6話
すみません、0時投稿予定のものを今投稿させてください。
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。遅い時間はうんざりするほど長いのに。
思わぬところで俺は、この時間がずっと続けばいいのに――
と思ってしまった。
○
「いやぁ〜、まさかあんなに混むとは意外だったぁ〜」
混雑から解放された千紗は、う〜んと言いながら背伸びした。確かにあの混雑は異常過ぎた。水族館の係員が仕事してないんじゃないか?と思ってしまうくらいに。
「まあ、イルカショーもペンギンショーも需要あるし、特に園児からは絶大な支持を得ているしなぁ……」
親子連れがたくさん向かうので、混雑は当たり前なのだ。むしろ、混雑してくれないとイルカさんとペンギンさんが泣いちゃう!!
「イルカショーは最前列に座ると、水かけられるよね〜。夏場は涼しいから結構好きかも」
「俺は観るなら一番後ろだな」
「え?水かけられたくないの?」
え?ウソでしょ??と言いたそうな顔をしてこちらを見る千紗に対して
「俺、Mじゃないし……」
と俺は正直に言った。だって、「水かけて下さい」なんてMの常套句だろ?(大いなる偏見)
「イルカショーにMもSも関係ないでしょ??」
「そうなのか?俺はてっきりあると思って生きていた」
「その思考で行くと、園児の大半がMになるけど……」
「世紀末じゃん……」
俺のつぶやきに「だから違うって!」と的確なツッコミが入った。どうやら根底から違うらしい。
「だけどさ、イルカの水槽って、イルカの食べカスが残ってるんだぞ?魚のカス混じりの水浴びて快感を覚えたことはないなあ…」
「うわあ…最悪、そう考えたらイルカショーもうムリかも……」
「いや、イルカショーは普通に観てやれよ。イルカさん泣いちゃうぞ?」
最前列禁止=観覧出来ない
とかそういうルールあったっけ??0or1精神は素晴らしいがそれはパソコンだけで十分だ。
「私の夢をぶち壊して現実を突きつけた張本人だけにはいわれたくありませ〜ん!!」
無邪気に笑う彼女を見て、ふと懐かしさを抱いた。小さい頃からずっと一緒で、怒った顔、泣いた顔、拗ねた顔。色々な表情を見てきたのだが、やっぱり一番印象に残っているのは、今みたいになとびきりの笑顔だった。
なんか、悲しいな………
これは、デートの練習。つまり、千紗は他人とこのような事をしたいと思っているのだ。しっかり、青春してる嬉しさ、でもなんかすごい寂しい。苦しい。ムリをしているのはわかっているが、俺がこんなわがままを言ってはいけない。自分は信用されている異性なのだから。
そんな感じで、心の片隅にトゲを刺したような心苦しさを抱きながら、水族館を回っていると、ふと、千紗がすっと前に走って、俺の前に行くとピタリと止まって振り返った。
「今日は、ありがとう。デートの練習付き合ってくれて」
「お前のお願いだからな。付き合うに決まってるだろ」
「あ〜もう!やっぱり、持つべきものは昔からの幼馴染ですなぁ〜!すっごく楽しかったし!」
「まだ、昼前だろ?あと、半日あるぞ?」
「うん!午後もよろで〜す!」
「調子いいなぁ……まあ、俺も楽しいからいいけどさ」
「え?宏太も楽しいの?」
「当たり前だろ?つまらなかったらもっとつまらなそうにしてるし。なんなら顔面で表して見せるけど?」
「え?じゃあ、やってみてw」
まじかよ。ジョークのつもりだったんだけどなぁ。しかし、普段あまり表情の変化がないことに定評のある宏太君だ。ここは、しっかりと……
「よぉ〜し。よく見とけよ?」
全力で笑顔を表現した。
「え?全然1ミリも変わってないんだけど?w」
「マジで?お前の目が腐ってんじゃねぇの?」
「いやいや、宏太の死んだ魚のような目と猫背のキモい姿しか見えないよ?」
「比喩表現が酷い上に、キモいってはっきり言うかお前!」
知ってるか?一番jkに言われて嫌な言葉はキモいなんだよ?凶器でいうところのギロチンだからな?
「ごめんごめんwほんとは、ちゃんと笑顔作れてたよ?なんか不器用で果てしなくキモいけど」
「ハイ、マイナス1000て〜〜ん!!!」
「え〜!なんでよッ!!」
「『なんで??』じゃねえだろ!正当な評価だ!」
キモいをやめろって!傷つくから!!
「あ〜もう、腹痛い!!」
腹を抱えて笑う千紗。笑いすぎて涙が出ていた。
「笑いすぎだろ……」
「キモいに敏感すぎて、可愛らしくて麗しい美少女jkのキモいは高校生の宏太くんにはクリティカルヒットなのねw」
「そうだよ!クリティカルだよ!」
「ごめんごめんw」
「まあ、幼馴染だし?全然傷付いてないけどな??(強がり)」
「ハイハイ、了解」
「最後、あっさりしすぎだろ……」
なんだよ、ちゃんとやって最後に突き放しにくる人ですかあなた?
でも、悪くないからオッケーです!
「はあ……楽しい……ずっと続けば……」
千紗がポツリと何か呟いたような気がした。
「どうした?なんか言ったか?」
「え?いや?なにも?」
「そうか、、」
「あ、そうだ。デートのことなんだけどさ」
彼女がこの言葉を口にした瞬間緩んだ空気が一気に引き締まったような感じがした。
「なんだよ?」
「………あと、二回で終わりね」
「…………そうか」
言葉を発してから数十秒。俺は、頷いた。最初から気になってはいたんだ。だけど、これは俺から聞いていいものなのか?果たしてどうなのか?
心の片隅に留め置いて保留して先延ばしにしていたものがついに彼女の口から放たれた。
その言葉を聞いてから、俺は悩みが解決した解放感と心中に湧く寂しさに襲われていることを感じた。
だけど、これは覚悟してたことなんだ。
だから、あと二回。やってやろうじゃないかと、胸に残る気持ちをその時は押し殺したのだった。
評価をしていただけると、とてもやる気が出るのでよろしくお願いします!