開店。
ふらっと立ち寄り、クスッと笑える。
日常と非日常の間、ありそうでない、そんなふわふわした不思議な感覚をお伝えできるような文章にできればと思っております。
是非楽しんでいってやってください。
街の角という角を曲がり、路地裏という路地裏を踏破する中で。
一度は「なぜここに存在しているんだろう」と疑問を持つような、寂れたお店や古民家を目にした事はないだろうか。
ゆれる白熱電球
少しの体重移動で軋む床
規則正しいリズムを刻む秒針
熱や湿気に影響され、香りを変える紙とインク。
そう、ここは少年少女が忘れ去った、路地の裏の奥の奥に存在する書店。
賢しい皆様はお気づきであろうが、「インスタ映え」だ「SNSを活用したダイレクトマーケティング」だ、などと囁かれる現代において、こんな書店が息をしていられるわけがない。広告代理店を経由して店の情報サイトなんぞを作成したところで、店にすらたどり着けず最低評価をつけられ、淘汰されるのが関の山だろう。
だが、淘汰されずに存在しているという事は、つまりそういう事だ。物事には必ず理由があり、この店にも需要というものは存在する。
「ごめんください」
齢100は優に超える古ぼけた扉が、声を漏らし、埃を舞い上げながら開かれる。
「いらっしゃいませ。ご用件はなんでしょう?」
ここは、様々な物語の為に存在する書店。
「私たちをここに置いて頂けないでしょうか?」
時を経て九十九神となった物語達の、様々な想いが飛び交う書店である。