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■転性悪役令嬢 ~男になって破滅フラグを回避したいだけなのに、Fクラスの下克上とか溺愛とか知りませんっ!~  作者: 富士とまと


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誕生日会でマルヴェルと友達になりました

 朝からバタバタと侍女たち執事たちが速足で動き回る屋敷。うん、走らないんだよね。さすがエリート侍女や執事。もう、競歩で優勝できるんじゃレベルのスピードだけど走らない。

 とか、思いながら誕生日会の準備をしている。私は、着替えて髪を整えて終わり。

 一応、招待客の話を聞かされてるんだけどさ。

 国内の貴族ほぼ全部来るんだって。王家の次にすんげー家だから……だけど。

「今度こそ女の子が生まれたんじゃないかって期待してる人も多いんだよ」

「そうそう、女の子だったら、息子と婚約させたいなんて輩がなー」

「去年のあからさまにがっかりした貴族たちの顔は忘れられないなぁ」

 去年というと、兄7の誕生日会のことだよね。お祝いに来てるのにがっかりした顔しちゃうとか、修行の足りない貴族ですねぇ。

 しかし、公爵令嬢のままだったら、私、誕生日会からいろんなところから狙われちゃったんだねぇ……やだやだ。私自身じゃなくて、公爵令嬢だという肩書だけで人生動かされるのとか。

 その点、公爵家8男ともなれば……。

 あれ?

「お兄しゃま、娘の婿にと貴族の人たちに思われないのでしゅか?」

 家督を継ぐことはできない次男以下とはいえ、公爵家とのつながりができる上に、イケメンだ。それなりにうちの娘をっていう貴族はいるのでは?

「王子の婚約者が決まっていないから、今は大丈夫だよ」

 にゃるほど。できればもっと上を狙いたいってことか。

 王子1(獄中死)と王子2(発狂死)もたまには役に立つものだな。


 そして、公爵家八男「リザーク」の誕生日会は、多くのがっかりする貴族の顔を眺めながら終わった。

 いやぁ、面白かった。

 お母様には同情の声もあった。そう、女の子が生まれるまでと産み続けること8人目も男の子だった……と、思われての同情。

 うん、本当に母のことを思って涙している人には申し訳ないと思ったけどね。お母様の友達のクレアさんは、女を産み続け5人目にして男の子を授かったらしく、それはもう、母の気持ちを考えると涙せずにはいられないようで。

