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その2 毒耐性の指輪と身体強化の腕輪

 城に帰ってから、僕はまんじりともせず、毒の指輪を見つめていた。


 最初は付ける気もなかったのだが、くれた相手がカサンドラとなれば話は別だ。

 はっきり言って、今のままだと僕はいつか死ぬだろう。

 何とか暗殺を免れてはいるが、ガマラスの権力は日に日に強くなっていき、味方はどんどん減る一方。城内でもガマラスの孫である弟が、次期国王になると思っているヤツも多い。

 ジリ貧だ。別に王位に執着するわけではないが、継承権を放棄したところで、生かしてもらえるとは思わない。後顧の憂いを断つために、どのみち殺される。


 そこでカサンドラだ。悪名高い亡国の剣聖。彼女の後ろ盾があれば、さすがに命までは取られることはないだろう。

 しかし、彼女は噂ほどのバーサーカーではなさそうだが、まともに話が通じる相手とも思えない。ただ、少なくとも「弟子にする」と言ってくれているわけだから、僕のイメージは悪くないはずだ。

 このまま、カサンドラの弟子になり、うまくやって、「わたしの大切な弟子」とか思われれば、しめたもの。


 で、その弟子になる第一関門が、毒の指輪……と。


 死ぬか毒を克服するまで外れない、とか言ってたけど、それって呪いのアイテムとかじゃなくて、単なる暗殺用の道具じゃないだろうか?

 暗殺から逃れるために、暗殺用の品を身に付けなきゃいけないとか、意味が分からない。

 普通の人間なら即死するらしいが、僕だって普通の人間だ。


 だが、ここを乗り切れば生きる目もある。逆にこの好機に乗らなければ、成人する前に必ず殺される。それを考えれば……


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 朝食の時間となった。部屋に食事が運び込まれる。いつもなら


「食欲がないからいらない」


 と言って、そのまま下げさせるが、今日は何も言わなかった。

 従者と食事を運んだメイドが驚いた表情を浮かべ、一緒に部屋に入った毒見役が悲壮な表情を浮かべる。


「いや、毒見はいい。ひとりで食べたいから、ふたりとも部屋から出てくれないか?」


 毒見役があからさまにホッとした顔をする一方、従者は食い下がった。


「そんなわけにはいきません! 殿下、お命を粗末になさいますな!」


 どうやら、従者は僕が覚悟を決めて死ぬつもりだと思ったらしい。まあ、そう思うよな。

 でもまあ、今からすることを見られても困るので、部屋から出て行ってもらう必要がある。


「部屋から出てくれ。これは命令だ」


「殿下……」


 従者は今にも泣きそうな表情を浮かべた。それからしばらく間をおいて、黙って一礼すると、メイドと毒見役を連れて出て行った。


 それを確認してから、僕は準備を始めた。実際に食事をするわけにはいかないから、料理を適当に切り分けて、食べた風を装い、スープをテーブルの上に適当にこぼした。


 そして、意を決して指輪を嵌める。


 装着した瞬間、世界が暗転した。吐き気と同時に、高熱による意識の混濁、手足の痺れがやってきた。死ぬ、これは死ねる。

 やっぱり外そう、そう思って、指輪に手をかけるが、身体の一部のようになって、まったく外れない。


「ああ、クソ。やっぱり暗殺用の道具じゃねぇか、これは……」


 毒づきながら、せめて身体を横たえようと、最後の力を振り絞ってベッドを目指す。

 そこで意識が途切れた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 結果的に言うと、僕は助かった。気づいたときはベッドに寝かされていて、その傍には看護役の従者が2人ほど控えていた。

 僕は三日三晩寝ていたらしい。顔色は真っ青で、熱はありえないほど高く、早々に医者が匙を投げたそうだ。魔法使いによる毒の解呪も行われたらしいが、まったく効かなかったようだ。

 そりゃ毒をアイテムとして身に着けているんだから、解呪しても無駄だろう。


 多少、身体の痺れは残っているものの、特に問題はなさそうだ。試しに指輪を触ってみると、簡単に抜けた。指輪の毒に対する耐性を得たと思って間違いないだろう。

 

