第13話 絶句
「稽古おいでや」
大阪駅に着いたとほぼ同時に、社長から直々に電話が来た。場所は太陽カンパニー本社内にあるスタジオだ。
「今大阪駅に着いたのですぐお伺いします。持ち物とか何か必要ですか?」
「手ぶらでかまへん」
「ありがとうございます」
僕は早歩きで会社へ向かった。
「こんにちは」
今日はいつもの美人受付嬢は居なかった。少し年配の方で、お母さんみたいな人がスタジオまで案内してくれた。
「頑張っておいで」
優しい励ましの言葉をかけ、受付に戻っていった。
「失礼します」
「こんにちは。翔太君だね、荷物はそこのロッカー使ってね」
スタイル抜群で滑舌も良く、美人なこの人が先生だとすぐに気がついた。
「演劇は初めて?」
「はい。学校の演劇も裏方ばかりしてました」
「珍しいね。翔太君は俳優志望だよね?」
「えっと、自分でもよくわからないんです」
先生は少し不思議そうな表情をしていた。それも無理はない。俳優を目指して入ってくる人は演劇経験のある人がほとんどだろう。ましてや、僕みたいな裏方ばかりしてた人がこのような場に来ること事態場違いなのかもしれない。
「そっかあ。じゃあなんで俳優するの?」
僕はあの日の出来事を話した。もうこの話をするのは何回目だろうか、ナレーターのごとくスラスラと言葉が出てくる。
「あの人は別格だからね。本当に頂点に立っている人だよ。じゃあ、レッスン始めようか」
「お願いします」
初心者の僕に先生は手取り足取り教えてくれた。演劇のレッスンは想像していたより楽しく、時間はすぐに去っていった。
「今日はこの辺にしようか。毎週金曜日に大阪に来るから予定空けといてね」
「わかりました。普段はどちらにおられるんですか?」
「東京だよ。今日もこれから新幹線で帰るんだ」
「そうなんですね。お気をつけて帰ってください。何か自分で出来ることありますか?」
「うーんそうだねえ、ドラマとか映画を役者さんの仕草に注意して見ることかなあ」
「わかりました。家に帰って早速勉強さしてもらいます。本日は本当にありがとうございました」
「偉いね。頑張ってね」
天井から紐で吊るされたかのようにピンと伸びた背中で先生は去っていった。
「お疲れさん。どないやった?」
「楽しかったです」
「それは何よりや。あの先生はすごい人やからしっかり学びや」
そういうと社長さんは、先生に払うギャラを教えてくれた。僕は絶句した。二時間のレッスンでこれだけのギャラが発生していたとは思ってもいなかった。そして、あの先生は日本で五本の指に入るほどの技量の持ち主だということも。
「君には期待してるからあの先生つけたんや。普通やったら団体でレッスンするんやけど、君はずっと個人でいくからな」
「自分なんかにそんな、ご期待にお応えできるように精進して参ります」
なぜか社長さんが笑った。
「ほんま、もっとフランクでええのに。こういう所も君のええ所なんかもしらんけどな」
社長さんと雑談をしてから会社を出た。