「ふふふ、でも、私は幸せだから大丈夫よ、クレア」

「うん、そうよね。そう。とてもいい子たちばかりだもの。公爵家の将来は安泰ね。それに、男の子なら、うちのマルヴェルと同じ年だから、いいお友達になれるわね」

 クレアとお母様が呼んだ女性の後ろからぴょこんと黒い頭が飛び出した。

 黒髪に黒目っ!うわー。顔ものっぺりして日本人っぽいっ。なんか落ち着く顔だ。

 乙女ゲームらしいイケメンぞろいのこの世界において、なんと平凡な顔なのだろう。とはいえ、十分かっこいい顔してるんだけどね。クラスで1,2を争う人気者レベルには。

「ほら、マルヴェル、リザーク様にご挨拶しなさい」

「お、お誕生日おめでとうございましゅリザークしゃま。俺……あ、うんと、僕はラクテ・マルヴェルで、4歳です」

 ラクテといえば、侯爵家だったはず。

 ぺこりとマルヴェルが頭を下げた。

 ふふ。後ろの髪に寝ぐせ発見。

 か、か、かわいいっ。

「僕はリザークでしゅ。様はいらない。マルヴェル、友達になろう」

 つい、礼儀作法とかいろいろ忘れて、右手を差し出す。

 挨拶が握手なのはこの世界では普通じゃなかった。うっかりしてたー。手を差し出すイコール、手をつなぐ以外の使用法はないのである。

「うん」

 差し出した手を、マルヴェルが握る。

「あら、よかったわね。さっそくお友達ができたのね。リザーク、もうお披露目は済んだのだから、遊んできていいわよ」

 やった。もう愛想笑いを振りまく必要ないんだ。

「じゃ、あっち行こう!」

 そのままつないだ手を引っ張って会場を離れる。

 バラ園についたところで、手を離して、マルヴェルの手の平を見る。

「何?」

「すごいね、マルヴェル、これ、豆がいっぱい」

 手を握ったときに気が付いた。マルヴェルの手の平は硬くて、豆のごつごつがあった。

 まだ私と同じ4歳だというのに。

「俺、騎士になりたいんだ。だから、剣の練習するのは当たり前だろ?」

 マルヴェルの目がキラキラと輝く。

「そっか、騎士になるんだ」

「そう。それで、いつか、悪いドラゴンをやっつけるんだ!」

 うん。この世界にはドラゴンいませんけどね。子供向けの絵本には出てくるけれど……。

 ふふふと思わずほほえましくて笑ってしまう。

「なんだよ、俺には無理だって言うのか?」

「違うよ、騎士ってお姫しゃま守るのかと思ったら違ったから」

「ん?ドラゴンをやっつけるのは姫を守るためだろ?知らないのか?」

 ああ、そういえば、絵本はそんなストーリーだったっけ。

 マルヴェルが、私が絵本の内容を知らないと思ったのか、一生懸命舌ったらずな口調で物語を聞かせてくれた。

 かわいい。弟がいたら、こんな感じなのかな。

 あ、私の方が生まれたのは遅いんだっけ。

 それにしても、なごむわぁ。

 日本人っぽい色合い、なごむわぁ。

 思わず手を伸ばしてマルヴェルの髪の毛をなでなで。

「黒い髪……」

 攻略対象にいなかった。モブにも。

 ってことは、マルヴェルは完全に乙女ゲームの外のキャラ……じゃなくて、人間なんだよね。っていうことは、私の死亡フラグには全く関係ない人間ってことじゃない?

 マルヴェルが慌てて髪の毛を抑えた。

「く、黒じゃなくて、すんごく濃い茶色だからなっ、俺は、不吉な黒色なんかじゃないんだ……」

 おや?黒が不吉?そんな設定あるの?初耳だ。

「だれが、黒は不吉だって?わ……ボクは、黒も大好きだけど?」

 マルヴェルの目が信じられないと顔を上げる。

「ボクの目は濃い紺色でしょ?夜に鏡を見ると黒く見えるよ?おとうしゃまもそうだよ?夜会うと不吉になったうの?そんなことないよね?」

 にこっと笑うと、マルヴェルがこくんと頷いた。

「そういえば、僕の髪、薄い金色は、剥げやすいから不吉だって聞いたことあるよ?マルヴェルは僕の髪を見ても平気?」

 っていうのは、二次創作本にあった表現か。兄1が王子から悪口言われたシーンにあった。その髪の色はきっと将来剥げる、とか馬鹿なセリフだったなぁ。

「お、俺、リザークのキラキラした髪の色好きだぞ!」

「うん、じゃぁ、お互いに好きな髪の色しててよかった。友達になれるよね?」

 にこっ。

 ん?ちょっと照れたような顔で頷くマルヴェル。

「リザークは将来何になるんだ?」

 おう、考えてもみなかったな。死なないようにすることしか考えてないし。

「うーん、まだわかんない」

 7歳になったら学校の初等部が始まる。11歳からは、中等部が始まる。

 高等部は文官コース、騎士コース、総合コースに分かれる。中等部ではある程度その基礎を学ぶ。

 15歳から乙女ゲームの舞台である高等部。文官コースにヒロインが入学してくる。うん、文官コースはないな。総合コースは、時々文官コースと授業がかぶるから……。もう、一択じゃね?

「僕も、騎士かな?」

 騎士コース通うのが一番安全としか思えないのである。うん。

「そっか、じゃぁ、いっしょに剣術も練習しような!」

 ちなみに、中等部まではいろんな地域に学校があるけど、高等部は国内に学校が3か所しかなく、中等部で優秀な成績を収めた人間しか入れないんですよ。

 入学できない15歳は、王侯貴族子女は花嫁修業。子息は、働く。跡取りであれば親の手伝い。2男以下は外に働きに出る。お城に勤めたり、何らかの見習いになったり。


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