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その11 王位継承

「冒険者たちは倒したし、後はガマラスをバッサリ斬ってしまえば終わりだ」と思っていたら、玉座の間にやってきたオグマたちが声をかけてきた。


「ゼロス、貴族共は全員始末した。あとはガマラスだけだ」


 全員始末した? 貴族たちを? ひとり残さず?

 ハンドレッドのあまりの所業に、僕は呆然とした。貴族は確かにロクでも無い存在だが、まったく必要がないわけではない。文官たちをまとめて政治を行うのも、領地を管理するのも貴族の役目だ。

 貴族たちがいない状態で、どうやって国を運営するつもりなんだ、こいつらは?

 クロムやワーレンは貴族と言っても脳筋寄りだし、剣より軽いものを持ったことがないようなハンドレッドのメンバーに政治などやらせることはできない。

 こいつらに政治を任せた日には、国民全員の身分がランキング戦によって決まる修羅の国へと一直線である。僕はそんな国に住みたくない。

 いっそ国王はこのまま継続してもらおうかと思って、父に話しかけた。

 

「父上、王位ですが……」


「おまえに譲る」


 一瞬で譲位が決まってしまった。いやいや、もうちょっと渋ってくれよ。

「時期尚早だ」とか「おまえは王の器ではない」とかあるでしょ? そんなあっさり譲られても困る。こっちは、その場の流れで反乱起こしただけで、本当はやりたくないんだよ。

 ……不味い。僕は政治には全然興味が無いし、そんな面倒なことはしたくもない。どうしたものかと思っていたら、目の前にガマラスがいた。


 あ、貴族がひとり残ってた。しかも政治経験者。


「ガマラス、政治はおまえに任せる」


 こいつ以外に仕事を押し付ける相手はいない。


「はっ?」


 ガマラスが呆けたような声を出した。


「おい! ゼロス! 何を言っている! そいつがすべての元凶だぞ! おまえは何度もそいつに暗殺されかけたんだろ!」


 オグマが叫んだ。

 うっせぇ、ボケッ! おまえらが考えも無しに貴族を虐殺するから、こんなことになったんじゃねぇか!

 などと心の中で毒づきながらも、僕は答えた。


「僕は死んでもいないし、あの程度のことで死ぬわけもない」


「しかし、政治をガマラスに任せるというのは……」


 今度はクロムが口を出してきた。

 じゃあ何か? おまえが政治をやるのか? 若いころからワーレンと一緒に下町で遊び歩いていて、ロクに政治の勉強してなかった話は聞いてますが?

 最近はハンドレッドに入れ込んで、「強くなければ人にあらず」的な感じになってるし、とてもじゃないけど、国政なんか任せられないわ!


「使える人間は使う。それだけだ」


 おまえらが使えないから、ガマラス使うしかないんだよ!

 そう叫びたかったが、さすがに我慢した。抜き身の剣を持って血まみれになっている連中を下手に刺激したくない。

 

「しかし、王子……なぜ私なのですか……」


 ガマラスが聞いてきた。こいつも状況がわかってないらしい。


「いいか、ガマラス。貴族たちは全員死んだんだぞ? 今政治を任せられるのは、おまえしかいない。おまえの好きにしろ」


 おまえ以外に貴族がいないんだから、おまえに任せるしかないんだよ。僕はやりたくないから、好きにやって欲しい。


「この命に代えましても、責務を必ずや全う致します……」


 なんかガマラスが跪いて号泣している。

 そうか、命が助かったんだもんな。そりゃ嬉しいだろう。死にたくなかったら頑張ってくれ。

 ……さて、城中が死体と血で凄惨なことになっているが、これ、誰が片付けてくれるんだろう?


―――――――――――――――――――


 それから数日して、国は思ったよりも早く落ち着きを取り戻した。

 意外なことに、ガマラスが異常なまでに熱心に働いてくれたおかげで、僕の戴冠式がすぐに行われ、同時に結婚式まで執り行われた。

 ……結婚式はいらなかったのだが。

 相手は当然のフラウである。彼女は今回の内戦で、魔導士団ごと僕に内応した後、王都周辺に展開してきたガマラス派貴族たちの軍勢を一蹴。その後も、抵抗勢力に容赦ない攻撃を加え続けた。おかげで僕は容易に国内をまとめることができたのだ。

 フラウのその功績が今回の第一として認められ、みんなが婚姻を後押ししてきやがった。

 でも詳細な報告を聞いた僕は知っている。今回の反乱を口実に、フラウは普段使えない対人魔法を使いまくったことを。

 精神魔法で敵兵士を操って同士討ちをさせたり、死んだ敵兵士をアンデッド化させて仲間を襲わせたりと、非道の限りを尽くしたようだ。

 そのためなのか、敵軍の心が早々に折れて、結果的に内戦の早期終結になったわけだが、本人曰く、


「人を生贄に悪魔を召喚する術とか、もう少し試したい魔法があった」


 とのこと。

 ……何でそんな倫理観が著しく欠如した人間と、僕は結婚しなければならないのだろうか?

 こんなやつを王妃にしてしまって、この国は大丈夫なのだろうか?

「国内で謎の失踪事件が頻発、実は王妃が魔法の実験に使ってました」なんて事も起こりえるんだぞ? いいのか?

 僕は結婚を渋ったのだが、ハンドレッドの連中が、


「素晴らしい女性です、フラウ様以外にマルス王子にふさわしい人はいないでしょう。主に強さという意味で」


 みたいな感じで強引に結婚を勧められた。いや、王妃ってのはさ、品格とか知性とかそういうものが求められるのであって、強さは要らないだろ?

 おまえら、俺の人生を何だと思ってるんだ?


