少年のとっておきの品
ぼくはどうすればいいのか分からなくなって、とりあえずボケットに手をつっこんで少年の様子を観察していた。
彼は確かに多少は情緒不安定そうにも見受けられるが、基本的にはいかにも異世界の少年といった感じで、動きはてきぱきとしていて、自信に満ち溢れていた。
「見つからないなら別にいいよ」とぼくはいったが、実際はこの少年に興味を持ちはじめていた。
彼はカバンの奥の方へ、ぐいっと手をつっこむと、突然目を輝かせた。
「いいえ」と彼はいった。「もう、見つけましたよ」
少年がカバンの中から何かを取り出した瞬間、強烈な光がぼくの目を射た。
「うわぁ!!」とぼくが叫ぶと、彼は楽しそうに笑う。
「すごいでしょ!!」少年はその強烈な光を放す物体をぼくの真ん前へ突き出した。
ぼくはさっと顔を背けたが、目はだんだんと慣れてきた。
「これは……」ぼくは言葉を失った。
少年が取り出したのは水筒ぐらいの大きさはあるガラス製の瓶だった。その中には赤、青、緑、茶、さまざまな色の発光物体がところ狭しと飛び回っていた。はじめそれは単に好き勝手に動いていただけだったが、やがて方向をそろえて、最終的には一種の虹の渦のようなものを形成した。
「精霊ですよ」と少年はゆっくり言葉を選びながらいった。
「ああ」とぼくは答えた。「そうらしいね」
実際、ぼくはこのときかなり驚いていた。ぼくは異世界について既にいくらか調べていたが、ここにおいても精霊は幻の生き物という扱いのはずだった。
「綺麗だね」とぼくはいった。
「それだけじゃないですよ」彼は胸ポケットから1枚のハンカチを取り出した。色が落ちてすっかり使い古されていたが、よく見ると何かの紋章が縫い付けてある。
「一匹つかまえます」少年がそっと瓶の蓋をあけると、精霊たちはぴたっと動きを止め、出口に一斉に向かいはじめた。
だが、少年は慣れた様子で、最初の緑色の一匹が外に出ようとした瞬間、さっとハンカチで瓶の口を塞いだ。精霊たちが次々とハンカチにぶつかると、彼は器用にその一匹だけハンカチごしでつかみ、素早く抜き取ってから蓋を閉めた。
「何を……するつもりだ」とぼくは訊いた。
「ちょっとした魔法をお見せしましょう」少年はもったいぶった風にいった。
彼は右手で精霊をハンカチでしっかりまるめ、もう一方の手でナイフをポケットから取り出した。
ナイフをしっかり持ってから、手に突き立てる。鮮やか赤色の血が溢れるように流れていった。
「それでは」と少年はいった。「まずは精霊を潰します」
「えっ」とぼくは訊き返した。
彼は頷くと、右手をぎゅっと握り締めた。
「おいおい、嘘だろ」とぼくは大声を出したが、少年は確実にぼくの慌てようを面白がっていた。
「これを見てください」彼はぼくにハンカチの中身を見せた。精霊の姿はもうなく、緑色の液体があるだけだった。
少年はその液体に指をつっこみ、傷口に塗りはじめた。しばらく待っていると、液体は発光する。
出血はおさまり、傷は完治した。
「面白いでしょ」と少年はいった。「超特効性の傷薬です」
「すごいね、でもせっかくの精霊が……」とぼくがいようとすると、少年は口をはさんできた。
「精霊は、いくらでも捕まえられます」と彼はいった。
その口ぶりにぼくは疑問をもった。なんといっても幻の生物だったし、それに捕まえただって……
「10000Gです」と少年はいった。
「えっ、売るの?」とぼくは驚いて訊いた。
これは間違いなく本物だったし、そもそも値段のつけられるものじゃないはずだ。
「なんですか、また値引きですか?」と少年は不満気にいった。
「いや、そうじゃなくて……」とぼくは訂正しようとしたが、途中でやめた。
「あのさ」とぼくはいった。「君はどうやってこれを捕まえたの?」
少年はびっくりしてぼくを見て、目をきょろきょろさせた。
「ああ、つまりあれだね、企業秘密ってやつだね」とぼくは皮肉を込めていった。
「はい……」と彼は答えた。
「どうやった見つけた?いくらなら教えてくれる?」とぼくは訊いた。
「無理です」と少年はきっぱりいった。
なるほど面白いな、とぼくは思った。この子はなにか秘密をもっている、それを暴きたい。小説家としてのぼくが囁いてきた。
「そうか、それならちょっとした魔法をお見せしましょう」とぼくはいった。
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