 僕が瀕死の状態から復活したことは、すぐに城中に知れ渡った。皆、祝福してくれたが、毒殺されかけたことには、あんまり違和感を感じていないようだ。

「ああ、やっぱり」「気を付けなきゃだめですよ?」的な忠告を受けた。

 父である王からも


「自分の身は自分で守れ」


 的なことをやんわりと言われた。被害者にかける言葉じゃないだろ。まあ、自作自演なんだけど。

 一応、型通りの犯人探しは行われたが、犯人は僕なんだから当然見つからない。「ガマラスだろうなぁー」とは皆思っているが、今回は冤罪だ。


 3日間、何も口にしてなかったので、出されたものを素直に食べた。カサンドラが言っていたことが本当ならば、毒に対する耐性がついているはずだ。

 最初は毒が混じってなかったようで何ともなかったが、何日かすると、食べ物の中にピリッとする刺激を感じるものがあった。香辛料とかそういったものではない。多分、毒なんだろう。

 多少、腹を下すこともあったが、基本的には問題なかった。どうやら、毒類は完全に克服できたらしい。


 毒見役は廃止した。


「わたしのために命を捨てることはない」


 と言ったら、周囲の者は「お優しい」とか何とか言って感動してたが、単に必要がなくなったからだ。

 そんなこんなで7日間が過ぎ、カサンドラと再び会う日が来た。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「師匠、毒の指輪は克服しました」


 そう言って、右手に着けた指輪を見せた。場所は例によって、森の中である。


「おお、そうか。流石我が弟子だ!」


 カサンドラはとても嬉しそうだ。


「おかげで食事に毒が入っていても平気になりました。ありがとうございます」


 手段はアレだったが、毒耐性が付いたのは大きい。この点は本当に感謝している。


「そうか、それは良かったな。ところでおまえ、モンスターの肉も食っているか?」


「いえ、この1週間は食べていませんが……」


 時々、毒が入っているとはいえ、普通の食事ができるようになったのだから、わざわざ不味いモンスターの肉を食おうとは思わない。


「何? それじゃダメだろう。ちょっと待ってろ」


 と言うや否や、カサンドラは森の中に姿を消した。


 しばらくすると、彼女は片手に見たことの無いモンスターを引きずって戻ってきた。

 引きずる、というと小型に思えるかもしれないが、その大きさはカサンドラの10倍くらいある。幻覚を疑いたくなるようなシュールな光景だ。

 引きずられているモンスターは血まみれで死んでいるようだ。というか、こんな巨大なモンスターはここらへんで見たことが無い。どこで狩ってきたんだろうか?


 カサンドラはモンスターを軽々と放り投げると、目にも止まらぬ速度で長剣をふるい、空中で解体した。

 さっきまでモンスターだったものが、一瞬でただの肉塊と変わる。

 そして、カサンドラは肉塊のひとつを手に取ると、僕に差し出した。


 思わず手を差し出して、それを受け取ると、掌でグチャという嫌な音を立てた。


「食え。グレートバジリスクの肉だ。その指輪の毒を克服したなら、食っても問題ないだろう」


 グレートバジリスク? 危険度がかなり高く、人里に出現したら騎士団が総がかりで倒しに行くようなレアなモンスターだ。この短時間で発見して倒してきたのか?

 いや、そんなことより、これ、生で食べるの?


「師匠、火で焼いてもよろしいでしょうか?」


「ダメだ。効率が悪くなる」


 カサンドラが論ずるところによると、モンスターの肉はできるだけ鮮度の良いものを、生で食べたほうが、その力を取り込みやすいそうだ。


 カサンドラはもうひとつ肉塊を手にすると、躊躇なく齧り付いた。

 クチャクチャと咀嚼する音が聞こえる。マジで食ってるんだ……


「ほら、食え」


 実際に目の前で食べてみせられると「嫌です」とは言えない。

 仕方なく手にした肉塊を顔に寄せる。


 臭い。


 当然だが、血の匂いがする。それだけでなく獣臭さのようなものも感じて、吐きそうだ。

 意を決して、一口齧る。

 生臭さと強烈な匂いが口の中に広がり、体が「これを食べてはいけない」という警報を全力で鳴らし始めた。

 吐き出したい、吐き出したいがカサンドラが僕をじっと見ている。

 懸命に咀嚼し、無理やり飲み込んだ。

 気持ちが悪い。胃の中のものを全部戻しそうだ。まるで、毒に慣れる前の身体に戻ったかのようだ。


「師匠、この肉はかなりの毒なのでは?」


「当然だ。モンスターの肉は、その力が強ければ強いほど、人には受け付けられないものとなる。ドラゴンの肉など猛毒だ。今日持ってきたグレートバジリスクは、今のおまえが摂取できるギリギリの肉だろう」