 ……まあ、それはともかくとして、手際よく戴冠式と結婚式を執り仕切ったガマラスが、次に行ったことは貴族たちの財産を没収することだった。

 ハンドレッドの中でも人相の悪い連中を何人か引き連れたガマラスは、王都内の死んだ貴族たちの屋敷を訪れて、次々と財産を押収していった。

 名目は横領・収賄・権力の乱用である。貴族の遺族たちは当然抵抗したが、何せガマラス自身が諸悪の根源なのだから、証拠は揃いまくっていた。

 遺族たちが「ガマラス様だってやっていたことじゃないですか!」と糾弾すると、ガマラスは良い笑顔を浮かべて


「そうです。なので、私は全財産を国庫に返納しました」


 と告げたらしい。これは事実である。

 ガマラスは自身の家屋敷・財産をすべて国に譲渡すると、身の回りの世話をする従者ひとりを連れて、城の宰相室へと移住してきた。以来、寝る間も惜しんで仕事をしている。

 その話を聞いた遺族たちが絶句している間に、怖い顔をしたハンドレッドのメンバーが手際良く財産を押収していったようだ。

 やっていることは質の悪い借金取りである。


 ガマラスが貴族たちの財産を取り上げたおかげで、窮乏状態にあった国の財政は一気に良くなった。

 さらにガマラスは死んだ貴族たちの領地も没収し、国の直轄地とした。

 貴族の遺族たちからしてみたら踏んだり蹴ったりである。だが反抗するとフラウやハンドレッドに何をされるかわからないので、主だった抵抗は見られなかった。

 何でガマラスが自分の元の仲間たちに、こんなに酷いことができるのか理解できないが、これによって国の半分近くが直轄地となったため、王の権威が大幅に強化された。

 父上が王としてイマイチだったのは、直轄地が少なく王の基盤が弱かったため、大貴族たちを抑えきれなかったことが原因のひとつだったらしい。


 さらにガマラスは法改革も推し進め、税制なども改善。貴族のような中間搾取する連中を排除し、横領などを厳しく取り締まった。さすが今まで悪いことをしてきただけあって、ガマラスはこういうことに詳しい。おかげで税金の徴収効率が上がり、その分税率を下げることに成功した。

 平民たちからは歓喜の声が上がっている。僕の評判は急上昇だ。何もしてないけど。

 立役者のガマラスは過労死するレベルで職務に没頭しており、でっぷりと太っていた身体は急速に痩せて、今では怜悧な官僚のような顔立ちになっている。

 僕の義母にあたるガマラスの娘リリアも、ガマラスの手伝いを願い出て、政務に奔走している。こちらもでっぷりと太っていたのだが、忙しく働いている間に痩せていき、今ではそれなりに美しい見た目に変わっていた。

 リリアは宮廷の支出削減に力を尽くしている。僕も華美な装飾品や不要な行事などには興味が無いので、彼女の提案をすべて了承していった結果、かなり財務体質が改善したようだ。

 リリアの息子で、僕の弟にあたるニコルは、政治経済に興味あるようで、将来的には文官として登用することになりそうだ。


 で、財政は改善し、貴族たちから没収した金があるので、僕は考えた。

 今回の件で、ハンドレッドに対して恩賞を与えていない。一応、ハンドレッドという組織を国公認にして、ランキング上位陣は王直属の騎士とすることにしたが、土地とか金銭では何も報いてないのだ。

 元々、地位や金に無頓着な連中なので、別にそれでも構わないらしいが、何もしないというのも申し訳がない。

 そこで僕は闘技場を建設することにした。ハンドレッドの拠点はいまだにあの地下古代遺跡で、非常に行きにくい場所にある上に、ジメジメして環境的に良いとはいえない。

 王都の近くに闘技場を作って、そこでランキング戦でも訓練でもやってくれれば、彼らも喜んでくれるのではないだろうか、と思ったのだ。


「闘技場を建設してくれ」


 玉座の間でガマラスから政務報告を受けた後、僕は言った。


「闘技場……でございますか?」


 ガマラスはいまひとつピンときていないようだ。


「そこでハンドレッドのランキング戦を行う」


「……なるほど。ハンドレッドのランキング戦といえば、なかなか見ごたえがあるものときいております。それを闘技場で行うことで興行化する、ということですな?」


 興行化? そんなことは考えていなかった。でも、ランキング戦は面白いし、それも良いかもしれない。


「そうだ。よくわかっているな、ガマラス」


「ありがとうございます。では、国の事業として見物人から観戦料をとるというお考えで宜しいでしょうか?」


 観戦料? あれに? さすがに客来ないんじゃない?


「いや違う」


「違う? ではどうやって収益化を……まさか! 賭博の対象にするということでしょうか!?」


 なんか金のことしか考えないな、こいつ。

 賭博ねぇ……まあ、僕も国の金を浪費するだけだと、アホな王様みたいだし、それくらいならいいだろう。


「そうだ、ハンドレッドのランキング戦を賭博の対象とし、闘技場を国の事業とする」


 いかにも自分が考えていたかのように答える。


「素晴らしい! 闘技場は必ずや国の柱となる事業となるでしょう! 早速手配いたします!」


 敬愛の眼差しでうっとり僕を見つめた後、ガマラスは急いで玉座の間を後にした。

 うん、まあ……そんなに急がなくてもいいんだけどね。ただの思い付きだし。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いちいち面白い… 作者さんは天才だわ
[良い点] 奇跡など一つもなく、色んな種類の毒が上手く混ざり合う結果。 [一言] 途中感想となります。 体質の良くない改革失敗続きの古株企業に勤まった自分の経験から、痛いほど共感できた部分が多い。 私…
[一言] 突然、ギャグ化しましたね。 好きだけど!
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