9話
ツンドラよりも寒くて、冷たくて意味がわからない空気だったと思う。これは、なんと言えばいいかわからない。
だけど、ただ一つ言えるのは、設定、都合、間柄。全てを取っ払って見えてくる自分の心理。
それは、、
――嬉しい。
だった………
○
「ど、どうしたんだよ……いきなり」
返答するのに、しばらく掛かってしまった。10秒は掛かっていたと思う。目の前に広がる光景が一瞬歪んだような、そんな幻覚が見えた。これは決して誇張などではなく、そのくらい衝撃的だった。
「えっと………私も、なんだかわからない……だけど、、これも、れんしゅう………」
「でも、練習って言ってもこれは流石によくないんじゃないか?」
「私は、よくないと思ってない。だって、私は全然、嘘をついてないから」
「嘘をついてない?意味わかんない………だって、、、俺とお前は…………一番仲が良くて、お互いを信頼できる、、
『幼馴染だろ?』」
「………そ、そうだよね……」
千紗が同調した瞬間。胸が張り裂けそうだった。こんなに苦しいものなのか?
素直になればいい。だって、こんなシチュエーションなんてこれを逃したらもう訪れないかもしれない。
だけど、お互いを思っているわけでもないのに、こんなのは間違っている。これは絶対に言える、、
苦しいけど、俺はここで甘えたりはしない。
だから、この言葉を使った。
彼女を見ると、瞳から涙が溢れていた。
「ごめん………ホントにごめん。こんなこと言うつもりなかったのに………なんで、言葉に出しちゃったんだろう………」
「いや、別に気にしてないから。大丈夫だぞ」
「うん………ありがと……………今日はもう帰るね、ちょっと騒ぎすぎたみたい」
「お、おう………」
千紗は、下を向いたまま荷物をまとめて立ち上がった。玄関に向かう足取りは早い。
玄関先で靴を履いている時に、千紗がまた謝ってきた。
「さっきは本当にごめん」
「だから、別に何も思ってないって」
「何も思ってないの??」
「ああ、まあ……」
不思議な質問だった。彼女のその瞳は最後の何かを賭けているような感じだった。
「だよね……私と宏太は仲のいい、幼馴染だもんね!」
明るく振舞おうとした千紗の瞳から再び、大量の涙が流れてきた。
「あれ、なんでだろ……なんで、流れてくるんだろ……」
「千紗……」
「ごめん。今日はありがと……」
そう言うと、この場から逃げるように千紗は去っていった。残された俺と言うと
言い表せないくらいの、違和を抱きながら涙が溢れていた。
○
その日の夜。急遽俺は、西村くんをファミレスに呼び出した。
理由はただ一つ。
なにか、とてつもない間違いを起こしてしまったと確信していたからだ。
ファミレスに二人で行ってから、状況説明をして彼の意見を尋ねてみた。
すると、帰ってきた言葉は……
「なにが、わかった気がするだ………」
「……」
「お前はなにもわかってない!!!」
真剣な表情で全く笑いのない鋭い瞳。今までにない、一番鋭い口調。こんな西村くん、俺は知らなかった。
「わかってないって……なにが……」
その口調に対する俺の言葉はあまりにも弱々しかった。多分、俺は気づかなかったんだ。西村くんの言っていることを……
「もう、これ以上……静観はできない………だから言う。
お前の幼馴染は――お前のことを異性として見てるんだよッ!!!」
その言葉に、俺は驚きよりも自分への憎悪の感情を抱いた。
なんだよそれ………それが本当なら、俺は、最低野郎じゃねぇか………
自分は、勘違いのマスクを被った鈍感押し付け野郎だったのだ。