハンドレッドでも上位に食い込むだろう。まあ、カレンもよくやったよ。あれと打ち合えるだけ腕を上げたということだ」


 オグマがカレンの健闘を称えた。



 そして、とうとう妃候補選考会の決勝が始まった。

 師匠対シーラである。

 両者ともに圧倒的な力を見せながら勝ち進んできたが、賭けのオッズでいえば師匠のほうが優勢だ。僕も当然師匠に賭けた。

 でも心の応援はシーラである。頼むから師匠を倒して欲しい。そのためなら賭け金は惜しくない。


 師匠は仮面で表情が見えないが、シーラのほうは緊張した面持ちである。

 試合の開始と共に、シーラが持つ2本の剣が輝き始めた。片方は紅く、もう片方は蒼く光っている。


「魔法剣ですかね? いや、あの剣自体に魔法が付与されているのですかな?」


 ヤマトが興味深そうに見ている。


「両方ね。魔力が無いと真価が発揮できないタイプの剣よ、あれは」


 カーミラがヤマトの疑問に答えた。何だかんだと仲良いな、こいつら。


 シーラが輝く2本の剣を構えて師匠へと迫り、超絶スピードで剣を振るい始めた。

 さすがの師匠も、強力な魔法剣を素手で受け止めるわけにはいかないと思ったのか、体さばきでそれを避ける。

 シーラの剣筋がいくつもの光芒となって、幻想的な光景を醸し出していた。


「あれはミラージュソードですな。それも二刀流で発動させるとは凄まじい」


 Sランクの冒険者だけあって、シーラの実力はかなりのものである。

 何で妃候補に名乗りを上げたのか不思議なくらいだ。

 だが、ミラージュソードを発動し続けるのも限界がある。次第に疲れが出てきたのか、少し動きが鈍ってきていた。

 そこを師匠は狙った。


 スッと一歩間合いを詰めると、カウンター気味にシーラの顎へ強烈な掌底を入れた。

 綺麗に吹っ飛ぶシーラ。1回、地面で身体が弾むと、そのまま倒れ伏した。

 しかし、少し間をおいてから、剣を支えにシーラは必死に立ち上がろうとしている。

 その涙ぐましい姿に、場内から拍手が起こった。

 

 師匠はそんな会場の空気を無視して、シーラの腹に蹴りを入れた。


「ゴフッ!」


 蹴り上げられて、再び宙を舞うシーラ。

 そしてそのまま地面に倒れると、ピクリとも動かなくなった。


「しょ、勝者カサンドラッ!」


 さすがに戦闘不能と見なしたのか、師匠の勝利を告げるアナウンスが場内を流れた。

 けれども会場は静まり返っている。恐らくみんな引いてるんだろう。

 何ていうんだろう、質の悪い暴力を目撃したような気分になるんだよね、師匠のボコりって。

 見てて痛そうだし。僕もよく喰らったし。


 こうして、師匠カサンドラが僕の第三妃となることが決まった。

 とりあえず、夫婦喧嘩は死に直結するので、逆らわないでおこうと僕は心に誓った。

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― 新着の感想 ―
 試合した8人全員が妃になればよくね?(いや、師匠で体力が尽きそうだな……)
[良い点] 技名のない掌底とただの蹴りで終わってしまった笑
[一言] これガマラス的には「国を建て直さんと頭を悩ませていた若きマルス王がカサンドラと縁を得た事を奇貨として教えを乞うたのだな、流石陛下!」 とかなってるやつですね判ります
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