第1夜
青春ラブコメっぽいものを書いてみたかった。
「アキ、起きて⋯⋯授業始まるよ⋯⋯」
「んあ⋯⋯照か、悪い」
俺は立花秋人。入学式後のホームルームで担任からアキトと読み間違えられることから多く友人からもアキと呼ばれている。少しボサっとした髪にいつも眠そうだと言われるタレ目、どちらかと言えばかわいいに分類される顔立ちの高校2年生だ。
起こしてくれたのは高1の頃からの付き合いで隣の席の斎藤照。ボーイッシュなショートヘアに丸くて大きな瞳、誰にでも軽いノリで声をかける上に必ず目を見て話すせいで勘違いからの玉砕を生み出しまくった魔性の女子高生⋯⋯
「なんか失礼なこと考えてない?アキはいつも起こしてあげてる僕にもっと感謝するべきだと思うんだけど?」
「⋯⋯ああ、そうだな。いつも助かってるよ。」
「わ、わかってるならいいんだよ!?わかってるなら⋯⋯」
照は普段はガンガン距離を詰める癖にこっちから攻めると割とすぐにヘタれる。そんなところがからかい甲斐があって楽しい。
「うなされてたけど、悪い夢でも見た⋯⋯?」
「っ⋯⋯!?悪夢だったのは確かだけど、どんな夢だったかはもう覚えてないわ」
「⋯⋯そう?悩んでることとかあったら相談に乗るからね。」
下手な誤魔化し方に何か察しても深く踏み込まずにいてくれるところもこいつとつるんでる理由の一つだ。
「立花、斎藤、もう授業始まってるぞー。」
「「すいませーん。」」
照が俺の袖を引っ張る。
「どうした?」
トントンと自分のノートを指差す。
(怒られちゃったね笑)
(照のせいだな)
(ゴメン、ゴメン)
(ま、お前との話は楽しいしいいけどな)
(バカッ!!)
そう書いて照れながらあっかんべーをする照はとても可愛かった。
授業中に照と話をするわけにもいかないから、さっきの夢について思い出す。しばらく前までは何度も繰り返し見ていたあの夢は細かい部分まではっきりと思い出すことができる。あの夢は高校生くらいの子らの間で噂になっている都市伝説、「夢世界」で俺が体験したことを夢で見ていたのだ。
ーー「夢世界」とは
曰く、眠っているときに夢の中の異世界に行くことができる⋯⋯
曰く、その世界ではなりたい自分になることができるらしい⋯⋯
曰く、夢世界での出来事はまるで夢だったかのようにはっきりと思い出すことができないらしい⋯⋯
そして、夢世界に行ったことのある人は夢世界へ行くことを「堕ちる」と言うーー
こんな風な噂が日本中の若者の間にもう数年前から、もしかするともっと昔から存在している。
そして、この噂はほとんど真実だ。夢世界に堕ちることができる人は自分がそうだと、口に出さないだけで結構いる。
夢世界での事を思い出しても現実にいるせいか確かに自分自身のことのはずなのにどこか他人事のような感じがする。夢世界にいる時だったら泣きじゃくって人前に出れない顔になっていたハズだ。
「アキ⋯⋯ねえ、アキってば!!」
「ぇ⋯⋯ああ、照どうした?授業中だぞ?」
「もう、授業どころか帰りのホームルームも終わったよ?呼んでも返事もしないくらいの考えて事とか本当に大丈夫なの?」
「うわ、まじかー⋯⋯すまん、ちょっと昔の事とか思い出してたらぼーっとしてたわ、悪いが後でノート貸してくれないか?」
「そういうと思って⋯⋯」
そう言って照が取り出したのは俺のノートだ。いつの間にか机に広げていたノートが無くなっている。
「ほら、アキの分もノート取っておいたよ。」
「ああ⋯⋯」
こいつは俺には勿体無いくらいできた友人だと思う。いい奴すぎるだろ⋯⋯
「お礼は?」
「あ、ありがとう、助かるよ。」
「じゃあ、放課後は図書館で勉強会だからね。」
「はあ!?なんでだよ」
「ノート取らないどころか授業聞いてすらいなかったのは誰だっけ?」
「はいはい、わかりましたよ。じゃあ、さっさと行こうぜ?」
俺は鞄を取って先に教室を出る。
「あー、待ってよー!」
すぐに照が追いかけてきて横に並ぶ。
俺はこんな平和な日常を、愛おしいと思った。