10.標的1
月曜日の放課後、またもなぜか今更生徒指導の藤谷に呼び出しを食らった二階堂が教室に戻ってくると、あかりと優実が手を振ってきた。
「お疲れー」
「相も変わらず話の長い先生ね」
時計を見れば5時だ。彼は確か4時過ぎに呼び出しを食らったはずだとあかりは記憶している。
「そう、そして意味もない」
「言うねー」
あははと優実が笑う。そんな二人を見つめて、二階堂は問いかけた。
「高野原は?」
「本間に呼び出されてた」
「あなたが寝ている横で真っ白なノートを見られちゃったの」
「気づかないって本当に寝てるんだね」
そう感心したように言われると、二階堂も少々居心地悪そうにする。
「今日は、まあ、いつもより寝たかな」
「あら、今日は特別なの?」
「そうだね」
受け答えをしながら鞄に教科書を詰める。ちなみに、彼は置き勉はしない質らしい。
「呼び出された場所分かる?」
「職員室じゃなくて、英語の準備室だったかしら」
「片付けの手伝いらしいよ」
「分かった」
ありがとうと言うと二階堂は足早に教室を後にした。その後姿を二人は見送った。優実は見えていないだろうに手を振っている。
「千穂を守るって大変だね」
「誰から守るつもりなのかしら」
「本間から?」
「でも、あれは千穂が悪いでしょう?」
「確かに」
ふたりはうーんと、なぜ呼び出された千穂のもとに二階堂が向かったのか考えた。そしてあきらめた。
「まあ、彼には彼なりの考えがあるってことでしょう?」
「そうだね」
あかりの言葉に、優実は頷いた。
そんなこんな話をしていると、教室に千穂が戻ってきた。
「うぅ~」
唸り声を上げながらふらふらと教室に入ってくる。
「あれ?千穂、二階堂は?」
「えぇ~?知らないよ~」
ばたりと、千穂は二階堂とは逆の自席の隣に倒れこんだ。千穂の席にはあかりがいたから。
「そうなんだ」
千穂とは関係ない用事だったのかな。と優実は首をかしげる。千穂ははあ~と大きく息を吐き出す。吐き出した息の分、机に平べったく広がったようだった。
「本間にいじわるされなかった?」
あかりが問いかけてくる。
「うん~。いろいろ重かったけど、いじわるではなかったかな~」
はう~と千穂は声と同時に息を吐き続ける。
「ほら、まあポテチでも食べて」
優実がポテトチップスを一枚千穂の口元に持っていく。千穂は目だけ動かしポテトチップスを見た。
「はむ」
と千穂は小動物のように優実の手にあるポテトチップスにかじりついた。一枚全部は口に入りきらなかった。残りは優実がぱくりと食べてしまった。
「帰ろっか」
優実が空になった袋をくしゃくしゃと音を立てて手に収めて立ち上がる。
「うん。疲れちゃった」
「頑張ったものね~」
あかりは柔らかい千穂の髪を撫でた。それに千穂はしばらく目を閉じる。そしてぱちりと目を開く。丸い目があかりを見る。
「帰る!」
そう一言主張すると、千穂はぴょんと立ち上がり黒鞄を机の横から取り上げる。それを見てあかりは席を立つ。千穂が机の中身を鞄に移すからだ。
「よし!帰るぞ!」
千穂の勢いに乗って、優実がおーとこぶしを突き上げる。それに千穂が楽しそうにくすくす笑う。
「今日のご飯は何かなー」
「カレーがいいなー」
「優実ちゃんはいつもカレー食べてる気がする」
「カレーは飽きないんだよねー」
という会話をしていると、千穂は帰宅の用意を終えた。
「行きましょうか」
千穂が帰り支度を終えたところであかりは笑った。
※
翌日、二階堂は登校してこなかった。




