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5話



「ねえねえ!今度はあれ見ようよ!!」


千紗が俺の手を引いて目の前にある大きな水槽を指差した。


休日の水族館は、親子連れやカップルで賑わっていた。どこのスペースを見に行っても混雑は解消されなく、初詣参りの神社並みに混んでいると言っても過言ではない。

手は繋いでいるが、人にぶつかった衝撃で離れてしまうかもしれない。そこから逸れて迷子になったらスマホで連絡を取ったとしても合流は容易ではない。


だから俺は、グイグイ引っ張る千紗を逆に引っ張った。


「きゃッ……!」


加減を間違えたのか、気付くと千紗は俺の胸に寄りかかる感じになっていた。


「ちょ、ちょっと……いきなりなに………?」


俺の顔を見ようとせずにただひたすら俯いてぼそっと言う千紗。柔軟剤の香りなのか、とてもいい匂いがする。


「えっと、ほら、人がいっぱいいて、逸れると悪いからなるべく近くにいようぜ?」


これが今言える精一杯の言葉だった。なんせ、千紗がこんな近距離で密着しているのだ。家とかで普通にゲームしたりするときも隣に座ったり結構な近距離だが、体勢も違えば状況も違う。今にも胸の鼓動が千紗に聞こえてしまうのではないかと、ドキドキしてそれが尚更治らなかった。


「で、でもッ!この状況はいくらなんでも近過ぎない?」


確かにその通りだ。いくらなんでも近過ぎた。やろうと思ってやったわけではないのだが、つい、焦って強く引っ張ってしまった。千紗は少し困っているのかもしれない。


「そうだよな、、俺も流石にこれは近いと思う。離れるか??」


「イヤッ!」


そうやって少し退けようとしたのだが、千紗の言葉によって行動が止まった。


「え?」


「………もうちょっと、このままがいい………」


「な、なんでだよ?」


「えっ?あ、ほ、ほら、今動いてもアレだよ?こんな混雑じゃどうせ動けないし。」


「確かに……」


現在地は、水槽の近くにある円柱なのであるが今絶賛おしくらまんじゅう状態である。理由は、イルカショーとペンギンショーの観客と鉢合わせてしまったからだ。もうすぐ開催時刻が迫っているのか、通行人も譲り合いの精神を忘れている。

幸いなことにここは、動かなくてもさほど通行人の邪魔にはならないし、むしろ動かないで混雑解消を待った方がいいさえもある。

この状況で迷子になったら踏んだり蹴ったりなのでこのままの体勢でいることにした。


「なんか、アレだね……」


混雑解消を待っていると、千紗が少し笑みを浮かべながら言った。


「あれってなんだよ?」


指示語だけでは当然わからない。


「だからさ、こんなことしてあれだね。」


ああ、そういうことか………

千紗の言葉を聞いた瞬間に言いたいことを理解した。


「私たちって、他の人から見たらどういう関係に見えるんだろう……」


「そりゃ、仲のいいラブラブなカップルだろ??」


こんなことしてるんだから、それ以外に見えたら逆に恐ろしい。


「ワンチャン誘拐もあるかもね。それか、痴漢とか」


「あのさ、もうちょっと俺を信じようね??」


いったい君には俺がどう映っているのか?

ちょっと心配なんだが………


「私は信じてるよ?周りの人がそう思ってるだけ」


「周りの人はそんな風に思ってないから、思ってんのはむしろお前じゃね?」


「私は、全然。だって、こんな状況なのに、心配や不安なんて一つもないんだもん」


「ホントかぁ??」


嬉しいがそれはあまりにもお世辞が過ぎる。


「ホントだよ?だって―――すっごい落ち着くもん。」


その言葉を聞いた瞬間に、何故か千紗がお世辞を言っている感じがしなくなった。

だって、俺もこんな状況なのに、、


――何故か安心できて、落ち着くから。

次回は0時に投稿します。


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