表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/58

  編入生4

 千穂ちほ壱華いちかの部屋に、幼馴染一同は集まっていた。

「さて、では、今日調べてわかったことを共有しましょうか」

仕切るのは壱華いちかだ。ダイニングの椅子に腰かけて、ソファに座る3人を見渡す。いつきが手を上げた。


「こっちは兄弟でまとめてありまーす」

「じゃあ、(いつき)から」

優秀、と壱華(いちか)(いつき)を指す。(いつき)はがさごそとジャージのポケットから紙を取り出す。それを広げて話し始めた。


二階堂武尊にかいどうたけるは、二階堂薬品の社長子息らしいよ。二階堂薬品の前社長の娘と、娘婿の間に生まれたっぽい。前の学校は東光学園で、我が国日本有数の進学校だってー」


最後の言葉に、ああと千穂(ちほ)は声を上げた。それに全員の視線が集まる。

「えと、先生もびっくりの超きれいな訳を英語の授業で披露したって」

聞いたんだよね。というのは言わない。居眠りしていたからあとから友人に聞いたというのは秘密だ。


「ほえ~。兄ちゃん、勉強習ったら?」

もう高校の範囲終えてるんじゃない?こんな進学校通ってたんなら。と(いつき)啓太(けいた)を見上げる。啓太(けいた)は目を泳がせて言い訳を考える。


「あ~え~と。そうだな~受験が見えてきてどうしても困ったら頼もうかな~」

「それ、もう遅いから」


(いつき)は冷たく言いきって、壱華(いちか)が淹れてくれたホットミルクの入っているマグカップに手を伸ばした。そんな弟の姿を啓太(けいた)は無言で見つめていたが、あきらめたように視線を自分の湯飲みに移してお茶を飲んだ。


「とまあ、こっちはこんな感じです」


空気が少しおかしくなったが、気にするなというように(いつき)がマグカップを置いた。


「そう」

壱華(いちか)は軽く苦笑で頷くと、自分の調べた結果を話し始めた。

「昨日、お母さんに頼んで、聞けるだけ村のみんなに聞いてもらったの。二階堂(にかいどう)さんって人知ってる?って。さっき電話して聞いてみたんだけど、知ってる人いなかったって」

ちなみに武尊(たける)って人間も知らないって。

「じゃあ、親が知ってるって、一方的にってこと?」

樹がその結果が示すことをまとめてみる。それに壱華(いちか)は頷いた。


「あいつの言うことを信じるならそうみたいね。あっちの関係者には千穂を知っている人間がいるけど、こっちには二階堂武尊(にかいどうたける)を知っている人間はいない」

「それ、やばくね?」

啓太(けいた)がやっとまともに口を開いた。しかし、それは何の解決策も示さない。

「それは、全員思ってる」

(いつき)にそう言われて、啓太(けいた)はまた苦い顔をして黙った。それに壱華(いちか)は苦笑するしかなかった。


「ていうかさ」

兄の発言をズバズバと切り捨てる弟(いつき)は、またも口を開いた。

二階堂武尊(にかいどうたける)の母親はさ、そこそこ情報出てくるんだよね。どこの大学出たとかさ。でもさ、父親のほうが全然わからないんだよね」

写真は出てくるんだけど。と樹はぼやく。

「怪しいなら父親かなと思ってる」

啓太(けいた)は湯飲みを置きながら言い切った。


「社長ってポジションにいる人にしては情報が少なすぎるなって思う」

だって、どこの学校出たかもわからないんだよ?おかしいよ。と(いつき)は力説する。

「じゃあ、二階堂のお父さんが私を知ってるってこと?」

「たぶん」

千穂(ちほ)(いつき)が頷いて見せる。


そっかーと千穂(ちほ)は膝を抱えてその上に顎を乗せる。お父さんが私を知ってるのか。お父さんは私のことを二階堂(にかいどう)になんて言ったのかな。


千穂(ちほ)を狙って、息子を編入させたのかしら」

その父親は。壱華(いちか)は目を細める。

「やっぱり危ないかなー」

味方になってくれたら助かるんだけどなー。と(いつき)が声を上げる。

千穂(ちほ)、あれから何か訊かれた?」

壱華(いちか)は昼休みの続きを訪ねた。千穂(ちほ)は首を横に振る。

「何も訊かれなかった」

「何かあったの?」

(いつき)が二人を交互に見る。


「うん。私に訊きたいことがあるんだって、でも、その先を聞く前に休み時間が終わっちゃったの」

そうなんだと(いつき)は視線を落とす。

「なんとなーく、何を訊きたかったのか聞き出したいな」

啓太(けいた)がぽつりとこぼす。

「そしたら、あいつがどこまで何を知っているのか分かる」

かもしれない。啓太(けいた)はちらと千穂を見た。


「-できそう?」

大丈夫かと問う瞳に、千穂(ちほ)は一度つばを飲み込んで視線を落とした。

「やってみる」

その自信のない姿に啓太(けいた)は苦笑した。

「うん。できたらでいいよ。」

優しさとも甘さとも取れる啓太(けいた)の態度に、千穂(ちほ)は頷いた。

「期待はしないでね?」

得意じゃないんだから。こういうの。


「じゃあ、ひとまず千穂(ちほ)待ちということで?」

(いつき)が問う。それに壱華(いちか)が頷いた。

「そうね。別に動きがあれば何か知らせて」

「じゃあ、俺たち帰るね」

ぴょいと樹は立ち上がる。それに合わせて啓太(けいた)も立ち上がる。

「おやすみ」

兄弟はそう残して部屋を去って行った。


「なんて聞けばいいかな?」

千穂(ちほ)は困った顔で壱華(いちか)を見上げた。それに壱華(いちか)も眉毛を下げて笑う。

「そうね。そういえば、昨日訊きたいことあるって言ってたけどって感じかしら」

「難しいな」

むむ~と千穂(ちほ)は膝を抱え唇を尖らせる。

「内容としては、あんまり聞かれたくないからひそひそ話が基本でしょ?」

じゃあ、休み時間?でも、休み時間は優実やあかりが一緒にいる。

「また、ホームルームの時間かな~」

斉藤の声に紛れて話せるだろうか。また注意されたら嫌だな~。

「機があればでいいんじゃないかしら」

どんどん視線が下がっていく千穂(ちほ)に、壱華(いちか)はそう笑うしかできなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