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黄昏OL迷宮日誌  作者: 太刀鋼 零
はじまりの薫子さん
3/17

0-3*

「基本的な説明については以上となります、次の部屋ではセーフティゾーンとなる『ショップ』や『ヘルプ』について説明させて頂くので、そのままお進みください」


 言い終わると同時に、女は縦に走ったノイズのような現象とともに跡形もなく消えてしまった。目的を果たしたから消えていなくなった? これじゃあ確証も何もあったもんじゃないじゃない。

 くっそーイライラする。

 前へと進むしかないことは分かりきってる。でもどうにも釈然としない納得がいかない感情までどうにか出来るとも思えないチェケラ。

 おまけにあの女の説明が間違いじゃないなら、ここにはモンスターとかいう化け物が居るみたいだし。本気で対処しておかないとアッサリ死んでもおかしくない。いや、その仮定がすでに現実的じゃないけどそうだっていうならそうなのねきっと。


 半ば諦め、半ば怒りの心境が複雑に絡み合ったまま、私は次の部屋に向かうべく入り口とは逆方向の通路へと足を向けた。入り口とは違って扉はなく、通路に入ってほんの数メートル先に次の扉はある。先ほどと同じ木製の扉には『セーフティゾーンについて』と書かれたプレートが貼り付けてあった。

 わずかに軋みをあげてドアノブを下げ、ゆっくりと押し開くと、先ほどと同じ程度の部屋が広がっており、その中央にはこれまた薄着の男が浮いていた。


「うわ〜」


 月次つきなみなリアクションだと我ながら呆れつつ、裸同然なのに肝心なところが見えない金髪碧眼のイケメンボーイの色んなところが気になりながらそろそろと部屋へと進み出る。

 透き通るような白い肌、涼やかな目線、程よく色づいた形のいい唇はわずかに微笑をたたえていて、少し傾げながらも注がれる視線に顔が熱くなるのが分かる。


 く〜〜〜っ!イケメンはやっぱり反則でしょう!

 歳は二十歳過ぎくらいかな? 肌つるっつるだわ! 睫毛なが〜い……はわわ〜。

 ある友達が声を大にして「イケメンは癒し」と叫んでいた事を鼻で笑ったことがあるけど、あの時の私を殴ってやりたいくらいの説得力がそこにはあった。たとえ誰がなんと言おうと、目の前に超絶イケメンが降臨すれば浮かれてしまうのは必然なんだ! ぎゃーーー!! イケメン万歳!!


 などと浮かれながらフラフラ近寄っていく私は、傍から見れば間違いなく不審者で通報されてもおかしくない挙動だったとおもうけど、残念ながらそんな存在はここには居ない。


 「ようこそいらっしゃいました。ここでは『ショップ』機能や『ヘルプ』機能についてご説明いたします」


 黙って微笑んでいるだけでも癒しなのに、その声もまた染み込むような美声イケボだなんて反則だぁああ……。


 「……を使うことで、ショップで販売されている商品を購入できます。それでは実際に購入してみましょう。ショップメニューを選択してください」


 はっ、呆けすぎて一部説明を聴き逃したっ!


「え?なになにショップ開けばいいのねオーケーわかったわ開け『メニュー』」


 私はそそくさとメニューを開く。言葉に出して開けといったほうが確実な気がして声に出す。開かれたメニューから『ショップ』を目線で選ぶ。


 「ショップ選択」


 ここでもやっぱり声を出してみた。なんかこう言うのって指差し確認と一緒で声に出したほうが確実な気がするのよね。そんな私の思いを汲んだのか、メニューのショップ項目はやんわりと光を放つと突然私の周りの空間に異変が起きた。


 突如として視界がぐらりと揺れたように思えば、またたく間に私以外に誰もいない真っ白な空間に投げ出される。さらに瞬きよりも早く、ガガガン! と鈍い金属音にも似た轟音とともに、おおよそ私を中心とした四メートル四方に壁や床が構築される。

