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  仮初5

「実験内容は教えないよ?」


チャイムを鳴らしてみれば、第一声はそれだった。まあ、そうなるのも仕方ないかと四人は顔を見合わせる。千穂が、前を向いて口を開いた。


「今日はね、聞きにじゃなくてお話に来たの」

「話しに?」


千穂は頷く。


「私が何に困っているのかと、あと、剣について」


そういえば、二階堂は目を丸くした。しかし、すぐに平常心に戻ると四人を中に招き入れた。


 いつかのようにお茶を入れてくれる。


「それで、何に困ってるの?変なのに狙われることじゃないの?」

「それなんだけど、狙われやすい理由っていうのかな。それは知らないでしょう?」


そう千穂が言えば、二階堂は頷いた。


「私、『銀の器』って呼ばれる体質の持ち主らしくて」

「その言葉は初めて聞いた」


お茶を配り終えると、二階堂は空いている椅子に腰かけた。それを確認して、千穂は説明を始める。


「先生の説明も難しくて、自分でもよくわかってないんだけど、悪いこととか、良いこととか、そういうのってパワーがあるらしくて、私、そのパワーを吸収しちゃうんだって」

「良い悪い関係なしに吸い取っちゃうわけ?」

「そうみたい」


千穂は頷く。


「で、吸収はできるんだけど外に出すことができなくて」

「あんたは体の良い餌ってことか」

「そうなの。だからよく狙われるの」

「それと、剣がどう関係するの」


ここからがある意味核心である。千穂はうーんと首をかしげる。


「あのね、吸収した力を外には出せないって言ったでしょ?でも、それじゃ危なすぎるから一つだけ外に出す方法があるの」

「その方法が剣なの?」

「そう、剣がね、目覚めと一緒に顕現けんげんするんだって」

「目覚め?」


二階堂はそちらの説明を求めた。


「今でももう吸収してるんだけど、吸収量が突然一気に増えるんだって。それを目覚めって言うって先生が言ってた」

「ふーん、じゃあ、一層狙われやすくなるってこと?」


千穂はまた頷く。


「そうなの。だから目覚めと同時に剣を作り出してそれを強い人に渡すの」

「自分で使わないの?」

「・・・・私に使えると思う?」

「思えない」

「でしょう?」


自分で言い出しておきながら、千穂は少し機嫌を悪くした。


「私は、その剣を使ってくれる人を探してるの」

「剣を使って、守ってくれる人を?」


二階堂は冷たく笑った。千穂は、少し怖いと思ったけれど、言葉を続けた。


「そう。私、二階堂にその剣を使って私のこと守ってほしいの」

「幼馴染は?」


ちらと二階堂は視線を三人に向ける。


「俺たちに剣は使えない。使うには弱すぎるんだ。だからそれぞれ自分に合ったやり方で守ってる」


啓太が説明する。


「三人もいるのに、まだ守り手が要るの?」

「剣を使える人が、一番強い守り手なの」

「血統書付きとでも思ってくれれば」


樹の説明に、二階堂は笑った。


「なるほどね、ある程度強さを担保された人間が守り手にいるってことになるのか」

「たぶん、時間が経てば経つほど、敵も強くなるわ。千穂が蓄える力が強くなるんだもの。そのうち、私たちだけでは守り切れなくなる」


―それは、目に見えているの。


壱華はぎゅっと手を握った。二階堂はそんな壱華をじっと見つめる。そして千穂に言った。


「剣関係なしに俺はあんたを守るよ。約束したし。でも、剣は別。俺の目の前に現れたら使い手になってあげる」

「お父さんが、そう言ったから?」

「そう。目の前に現れたら迷わずに取れって言われている。俺は剣を自分から取りにはいかない」

「あなたって、お父さんのこと好きなの嫌いなの?」


壱華が困惑して問う。二階堂は迷うことなく答えた。


「嫌いだよ」


でも


「あいつは間違ったことは言わない」


だから


「高野原は本当に困っているし、剣も存在している。そして、俺がその使い手になるべきならば俺の目の前に現れるってことだろう?」

「そうだね」


樹がうなずいた。


「その時は、俺は剣を使って高野原を守るよ」


二階堂は笑った。どこか自嘲が含まれていると千穂は思った。


