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  標的7

―正直やばいな


二階堂は次から次にわいてくる妖相手に呼吸を乱していた。自分にその手の知識がないことをいいことにもてあそばれている気分だった。


「ほら、どうした!息が上がってるぞ!」


本間が楽しそうに笑う。


―命令されているんだろうな


汗をぬぐいながら周りを見渡す。本間自身には妖を操る力がないと言っていた。弟が、兄の言うことを聞けと命じているのだろうと頭は冷静に思考する。


碧には命令して結界の中で見守らせている。確かにここにいる妖の中では碧は弱い部類だったし、そもそもあかりの体で戦わせるわけにもいかない。


 戦場は英語準備室から準備室の前の廊下にへと移行していた。そこで二階堂は妖に取り囲まれる形になっている。傷も増え、シャツには裂かれている場所や血のにじむ場所が目立つようになっていた。


―来る


 数匹が跳びかかってくる。それを避けながら、苛立ちを募らせる。


―手伝うのに必要な情報もくれないってなんだよ


行けば分かるとでもいうように送り出した父親を思い出し、怒りはさらに増す。次々繰り出される技や術を避けながら、二階堂は叫んだ。


「邪魔だ!」


澄んだ霊気が赤く燃え上がり近場にいた妖を燃やし尽くした。その結果に本間だけではなく、二階堂本人も驚愕の表情を見せる。ぜひ今の技は繰り返し使用したいが今自分が何をしたかよく分からなかった。これでは再現ができない。


「さっすが武尊!」


碧はこの状況でも二階堂の勝ちを信じて疑わないらしい。はしゃいでいる。それも本当は少し苛立たしかったのだが仕方なく放置している。


「わぁ!」


突然背から碧の(正確にはあかりの)声が上がり、二階堂はそちらを振り向いた。碧の結界が壊されていた。


「碧!」


足を碧のほうに向けるが、その一瞬でがら空きになった背を狙われる。どちらもやられると思ったその時―


―シャン


澄んだ音がこだましたかと思うと、碧と二階堂を襲おうとした妖はざらざらと砂へと姿を変えた。


―シャン


何が起きたかわからないで驚いている二階堂の目の前にそれは現れた。


「どうしてこんなところに!」


それは驚いても仕方のないことだった。このビルの最上階に顕現するはずだった黄金の剣が二階堂の前に浮いているのだから。その剣はうっすらと金色の輝きをまとっていた。それに見とれていた本間だったが、すぐに我に返り叫んだ。


「あれに触らせるな!」


その声に委縮していた妖が動き始める。しかし、すでにその命令は遅く二階堂は剣の柄に手を伸ばし握った。


―シャラン


ひと際冷たく鈴が鳴ったと思った瞬間に、雑魚が広がる霊気に砂になっていく。二階堂は剣を構えて息を整えると一振りした。すると、刃が当たっていないにもかかわらず霊気の波動に侵されるのか大方の妖が姿を消した。


―いける


「碧!走るぞ!!」

「了解!」


剣の力が強いからといって、ここにいる妖全部を相手にするのは馬鹿馬鹿しい。そう判断し、エレベータに向かって走り出す。邪魔をしてくるものには剣を振り下す。すると近場の妖も巻き込まれて姿を消す。


―どういうからくりだ?


自身の強い霊力が広がり妖を退治するのだと二階堂には分らない。それでも進むしかなかった。


「行かせるな!」


本間が叫ぶ。それを聞き取った瞬間。


―殺せ


どこかから声が聞こえてきた。


―殺せ


直接脳内に響いていると気づいたとき、頭が一つの言葉でいっぱいになる。


―殺す


なぜ?


―高野原千穂に害をもたらすからだ。


本間が―正確には本間ではないが―いる限り自分は彼の弟に襲われているはずのあの小柄な少女のもとに行くことができない。だから


「邪魔だな」


きゅっと足を止めて体を本間のほうに向ける。そして駆けだす。自分に狙いが変わったと、本間は妖を盾にする。しかし、盾になれるほど強い妖はここにはおらず、ただ手ごまが減っていくだけだった。距離は簡単につまった。


 赤いピアスに守られた、甚大な霊力を持つ少年の綺麗な瞳がまっすぐに自分を冷たく見上げていた。そこにあるのは殺意さえ昇華されたただの事実。自分を殺すという、敵を殺すというただその事実が彼の瞳にあった。


「ひっ!」


ずぶりと刀身が腹を貫いた。


「ごめんね、先生」


名前も知らない人。


 どさりと、刃を抜けばその人は倒れた。まだ息があるのは知っている。しかし、放っておけばそのうち死ぬのも分かっている。だから、


「行くぞ、碧」


案内しろ。その言葉に笑った自分の顔が、あかりは大層恐ろしかった。


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