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沈黙の山

 そんな訳で、ぼくはさっきの魔法をもう一度だけ少年にかけることを条件に、精霊の捕り方を教えてもらうことになる。彼はものすごく張り切っていて、あの山のようなカバンを背負ったまま、もくもくとぼくを目的地へと案内する。


 道すがら、ぼくたちは世間話をする。


少年の名前はパオといった。年齢は15歳で、村の外れでひとり暮らしをしている。

 パオによると、精霊は "沈黙の山"にいて、捕り方は死んだ父に教えてもらったという。

 「意外と由緒ある家庭なんですよ」と彼はいった。「なんか山の守り人的な……」

 「由緒ある家庭?」とぼくは口出しをした。

 「はい、そうなんですよ」と彼は照れたようにいった。

 「本当かな……あまりそうは見えないけど」ぼくはわざと意地悪なことをいう。

 「本当ですよ……」と彼はいった。

 「そうなんだ」とぼくは答えた。「まぁ、どっちでもいいけどね」


 若者と話すのは楽しい。若いというのは、ただそれだけで素晴らしい。


 パオには好きな女の子がいて、彼女の村を訪れるたびに、家の前に花を置いていくそうだ。

 「なんだ、ロマンチストじゃないか!」とその話を聞いたときにぼくはいった。

 「どうすればいいのか分からないんです」とパオはいった。「発展しないというか、ずっと平行線のままなんです」

 「それは、まあ、告白するしかないんじゃないのかな」とぼくは答えた。

 「でも、傷つきたくないんですよ」とぼそりと彼はいった。

 「失恋して傷つくよりも、何もしないで時を過ごすほうが辛いよ」ともっともらしく、ぼくはいった。

 しかし、実際のところ何もしないほうが楽なのではないのかな思う。恋心はいずれ風化するが、心に負った傷は癒えることはないのだから。

 このように考えているにも関わらず、ぼくがパオにあのようなことをいったのは、彼に失恋というものを体験させたかったからだ。

 失恋すると、ぼくたちの世界は崩れ去る。甘い空想は木っ端微塵に吹き飛ばされる。もうぼくたちは、いままでのぼくたちには戻れなくなる。

 でも、だからこそ、パオには大人になる前に失恋を経験してほしいと思った。それは、ぼくたちを賢くする最も簡単な方法だからだ。本当に、彼には勇気を出してほしいと思っている。


 このようにして、ぼくたちは沈黙の山に到着した。


 カタン……カタン……カタン……という音がする。

 さっきから歩くたびに、ぼくのなまくら刀が膝に当たるのだ。

 「沈黙の山って、結構レベル高いところだよね」とぼくはいった。

 「そうらしいですね、でも、子どものころはよく遊び場として使ってきましたよ」とパオは答えた。

 実のところ、ぼくはさっきから拍子抜けしている。沈黙の山といえば、このへんで一番危険なところだ。そんな訳だから、柄にもなくわざわざ剣も持ってきたのに、さっきから一度も魔物を見ていない。

 そのことをパオに質問してみた。

 「精霊の力ですよ」と彼は答えた。

 「でも、精霊って傷薬のためにあるんじゃなかったっけ?」とぼくはいった。

 「いろんな力があるんです」と彼はいった。「それに傷薬になるのは風の精だけです。火の精は攻撃力を上げ、水の精は素早さを上げ、地の精は防御力を上げます」

 「えっ」とぼくは思わず声を出した。

 攻撃力? 素早さ? へっ、なんだって?

 パオの言っていることはよく分からなかったが、とりあえず深追いはしないことにした。

 「すごいね、精霊って」とだけぼくは答えた。



 精霊はすごい、とぼくは思っていたはずだが、沈黙の山を上りはじめて2時間後、ぼくは目を覆いたくなるような光景に遭遇した。

 「おい、ちょっと待てよ」とぼくは立ち止まる。

 「ああ、面倒くさいやつに会いましたね」とパオは他人事のようにいう。

 ぼくたちはさっと隠れた。ぱっと見では分からないが、50メートルほど先にある木の上に魔物の影が……

 「かなりデカイな……」とぼくは息を殺していう。

 「"リトル・リヴァイアサン"です」とパオはいった。

 リトル・リヴァイアサンというのは、かなり上級の蛇型モンスターで、駆け出しの冒険者のぼくが出会ってたら一瞬で死亡するだろう。

 余分な情報かもしれないが"リヴァイアサン"と名がついているものの、実際は全くリヴァイアサンと関係はなく、完全な別種である。しかし、まあ、それでも危険であることに変わりはない。

 見た目はぼくが子どもの頃に見た『アナコンダ』というB級映画に出てくる巨大蛇とそっくりである。唯一の違いは、頭が2つある点だ。

 「おかしいな」とぼくはいった。「精霊たちの力はどうなった?」

 「本当に強力な魔物には効きませんよ」とパオは答えた。「沈黙の山は登れば登るほど敵が強くなります。もうすぐ頂上なので、これぐらいの相手は出るでしょう。」

 彼はさっきから不思議なほど冷静な口調で話している。そして、一方でぼくはといえば、さっきから膝のガクガクが止まらない。何だこの違いは……

 「どうすればいい?」とぼくは胸の高鳴りを抑えていった。

 「あなたが戦えばいいでしょ」と彼はさも当たり前のことのようにいった。

 「はっ!?」ぼくは心臓が飛び出るような衝撃を覚えた。

 「だって、あなた、ものすごい魔法使いじゃないですか?」とパオはさっと目を輝かせていった。

 うん、不味いぞ、とぼくは思う。というのは、そもそもぼくの "夢づくり"の魔法は発動条件が厳しいのだ。3秒以上も相手に触れないといけない訳だが、戦闘での3秒はものすごく長い。特に相手がリトル・リヴァイアサンみたいな獰猛な怪物ならば、ちょっと手が触れたが最期、ぼくは即刻お陀仏になるに違いない。

 「どうしました?顔、真っ青ですよ?」パオは心配そうな表情でぼくを見ている。

 「そうかな」とぼくは答えた。「でも、やっぱりちょっと危険じゃないかな、こいつは……」

 ぼくはそこで口ごもる。精霊の捕まえ方には興味があったが、死んではまったく意味がないのだ。

 「代わりにやりましょうか!」とパオは突然口を出した。

 「えっ」とぼくは訊き返す。

 「リトル・リヴァイアサンが出てくるのはいつものことなんで」と彼はいった。「すぐ終わりますよ」

 パオはあの山のようなカバンをどさりと地面に置き、中身をがさごそと探りはじめた。

 「火の精をつかいましょう!」と彼は快活にいった。

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