「で、ここからなんだけど」


壱華が手をパンと鳴らす。視線が集まる。


「あなたは何を実験しているの?」


その問いに、二階堂は心底困った顔をした。


「そっちからの情報開示があったから、俺も手の内を明かすべきなんだろうけど、教えられない」

「何が気になっているの?」

「―いつ、あんたたちの情報が洩れるのか、かな」


二階堂はどこか遠くを見ながら目を細めた。


「今はそれくらいしか言えない」


今度はゆっくりと首を横に振る。


―どこから漏れたのしか考えていなかった


それは四人が思ったことだった。いつ、いつかと問われれば―


「騒動が起きてるのは夜中だよな」


啓太がぽつりと言った。


「だから、騒動を昼に起こしてみただけだよ」


二階堂は啓太に向かって言った。


「これで、いつ相手が動くのかでいつ情報が洩れているのかわかるかもしれない。もしかしたら方法までわかるかもしれない」


俺は、それを期待している。


「待って、それ、しゃべりすぎじゃない?」


樹が静止をかける。二階堂は笑った。


「じゃあ、何か起きたとき用にまた手紙書いておこうかな」


そういうと椅子から立ち上がりどこかに姿を消す。すぐに戻ってきて、千穂に渡したのと同じ封筒を今度は樹に差し出す。


「俺の勘だと動くのは夜。だからあんたたちが異変を感じられるのは早くて明日、遅くて明後日」

「異変って、何が起きるの?」


千穂は不安で両手を握りながら二階堂を見つめた。


「さあ。前みたいに大群が来るのか、結界で隔離されるのか」


千穂は血の気が引いていくのが分かった。


「たぶん、同じ手は使わないと思うんだ」


二階堂は考え込むように黙る。そしてしばらくして口を開いた。


「何が起きるかは、そっちのほうが予想しやすいんじゃない?」


俺、こういうのよく分からないし。と視線を四人に投げる。


「次は軍団と隔離でやってくるかしら」


壱華がてきとうに口にする。そして立ち上がった。


「少しは気も晴れたし、そろそろおいとまするわ」


その言葉に、三人も立ち上がる。


「そう」


二階堂も再び立ち上がって玄関まで見送る。玄関で靴を履く四人に二階堂は言った。


「気を付けて。お互い話しすぎた」

「愚問よ」

「・・・・怪我するような無茶はしないでよね」


言い切る壱華に二階堂はまた注意を促すのだった。



―何もない


布団にもぐりながら、千穂はそう思った。何も動きがない。あまりに何もなくて、千穂は逆に恐ろしかった。


 ごろんと寝返りを打つ。背中が布団から出てしまったから調節する。そんなことを繰り返して、千穂は眠りについた。



「何にもなかったな」


暗くなった部屋で啓太は携帯をいじる。


「なかったね」


よく暗い中で携帯をいじれるものだと思いながら樹は答える。光が強いのが嫌で、布団にもぐっている。


「・・・・これでまた俺たちだけ蚊帳の外だったら受けるよね」

「だから携帯見てんだろ?」


いつ鳴ってもいいように。


「徹夜する気?」

「寝落ちするまで見てるつもり」


―じゃあ、そうもたないか


樹はどこでもいつでも寝ることのできる啓太の特性を思い出しそう判断する。だったら、携帯の光もすぐ消えるということで。


―背を向けて目をつむってよう


樹は頭を布団から出すと啓太に背を向けて目を閉じるのだった。



 壱華は自室を行ったり来たりしていた。時間は深夜2時。すぐにでも寝ないと明日に引きずる時間だ。しかし、体がそわそわとして寝つける様子がない。壱華はため息をついた。


「いつ、情報が洩れるのか」


確かにそれは気にすべきことであったのかもしれない。どうして、どこからだれが見ているのか。そればかりに気を取られていたけれど。


「いつ、情報を得ているのかが分かれば方法も分かるかもしれない」


そうすれば、相手の力量もわかる。


「何も知らないくせに、頭は回るのね」


少し苛立たし気に呟きながら壱華はベッドに座った。時計を見る。ため息をついて、あきらめて横になった。



日曜日も異変なく過ぎ、月曜日になった。


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