2話
今日、あともう1話投稿します。
夕日が閉めたカーテンの隙間から部屋に差し込む、夕方のことだった。俺の家のリビングで珍しく言いづらそうに視線を外しながら幼馴染が俺に相談をしてきたのだ。
最初は、驚いた。いつもは軽く「ねえーこれやってくんない?」「まじ頼む、お願いだから!!」となんでも気軽に頼んで、俺のことをパシリにする幼馴染が珍しく恥ずかしそうな様子で頼みごとをしてきたのだから。
いつもと違う頼み方と言っても、目の前にいるのは幼馴染で変わらない。様子や態度が少し違うからと言って、俺が態度を変えて接したりはしない。
「どうしたんだよ?」とあくまでいつも通りを装って、返答してみた。それに、対し千紗は、「えっとねぇ……うーんと……なんて言ったらいいんだろ……」と妙に歯切れが悪い。
「お、おい?ほんとにどうしたんだ?」
ここまで歯切れが悪い千紗は初めてみた。そんな様子から知らないうちにこちらまで、なんだが緊張してしまう。
「いや、なんか、そんな重大なことじゃないんだけどね??」
「それにしては、いつもと違くね?」
「えっ!?私、いつもと違う???」
「ああ、気持ち悪いくらいに違うけど……」
つい口を滑らせて気持ち悪いと言ってしまった。いつもなら耳を引っ張られるか、無言で足を踏んでくるかの二択なのだが、今日はそんなことをするどころか考えている暇もないらしく、ただひたすらに「え?マジで??どうしよう!!」と慌てている?焦っている?だけだった。
なぜ、千紗は俺に向けてそんな態度を取る必要があるのか?これは、千紗がいつもと違う様子で俺に話しかけてきた時からなのだが、さらに疑念は深まるばかりであった。
「何か言いたいことがあんならしっかり話してくれよ?」
別に痺れを切らしてこんな風に言ったわけではない。いつもなら、だいたい面倒事だから巻き込まれないようにすぐに話題を変えるのだ。
だけど、今日はやはりなんか違うのだ。説明しろと言われても全くをもってできないが何か違和感が拭いきれない。
なんか、雰囲気というか、誇張もなしに彼女が言葉を発してから部屋全体の空気が一気に変わった気がしたのだ。
「いやさぁ……しっかり言える内容じゃないんだよねぇ………」
俺がそういうと、千紗は尚も気まずそうな返しをしてくる。いや、そんなに気まずいなら話さなくてもいいけどさ!
と心の中で一瞬思ったが、過去にそれを言って、「ちゃんと聞けよバカ!!」って理不尽に頭を叩かれた覚えがあるので、2回目は阻止する。もう、俺は脳細胞を決して無駄にはしない。(脳細胞も守れないで何が男だ!!)
「そう言わずにさぁ……きっと、異性の俺だからこそ話す悩み事なんだろ?」
「いや、ぶっちゃけ同性の方がずっとマシ」
「じゃあ、同性にしろよ!」
「ムリ………」
「……なんでだよ?」
「だって………一番信用してるのは宏太だもん……」
なぁ………ちょっと、死んでもいいか?
俺の幼馴染が可愛すぎるんだが……
さっきと変わらず視線を微妙に外しながら言うのやめてくんない?しかもしっかり頰赤くなってるし……
マジで、恥ずかしがっているのバレバレなんだが……
俺の欲はこの一瞬で満たされた……と言っても過言ではないほどの眼福した瞬間だった。
しかし、この場で有頂天になっている場合ではない。状況が状況だ。幼馴染が何かとてつもなく言いにくいことを言おうとしている。
ちゃんと、相談に乗ってやらねば………
「ありがとな、俺も千紗のこと世界一信用してるよ。」
「え??マジで?!」
「ああ、マジ。異性の中で世界一信用してる」
その言葉を言った瞬間、彼女の顔がすごく赤くなった。真正面からこんなことを言われる耐性がないのかすごく照れている様子だった。もちろん、これは俺が意図的に言ったものだ。少しでも俺の気持ちを伝えようとして。
「ありがと。宏太のお母さんに勝てた……嬉しい」
「なんで、対象が親なんだよ?」
「だって……そうでしょ?」
少し笑いながら、千紗はそう言ってきた。完全にバカにしてるなこれ。
「何を言いたいのかわからないなぁ……」
「虚しくならない?」
「ならないなぁ……別に千紗が一番なだけで他にもいるからぁ……」
「………えっ??い、いるの?」
「ああ、ま、まぁな……そりゃいるさ。千紗よりも多少は劣るけど信用できるやつくらい。いつまでも、昔のままではいられないしな」
俺は強がって見せた。なんか、そんな風に見られているのが嫌で少しでも対等になりたくて。いる風を装うという言い方は少しばかり過言だが、それに近い風に装った。
「そそ、そうなんだぁ……」
そう言った後、彼女は俯いた。
俺にだって、気軽に話せる女の友人の1人2人はいる。だけど、なんだろう……この千紗の動揺は……
「そうなんだよ……ここ最近急にな、距離縮んで深まって……」
「へ、へぇ……そ、そっかぁ……」
「で?なんの、相談なんだ??」
少し誇張し過ぎたと思って、話をそらし俺が再度尋ねると、彼女は俯いたままだった。
「なぁ、どうしたんだよ??」
と俯いている彼女を覗き込むと唇を噛んで必死に涙をこらえている千紗がいた。
「ど、どうしたんだ!!?」
全く予想外の反応だった。なんで泣いているのか到底理解できない。
すると、彼女は涙声になりながらも、
「実は……お願いはさ、私好きな人がいるからそれを応援して欲しいんだぁ……」
彼女の言葉を聞いた瞬間、俺の心は何かにえぐられたような気がした。俺の幻聴であってくれと、願ったがしっかりと脳裏に焼き付いてしまって話そうと思っても離れない。嫌なはずなのに、どうしようもない。
もう、泣きそうなんだ……だけど、俺は幼馴染の応援をしたい。
だから、必死に堪えて、
「だれなんだ?」
「!!……それは言えない……」
「信頼してるんだろ?」
「だけどそれだけはムリ………」
ここまで彼女が頑なだったのは、久しぶりだった。信頼という言葉を使って彼女のプライベートをすべて吐かせるのは筋違いだ。
「わかったよ……俺はお前の力になる。何をすればいいんだ?」
「えっ……て、デートの練習とか、告白の練習とか………」
「わかった。お前が満足するまで付き合ってやる」
とそう言った。すると、彼女は以前にも増して涙を流して。
「少し不安だったんだぁ……だけど、宏太は信頼できる……これで安心だね……」
と笑顔を見せたのだが、その笑顔今のなってはいつもよりもほんの少しだけおかしかったような気がする。
だけど、メンタルがズタボロにされていた俺はそれを自分の都合のいいように受け取ってしまった。
俺に応援を受諾されて、安心しての笑顔だった。
彼女がよこした、信頼と安心。これは恋愛ではなく、友情としてのものなんだと。
読んでくださってありがとうございます。
久々に投稿したので少し緊張してました。
前作のものも完結させていない状態で始めてしまいましたが、前作もしっかり完結させます。
モチベのためブックマーク、評価よろしくお願いします。