↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/58

  侵入3

「無関係ってことはなさそうだよな??」

千穂(ちほ)の様子を思い出しながら、啓太(けいた)はうーんと唸った。ちなみに場所は千穂(ちほ)と壱華(いちか)の部屋だ。啓太(けいた)はリビングのピンクのソファに腰かけている。


「無関係ではないと言うか、俺たちと関係がないことはないと言うか」

啓太(けいた)の隣に座る樹(いつき)が言い直す。

「じゃあ、絞りましょう?今日の騒動は彼が引き起こしたことだと思う??」

ローテーブルを挟み、向かいのソファに座る壱華(いちか)が人差し指を立てながら二人に質問した。

 

彼―二階堂武尊(にかいどうたける)-の持つ甚大(じんだい)な霊力に、彼をどう扱うべきかを3人は議論していた。彼は能力者だ。それは、敵になる可能性があることを意味している。

「妖(あやかし)自体とは相容れないよね」

「あんなのに近づかれたら、今日倒した奴らほとんど消えちゃうんじゃね?」

「わー!その力味方に欲しい!!!」

兄弟は会話を進め、樹(いつき)は抱えている両ひざに顔をうずめた。

 

彼の持つ強力な霊力は、彼の周りをうろつくことでさえ妖に許さない。そんな彼が妖を使役するだろうか。

「あれだけ強ければ、妖の力なんて借りずに済みそうだけどね」

壱華(いちか)もうーんと首をかしげる。

「って俺たちが考えると予想してあえて使役してたら困るー」

もうやだ!と顔を上げることなく樹(いつき)は叫んだ。弟の頭をポンポンと叩きながら啓太が言う。


「-それをするには不器用そうだったけどな」

「そうね。力自体は使い慣れてなさそうだったわね」

壱華(いちか)もうんと頷く。

「力を放出しているってよりは、こぼれちゃってるって感じだったもの」

それが異常な強さを物語っているのだけれど。

「てか、あれだけ強ければ銀(ぎん)の器(うつわ)要(い)らないよな」

「そうね~」

年長組が頭を抱えていると、樹(いつき)がばっと頭を上げた。


「じゃあ、二階堂(にかいどう)はひとまず要注意人物!千穂(ちほ)のこと知ってるみたいだったし!妖を校舎内に入れたのは別にいる!ってことでひとまずOK?」

「それが一番無難かしらね~」

「警戒しとくに越したことはないな」

それで行こうと啓太(けいた)は樹(いつき)の頭をわしゃわしゃと撫でた。パンと壱華(いちか)が手を鳴らす。

「じゃあ宿題!二階堂武尊(にかいどうたける)について調べられるだけ調べて明日情報持ち寄り!」

はーいと兄弟は手を上げて返事をした。


※


 千穂(ちほ)は湯船にその身を沈めていた。ぽけーと湯気で一杯の天井を眺める。家の結界を壱華(いちか)が強めてくれたから、今この家の中は安全だ。嫌な気配は少しもしない。こてっと浴槽に頭を預ける。


―金色(こんじき)が、頭を離れない。その金色(きんいろ)は、いったい何の金色(きんいろ)なのか。あの、二階堂(にかいどう)とかいう少年の髪の色なのだろうか。でも、彼の髪はこんなに鮮やかな色だっただろうか。こんなに鮮烈で、攻撃的だっただろうか。


「二階堂(にかいどう)、武尊(たける)」

彼は自分を知っていた。少なくとも名前だけは知っていた。高野原千穂(たかのはらちほ)という人間が存在していると彼は知っていた。自分は二階堂武尊(にかいどうたける)という名前など聞いたこともないのに。


「どこで知ったんだろう」


親が知っていると言っていたが、それは本当なのだろうか。だとしたら、彼の親はいったい何者なのだろうか。不思議な少年だった。なんとなく、興味を惹かれ、怖れを抱かせられる少年だった。同じクラスだと教頭が言っていた。これから少しずつ、彼のことを知っていけるのだろうか。


「―怖いな」

誕生日は刻一刻と迫ってきている。時折痛みすら覚えるほどの視線を感じる。そして今日の本格的な妖の攻撃、それに合わせたような二階堂(にかいどう)の編入。


「―ただの偶然だったらいいな」

何も起こらなければいい、何も。特別なことなど何も。怖い思いはもう散々だ。まだこれから増えるというのだろうか。今まで以上の恐怖が待っているというのだろうか。

「貴(たか)ちゃん―」

自分を守ってくれるはずだった少年の名を、千穂は呟かずにはいられなかった。


 本当は、村を出ることすら嫌だった。小さな村で、小学校からバス通学だった。また、隣町の高校に進むのだと思っていたのに、先生が勧めたのはこの東京の学校だった。しかもこんな金持ちばかりが通うような。初めは嫌だと言ったけれど、セキュリティがどうこうとかあれやこれや説き伏せられて結局承諾してしまった。


もう五月の終わり、学校には慣れた。周囲の人間もいい人ばかりだ。それでも、恐れずにはいられない。先生はいない。親もいない。千穂(ちほ)の事情を知っているのは、幼馴染三人だけだ。村にいれば、村のみんなが守ってくれたのに。あまりに今の守りは手薄に見えた。

「怖いよ」

きゅっと膝を抱える。温かい湯船に浸かっているというのに、指の先が小刻みに揺れる。その震えに恐怖が増幅する。

「ひっ―」

嗚咽(おえつ)が零れようとしたその時―


 ―シャン―


鈴の音(ね)が聞こえた。それはいったいどこから聞こえたのか。しかし、清浄なその音は、じんわりと恐怖を溶かし、凍える心を解きほぐした。千穂は大きく滞っていた空気を吐き出した。涙が一筋零れた。―一筋(ひとすじ)しか零れなかった。体から力が抜ける。手の震えは止まり、熱を取り戻し始める。

「―あなたは、だあれ?」

その音(おと)を鳴らす、私に大丈夫だと言うあなたはだあれ?

 その問いに、答えられる者はここにはいない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。