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懺悔

※本小説は小説投稿サイト「カクヨム」にも掲載しています

 こうゆうこともある、と川崎は思った。

 その日はたまたま紛争地域を回っていた。しかし、紛争地域と言えど人が生きる世界であることには変わらず、そして、そこで生きる人々はかなりの確率で近しい誰かを亡くしている。爆撃か銃撃か、人が殺したのか、機械が殺したのか、戦闘で死んだのかそれとも副次的な病気や飢餓で死んだのか――そのどれも大差がないことだとは分かっている。

 だからこんな場所に、牧師が来ることはよくあることだった。

 不幸中の幸いにして、この場所はキリスト教徒が多い。つまり、こうして牧師が説法していても急に爆発物を投げ込まれたりするような事態にはならない。

 川崎は典型的な日本人であり、宗教心はあまりない。外国人向けに『仏教徒』ということにはなっているものの、実際自分の家がどこの宗派なのかもはっきりしていないし、どうでもいいと思っていた。ついでに、中学高校は私立の中高一貫校に通っており、そこが緩いキリスト教系だったこともあり、聖書はざっと知っている。

 そんなことがあったせいか、軽い気持ちで相棒――というか、可愛い後輩である鈴木を誘ってみようと思った。


「行かねぇ」

「そんなこと言わないでさ、ほら」

「……行きたくねぇ」


 明確に拒絶していた。

 鈴木という、この少年はかなりズボラで面倒くさがり屋であったりする面を川崎は知っている。そして、年頃の少年なら仕方がないだろうとも思っている。

 だが、ここまではっきりと拒むのは珍しかった。


「……どうしても?」

「行きたきゃ川崎が一人で行けばいい、俺は嫌だ。ああゆうのは、嫌いだ」

「……」


 神父をここまで嫌う人間も珍しい、と川崎は思った。

 あまりに川崎が動かないせいか、鈴木は「しょうがない」とでも言うようにため息をついた。


「俺が子供の頃だった。震災からまだゴダゴダしてた辺りだった」


 長い説明が始まった。


「あの頃は飯もなくって、何食ってたのか今じゃよく思いだせねぇ。だけど、とにかく腹が減ってた。そしたら炊き出しやるって言われて、ホイホイついていった。

 そしたらシンプだかボクシだかよく知らねぇけど、何かそれっぽい奴が喋ってた。まぁ、めんどいけど飯が食えるんならいいやって思ってた。

『神は乗り越えられる試練しか与えない』とかそんなことを言っていたような気がする。それを聞いて泣いてる奴も居たような気がする」

「……あぁ、うん……そうだね」


 恐らくは日本の教会が慈善活動の一環で訪れたのだろう。

 よくある話だと川崎は思った。


「何か話があるヤツは来いって言ってた。子供が優先だとも言ってた。

 だから俺は話をしに行こうと思った。

 ……死んだ親のことを聞きたかった。父さんと母さんはちゃんと天国に行けたかとか、俺のことを恨んでいないかとか……もう苦しくないか、熱くないかって。

 柄にもなくそんなことを話したかったんだと思う。

 そしたら、何があったと思う?


 ……あいつら、手ェ出してやがったんだよ。ホイホイ釣られて来た子供に」


「……え……?」


「男だったのか女だったのかは分かんなかった。俺もガキだったから何してるのか……何されてんのかは分かってなかった。だけど、これはヤバいってことだけは分かった。

 まぁ、今なら分かる。孤児ばっかりだったあの状況で、ド変態が、慈善活動の皮被って、食いまくってたってことだろ? 殴りこんでくる親兄弟も居ねぇし、都合がいい。その後『勝手に』死んでも震災の事故死か、病死扱いってことになる。

 最高に都合がいいんだろうがよ。

 ……けど、そんな最低のゲス野郎が説く説法やら祈る神なんかクソくらえだ」

「……」

「別に、皆が皆そうじゃねぇってことは分かってる。中にはマトモな坊主もいてマジで神様信じて祈ってる奴もいるんだろうよ。

 ……でも、俺は、もう二度とあんなの見たくねぇ。

 だから行きたくない……もうこれでいいか?」


「うん……分かった……。……ごめん」

「謝んなよ」

 

 鈴木は川崎をじっと見た。

 きれいな目だった。

 だか、確かにこの目は汚れた現実を見てきたのだろう。

 そうしなければいけなかった過去があった。


「……お前はあいつらとは違うだろ?」

著:シャーデンフロイデ

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