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ちいさな天使の落としもの

作者: 猫じゃらし
掲載日:2021/12/16


 しゅわしゅわサイダー色の空。

 にっこりオレンジ色の空。

 わたわた雲がいっぱいの空。

 黒猫がたくさん目を光らせたような空。


 毎日違う空の、もっと上。

 もっともっと上。目では見えない高い空。

 天使達が住んでいる空は、わた雲にあふれた青い世界。


 変わることのない空の世界で、天使達は今日もお買い物をしていました。


「そのわたわたクッキーは星いくつ?」

「わたわたクッキーは星2つだよ」


「わたわたマフラーは星いくつ?」

「わたわたマフラーは星5つだよ」


「わたわたくまさんは星いくつ?」

「わたわたくまさんは星6つだよ」


 天使は言われた星の数だけ、わたわたのお財布から出しました。

 店員さん天使に星を渡すと、わたわたの商品がもらえます。


 天使がお買い物を終えると、次にやってきたのはちいさな天使でした。

 ちいさな手には星を2つ握りしめています。

 店員さん天使は優しく声をかけました。


「欲しいものはなんだい?」


 ちいさな天使はわたわたのお菓子を見て迷いながら、言いました。


「わたわたのチョコは星いくつ?」

「わたわたのチョコは星3つだよ」

「わたわたのクッキーは星いくつ?」

「わたわたのクッキーは星2つだよ」

「わたわたのラムネは星いくつ?」

「わたわたのラムネも星2つだよ」


 ちいさな天使はしょんぼりしてしまいました。

 店員さん天使は不思議に思いました。星を2つ持っているから買えるのに、どうして買わないんだろう。


 ちいさな天使は、ちいさな声で言いました。


「ママと一緒に食べたいの……」


 店員さん天使はようやくわかりました。

 ちいさな天使は星2つで、わたわたのお菓子を2つ買いたいのです。

 ママと1つずつ、一緒に食べたいのです。


「ちいさな天使ちゃん。じゃあ、これはどう?」


 店員さん天使が見せたのは、棒のついたわたわたのあめでした。

 わたわたのあめは星1つです。これなら、星2つで2つ買えます。


 ちいさな天使は大喜び。

 手に持った星を店員さん天使に渡そうとして、1つ落としてしまいました。


「あっ!!」


 落ちた星はわた雲に吸い込まれて、すぐに見えなくなってしまいました。

 ちいさな天使はあわててわた雲の中に手を入れて探しました。けれど、見つかりません。


 落ちた星は、わた雲の下の世界へと落ちてしまったようです。


「仕方ないよ、ちいさな天使ちゃん。よくあることだよ」


 そう、よくあることなのです。

 大人の天使達もよく、星を落としてしまうのです。

 落ちた星はすぐにわた雲に吸い込まれてしまい、どこにいってしまうのかわかりません。


 ちいさな天使は悲しくて泣き出してしまいました。


「あぁ、泣かないで、ちいさな天使ちゃん」


 店員さん天使がなぐさめますが、ちいさな天使のまわりには涙の水たまりができていました。

 わた雲がしゅわしゅわと音をたて始めています。ちいさな天使のまわりだけ、わた雲が溶けているようです。


 しゅわしゅわ。

 しゅわしゅわ。


 やがて、ちいさな天使の体は溶けたわた雲に吸い込まれてしまいました。

 店員さん天使が助けようとしましたが、間に合いません。


 ちいさな天使は、わた雲の下の世界へと落っこちてしまいました。


「わぁー!!」


 わた雲の下の世界はまっ黒でした。

 その中に、いくつもの猫が目を光らせたように輝くものがあります。

 それはまっ黒の中にくっついていたり、上から降ってきたり。


 きらきらと輝くそれは、とても綺麗な星たちでした。


「星がこんなに綺麗だなんて!」


 ちいさな天使は嬉しくなりました。

 わた雲の上ではこんなにきらきらと輝いたりしません。

 まっ黒なこの空だから、こんなに綺麗なのです。


「早く落とした星を見つけて、ママに教えてあげよう」


 一緒にわたわたのあめを食べて、素敵な冒険のお話をして。

 きっと、とっても楽しい時間になるでしょう。

 そのためには落とした星を拾わなければなりません。


 ちいさな天使はちいさな翼をパタパタと動かして、落とした星を探しました。


 真っ黒な空よりもっと下の世界は、星の輝きよりも、もっともっと輝いていました。

 たくさんの人間があたたかい服を着て、それぞれ賑やかに歩いています。

 きらきら輝く星ではないものを見て、「綺麗だね」と楽しんでいます。


「ここに落とした星はなさそう……」


 ちいさな天使は翼にうんと力を入れて、パタパタと移動しました。

 人間達が楽しそうな、きらきらと輝く世界にばいばいをしました。


 しばらく飛ぶと、やがてきらきらの世界はなくなりました。

 真っ黒な世界に、人間のおうちの明かりがいくつも見えます。

 きらきらの世界とは違うけれど、こっちの世界も優しい光で綺麗です。


 ちいさな天使はひとつのおうちをのぞいてみました。


 おじいさんとおばあさんがテーブルを囲んで、あたたかいお茶を飲んでいました。

 そこに猫がやってきて、おばあさんに甘えました。

 猫の首輪には、星がついていました。


「でも、あの星はちがう」


 ちいさな天使は次のおうちをのぞいてみました。


 お姉さんが編み物をしていました。

 お姉さんのまわりにはちいさなくつしたや、手ぶくろがありました。

 そこにお兄さんが帰ってきて、買いもの袋からちいさな服を出しました。星のマークです。

 お兄さんはお姉さんのお腹を、やさしくなでました。


「あの星もちがう」


 ちいさな天使は次のおうちをのぞいてみました。


 そのおうちには、窓の近くに飾りつけをされたツリーが飾ってありました。

 カラフルな光がピカピカと光っています。

 サンタやトナカイもいます。

 でも、なんだか物足りない。

 ツリーを見ていたちいさな女の子も、楽しくなさそうです。


「どうしたんだろう」


 そこに、その女の子のお母さんがやってきました。

 両手に大事そうになにかを持っています。

 女の子の前で、よく見えるようにその両手を広げました。

 お母さんはにこにこ笑顔です。

 女の子は、わぁ! と驚いた顔です。


 女の子はお母さんにだっこをされて、ツリーの上に飾りました。

 きらきら光る星です。

 お母さんは星を持っていたのです。

 ツリーはさっきよりも輝きました。


「あれは、わたしの落とした星だけど……」


 ちいさな天使は、女の子とお母さんのにこにこ笑顔を見て、自分もにこにことしました。


「あの子が嬉しそうなら、もういいや」


 ちいさな天使はちいさな手を振りました。

 ばいばい、わたしの星。

 ばいばい、女の子。


 翼をパタパタとさせると、ちいさな天使はお空の上に帰っていきました。


 わたわたのクッキーをひとつだけお買い物して、ママとはんぶんこして。

 楽しい冒険と、落ちた星のゆくえ。素敵な女の子のお話をすれば、とびっきりしあわせな時間になることでしょう。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 天使たちのわた雲の世界、童話らしくてかわいい感じがします。 ママと1つずつ、一緒にお菓子を食べたいちいさな天使もかわいいですね。 翼をパタパタと動かして飛んだ人間の世界は珍しかったでしょう…
[良い点] 素敵なお話をありがとうございます。 小さい子にも読んであげたくなりました。 これぞ『童話』ですね。 [一言] すこしお笑いが入っていれば完璧?
[良い点] 優しい、素敵なお話でした
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