 カサンドラはそう言いながら、手に持った肉塊を食べ続け、最後は丸呑みし、


「渡した分は全部食え」


 と、死刑宣告のようなことを言われた。


 僕は半分泣きながら時間をかけて、それを食べた。毒の指輪のほうが何倍もマシと思えるほど、今までの人生で最も過酷な時間だった。


「よし食ったな。じゃあちょっと剣を構えて見せろ」


 ようやく食べ終わった僕に、カサンドラは声をかけた。

 手と口が血まみれなので、どこかで洗い流したかったが、そんなことを許してくれる相手ではないだろう。

 剣を抜くと、カサンドラに向かって構えた。


「稽古をつけてやる。かかってこい」


 彼女は剣に手をかけてすらいない。その必要すらないと言わんばかりだ。

「なめられてる」という憤りを感じると同時に、無理やり肉を食わされた恨みもあり、全力で斬りかかることにした。


 そして、剣を振り上げようとした瞬間、僕は吹っ飛ばされて、背後の木に叩きつけられていた。


 腹と背中に強烈な痛みを感じる。

 見ると、さっきまで僕が構えていたところにカサンドラがいた。

 振りかぶったところを殴られるか蹴られるかしたらしい。ただ、その動作はまったく見えなかった。


「やはり遅いな」


 カサンドラが言った。


「いや……剣を振り上げたところを狙われるとは思いませんよ」


 痛む腹と背中をさすりながら、僕は弁解した。


「戦いは生き死にだ。そんな言い訳は話にならん。隙を見せるな」


 師匠は淡々と答えた。


「動作が遅いのは、身体能力が低いせいだ。おまえにこれをやろう」


 師匠が懐から腕輪を出した。青く輝く金属製の綺麗な腕輪だが、よく見ると呪文の刻印がびっしりされており、嫌な予感しかしない。


「これはグラビティの効果を付与する腕輪だ」


 グラビティ。妨害魔法のひとつ。相手の身体を重くして、その動作を鈍らせるという効果がある。主に対モンスター戦に使われているはずだ。


「グラビティ? 相手に付与するんですか?」


「違う。自分に付与するんだ」


 自分に付与? 妨害呪文を? そんな話聞いたことがない。


「この腕輪を付けると、自分の体重が2倍ほどになる。とりあえず、付けてみろ」


 放り渡された腕輪をキャッチして、腕に嵌めてみる。

 瞬間、ズンと身体が重くなる感覚に襲われた。


「立ち上がってみろ」


 言われるがままに、立ち上がろうとするが、うまく体が動かない。

 四苦八苦して、背後の木を支えに、何とか立ち上がったが、重い。これがグラビティの効果か。


「かなり動きづらいですね。この状態でどうするんですか?」


「それを付けたまま普段通りの生活をしろ。そうすれば勝手に身体が鍛えられる。何もしなくても鍛錬になるんだから、素晴らしいだろう?」


 師匠が屈託なく笑った。きっと本当に素晴らしいと思っているのだろう。日常生活を不自由にすることの何が素晴らしいんだろうか? やっぱり、この人どうかしてる。

 僕は日常生活どころか、ここから帰る自信すら無い。

 一旦外そう、一旦。少しずつ慣らしていかないと、これは無理だ。


……あれ? 外れませんけど?


「師匠、これどうやって外すんですか?」


「外れないぞ」


 さらっと、とんでもない答えが返ってきた。


「それは元々囚人の逃走防止用に作られた腕輪だからな。自分では外れないようになっている」


 囚人用かよ!? 暗殺用の指輪の次は、囚人用の道具。こんなもん、どっから入手してるんだ?

 まさか、実際に狙われたり、収監されたりしてるとか?


「師匠は外し方を知っているんですか?」


「知らん。1年ほど付けていたら、外すことができるようになった。恐らく、腕輪に掛けられている拘束魔術に対抗できるようになったんだろう。だから、心配いらん」


 何がどう心配いらないんだろう? 拘束魔術なんて、そう簡単に破れるようなものではない。というか、破れたら意味がない。


 これからどうやって生きていけばいいんだ?

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― 新着の感想 ―
 人間は毒が無いからモンスターにとって美味しい肉なのかもしれないな。
[良い点] 優柔不断で決断力に欠ける父王を持つマルスに同情した。 しかし 『自分の身は自分で守れ』 ↓ 『被害者にかける言葉じゃないだろ』 の下りは思わず吹き出した。 [一言] この時点では未登場の亡…
[一言] 師匠? 重力2倍で修行して強くなるのは漫画の中だけですよ? 人間は2倍の重力に耐えられる生き物じゃないんですよ? 聞いてます師匠?
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