 ……気付けば私は何かの店のカウンターの前に立っていた。


 「え?」


 「――いらっしゃい。何にするんだ?」


 「ええ??」


 カウンター越しに初老のダンディズム溢れる男性から声を掛けられて、ようやく我に返りつつも疑問符を声に出した。


 気づいてみればそこは、所狭しと商品らしき物が並んでいる何かの店内だった。


 キャッシュカウンターと思しき場所には、これまた小物類の商品が山のように陳列されており、店主らしき初老のやたらと古傷が目立つ男は、黒光りするナイフを磨きながらこちらを見ている。カウンターの中は狭いようで、小さな丸椅子に腰掛けるくらいのスペースしかない。私の背後にも商品が立ち並んでいて、一か所だけテーブルとイスが置いてある以外は木製の陳列棚だらけ商品だらけだった。


 「『ショップ』が展開されましたね。ショップを展開すると、どのような場所でも一時的なセーフティゾーンが形成されるので、安全にショッピングが楽しめるようになっています。では早速ですが、『回復薬』を購入してみましょう」


 急にカウンターにめり込んだ状態で先程のイケメンが現れる。ちょうど胸辺りから下がカウンターにめり込んでいるので、カウンターにイケメンが生えたような事になっている。


 「うおおおおうっ!!」


 私は思わず獣のように吠えた。女子力? そんな事言ってられるか!! 怖すぎるよコレは流石に!


 「回復薬を項目から選ぶか、店内の商品から回復薬をえらんで購入を選択しましょう」


 そんな私の胸中などおかまいなしに、イケメンカウンターと化した彼はショップの説明を続けている。

 あまりの衝撃に気付けなかったけど、視界の端に『かう』『うる』の選択肢が現れていた。『かう』項目をプルダウンさせると、『ぶき』や『ぼうぐ』、そして『どうぐ』から選択出来るようだ。店舗の作りも同様で、各種別に分かれて展示されているブロックが異なる事を後で知った。


 「回復薬の中でも最も効果の低いLポーション《ローヒーリングポーション》は、『どうぐ』項目内『一般』メニューの最初にあります。今回の必要ゼニーはこちらで負担していますので、お支払いは発生しません」


 さらに、店舗にある服飾装備は試着も出来るそうで、その際のステータスの変化についても都度確認が出来るとか。見ればそれらしい区画にそれっぽい衣類……というか防具だけじゃなくて服も陳列されている。さらによく見れば家具も陳列されているようだ。


 「あ、ゼニーなんだ」


 慣れた価値単位が出てきた事に少し安心した。メニューにあった単位に薄々気付いてはいたけど、こうやって聞かされると何だか現実との距離感がグッと縮まって来たような気がする。

 ……っていうかゼニーがあるってことは、これはやっぱり何かのゲームかなんかなんじゃないの? 数あるデジタル通貨がいわゆる貨幣を駆逐して結構立つらしいけど、たしかゼニーは暗号通貨なんて時代の混迷期に呼ばれてた頃からあるかなり古いクレジットの一つだったんじゃなかったっけ?

 今となってはマイクロペイメントにおける決済手段の一つとしてごく当たり前のように使われているけど、今じゃごく僅かな富裕層しか持ち得ないなんて言われてるビットコインがまだまだ一般的ですらなかった時代からある――っと、無駄に経済なんて専攻してるとこういう話だけは記憶に残ってるのよね。


 っていうかここは本気でどこなんだろう?


 私は回復薬を手に取りながら宙に浮くアイテムの説明文らしきウインドウに目を向けた。

 チップが埋められている訳でもないのにこんなガイド機能が表示されていることや、手に取った瞬間に視界感覚に直接表示されているような詳細情報に驚くが、男の言葉に従ってアイテムを購入し、ショップを閉じた。

 すると、先程までの光景がまるで嘘のように元いた四角い部屋に、私は件のイケメンと二人で立っていた。


「以上で、ショップに関する説明はおしまいです、お疲れ様でした。なお、ヘルプ機能についてもショップ同様に隔離されたセーフティゾーンへと移管のち、公開されているメニューなどの機能についての説明をご覧いただくことが極めて安全に行なえます、ぜひご活用下さい」


 「それでは、続いては戦闘訓練です」と不穏な言葉を残して、イケメンは姿を消した。


 「ああん?」

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