悪役令嬢は、八男へと転性しました
「というわけでリザが男になりたいと言うのだが、どうしたらよいだろう」
ご飯うまうま。
いやぁ、この世界のご飯はおいしいのですよ。前世知識で食改革みたいな展開はないです。はい。
お父様が、私の言葉を皆に伝える。
「父上、リザが望むままにかなえて差し上げるのが一番ですよ」
15歳長男。
「跡取りなどが問題になることはないでしょう。リザの思うままに」
13歳双子の次男の言う通りです。男児が公爵家を継ぐという問題も、兄がたくさんいるので私が令息になってももめません。
「そうか、リザは面白いことを考えるね」
13歳双子の三男。
「名前を考えないといけませんね。リザベーナでは女名ですし」
11歳四男。
「誕生日会の衣裳なども作りなおしになるね。一緒に選ぼう」
10歳五男。
「リザ、一緒に勉強してお父様の役にたとうね!」
7歳六男。
「僕にも弟ができるんだ!」
5歳七男。
誰も反対しないのかよっ!いいのか?そんなに簡単で?
「リザベーナ」
最後に母が真剣な顔を向ける。
反対?やばい。お母様が反対すれば、全員の意見は覆る。なぜなら、この家の正義は母なのだ。
「リザーク、リザークという名前はどうかしら?」
ドヤ顔を見せる母。
「は、はい!おかあしゃま、リザークってとってもかっこいい名前です!」
お父様が立ち上がる。
「よし、ではすぐにでも呪いをかけてもらおう!」
「そうね。誕生日会に間に合うように今すぐ呪術師を呼ぼう」
この世界に魔法はありませんが、呪いはあります。
眠りの森の美女が眠らされたり、かえるの王子様だとか、白鳥の湖だとか、童話に数々出てくる悪意のある魔法だけあるんですよ。魔法とは言わず呪いと呼ばれてます。
魔法がないんだから、鑑定魔法で見破られたり、魔力を感じるとかで怪しまれたりとかもナッシングです!
さいっこーだぜ!
ビバ呪い!
呪いで、私、はれて身も心も男になります!
ぐ、ふふ。
これで、これで、悪役令嬢卒業なのだぁ!ははははっ!
死ぬもんか!
陽の呪術師による呪いにより、私、無事に男の子になりました。あれが生えました。きゃっ、新鮮。
これで無事に、悪役令嬢生活は終了です! あ、でもまだ懸念は残っているけれど。
「ふふ。嬉しいわ。リザ。一人で2度おいしいんだもの。かわいいかわいいリザ」
お母様が嬉しそうにドレスを私に着せています。
陽の呪術師の力は陽が出てる間のみ。太陽が沈むと、女に戻っちゃうんだよね。そう、陽が沈むと令嬢に逆戻り……。
白鳥の湖とかもそうだったよね。夜だけ人の姿に戻るとか言うあれだ。呪いを解くには、王子様のキスだっけ?それは白雪姫か?眠れる森の美女だっけか?
とにかく、呪いも万能ではなく、夜になると残念ながら女に戻っちゃうんだよ。うぐぐ、絶対に女だとばれないように生きていかなければ!でなければ、悪役令嬢としての役割を負わされ、死亡エンドが待っている……。
本当は念のため、攻略対象たちとも距離を置きたいんだけどね……。
「リザ~!今日もかわいいねっ!」
「流石は僕の妹だ」
「僕たちの、だろう?それに弟で妹なんて最高だよっ!男の子になったんだから、明日は僕が乗馬を教えてあげるよ」
「あ、兄さまずるいですよっ!明日は僕が剣術を教える約束なんですからっ!」
「私はリザに歴史学を教えてあげるよ、男児たるもの学も必要ですからね」
「学?いやいや、必要なのは筋肉だろう!リザ、朝のトレーニングを一緒にしような!」
「ぼ、僕はじゃぁ、ダンスを教えてあげるよ。先生に上手だって褒められたんだ。あと、えっと、うーんと」
実に、攻略対象10キャラ中7キャラは兄……2キャラが王子、そして最後の1キャラは百合エンドの私自身だ。
ちょっと、泣いていいかな……。いや、泣く必要なんてないよね。
うん。だって、私は悪役令嬢改め、公爵家八男ってそりゃないよですから。むはは。
……いや、でも、兄に溺愛されるあまり、なんか、スケジュールがとてもタイトなのですけど。
朝の筋トレ、乗馬練習がてらの散歩、剣術に、歴史学、戦術訓練、地理額、経営学、ダンスに、マナー、薬草学……。それから……。
やりたくないなんて言おうものなら、泣く。いや、泣きそうな顔になる。
イケメンが泣く姿なんて……見たい。だって、推しキャラなんだもん。兄たち!
推しキャラにしごかれるのも悪くもないと、兄たちの私を構いたい合戦ゆえの特訓に耐えられるのである。
攻略対象だけあって、どの兄も、その道に秀でてるため、なんていうか、4歳児にそのレベルを要求しないで!と、涙目になりつつも、推しと過ごす時間は至福です。
っていうか、男の子の体すごい!体力とか無限大じゃね?あ、限界来たらすぐ寝ちゃうけど。コテッ。
夕飯。日が暮れて幼女姿に戻る。おや?今日も特訓終わったとたんにお昼寝しちゃったみたいです。夕飯の匂いで目が覚めました。夕飯大事。
「ずるーい、私も、リザに刺繍を教えてあげるわ。それからダンスも」
日が暮れて女になってからは、お母様の特訓が始ります……。ちょっと休ませて。
あ、そうだ。
「お母しゃま、お誕生日会のお洋服見たいです」
そう。もう明日が誕生日会なの。……なので、兄たちの付け焼刃の特訓も、まぁ役にたつといえば立つ。男としての立ち振る舞いの基本は身についたよ。礼の仕方とか男女で違うからさ。
「そうだったわ!明日の準備が先ですね。ほら、見てごらんなさい。急なことなので、アルフの予備に作らせた物だけれど……アルフとリザは髪の色も瞳の色も同じだから似あうと思うのよ」
アルフは長男。兄1のことね。
綺麗な薄い金の髪に、黒に近い濃紺の瞳をしている。髪の色が母親譲り。瞳の色が父親譲りだ。
侍女が持ってきた服には、瞳の色と同じ上着に、髪の色と同じ金で刺繍が施されている。
ふわぁー。かっこいい。鷹と剣をデザインした刺繍。中二病をくすぐるかっこよさだ。
「気に入りました。ありがとうございましゅ」
「リザ、ごめんなさいね。リザのために新しい服を作ってあげられなくて。来年の誕生日会にはきっと世界一素敵な服を仕立てるから」
「そうだぞ。リザ。今からすぐに来年の衣裳の準備を始めよう!」
……いや、もうね。いくら金持ち公爵家でもね、お金の使いどころはそこじゃないと思うんだ。もっとさ、社会福祉とか、人々のためにもお金使おうか?
「ううん、リザね、おにいしゃまと同じは嬉しいのよ。来年はベスランお兄様のお洋服がいいのよ、その次はシェルお兄様で、それから」
兄たち号泣。
麗しい!飯4杯はいけるわ。
……うん。ご飯おいしい。
今日の夕飯は白身魚のムニエル。この世界、現代日本レベルに食材豊なんだよなぁ。バターの風味に表面カリ、中がふわっと。うめー。うますぎるぅ。
もぐもぐ。