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  侵入3

「無関係ってことはなさそうだよな??」

千穂ちほの様子を思い出しながら、啓太けいたはうーんと唸った。ちなみに場所は千穂ちほ壱華いちかの部屋だ。啓太けいたはリビングのピンクのソファに腰かけている。


「無関係ではないと言うか、俺たちと関係がないことはないと言うか」

啓太けいたの隣に座るいつきが言い直す。

「じゃあ、絞りましょう?今日の騒動は彼が引き起こしたことだと思う??」

ローテーブルを挟み、向かいのソファに座る壱華いちかが人差し指を立てながら二人に質問した。

 

彼―二階堂武尊にかいどうたける-の持つ甚大じんだいな霊力に、彼をどう扱うべきかを3人は議論していた。彼は能力者だ。それは、敵になる可能性があることを意味している。

あやかし自体とは相容れないよね」

「あんなのに近づかれたら、今日倒した奴らほとんど消えちゃうんじゃね?」

「わー!その力味方に欲しい!!!」

兄弟は会話を進め、いつきは抱えている両ひざに顔をうずめた。

 

彼の持つ強力な霊力は、彼の周りをうろつくことでさえ妖に許さない。そんな彼が妖を使役するだろうか。

「あれだけ強ければ、妖の力なんて借りずに済みそうだけどね」

壱華いちかもうーんと首をかしげる。

「って俺たちが考えると予想してあえて使役してたら困るー」

もうやだ!と顔を上げることなくいつきは叫んだ。弟の頭をポンポンと叩きながら啓太が言う。


「-それをするには不器用そうだったけどな」

「そうね。力自体は使い慣れてなさそうだったわね」

壱華いちかもうんと頷く。

「力を放出しているってよりは、こぼれちゃってるって感じだったもの」

それが異常な強さを物語っているのだけれど。

「てか、あれだけ強ければぎんうつわらないよな」

「そうね~」

年長組が頭を抱えていると、いつきがばっと頭を上げた。


「じゃあ、二階堂にかいどうはひとまず要注意人物!千穂ちほのこと知ってるみたいだったし!妖を校舎内に入れたのは別にいる!ってことでひとまずOK?」

「それが一番無難かしらね~」

「警戒しとくに越したことはないな」

それで行こうと啓太けいたいつきの頭をわしゃわしゃと撫でた。パンと壱華いちかが手を鳴らす。

「じゃあ宿題!二階堂武尊にかいどうたけるについて調べられるだけ調べて明日情報持ち寄り!」

はーいと兄弟は手を上げて返事をした。



 千穂ちほは湯船にその身を沈めていた。ぽけーと湯気で一杯の天井を眺める。家の結界を壱華いちかが強めてくれたから、今この家の中は安全だ。嫌な気配は少しもしない。こてっと浴槽に頭を預ける。


金色こんじきが、頭を離れない。その金色きんいろは、いったい何の金色きんいろなのか。あの、二階堂にかいどうとかいう少年の髪の色なのだろうか。でも、彼の髪はこんなに鮮やかな色だっただろうか。こんなに鮮烈で、攻撃的だっただろうか。


二階堂にかいどう武尊たける

彼は自分を知っていた。少なくとも名前だけは知っていた。高野原千穂たかのはらちほという人間が存在していると彼は知っていた。自分は二階堂武尊にかいどうたけるという名前など聞いたこともないのに。


「どこで知ったんだろう」


親が知っていると言っていたが、それは本当なのだろうか。だとしたら、彼の親はいったい何者なのだろうか。不思議な少年だった。なんとなく、興味を惹かれ、怖れを抱かせられる少年だった。同じクラスだと教頭が言っていた。これから少しずつ、彼のことを知っていけるのだろうか。


「―怖いな」

誕生日は刻一刻と迫ってきている。時折痛みすら覚えるほどの視線を感じる。そして今日の本格的な妖の攻撃、それに合わせたような二階堂にかいどうの編入。


「―ただの偶然だったらいいな」

何も起こらなければいい、何も。特別なことなど何も。怖い思いはもう散々だ。まだこれから増えるというのだろうか。今まで以上の恐怖が待っているというのだろうか。

たかちゃん―」

自分を守ってくれるはずだった少年の名を、千穂は呟かずにはいられなかった。


 本当は、村を出ることすら嫌だった。小さな村で、小学校からバス通学だった。また、隣町の高校に進むのだと思っていたのに、先生が勧めたのはこの東京の学校だった。しかもこんな金持ちばかりが通うような。初めは嫌だと言ったけれど、セキュリティがどうこうとかあれやこれや説き伏せられて結局承諾してしまった。


もう五月の終わり、学校には慣れた。周囲の人間もいい人ばかりだ。それでも、恐れずにはいられない。先生はいない。親もいない。千穂ちほの事情を知っているのは、幼馴染三人だけだ。村にいれば、村のみんなが守ってくれたのに。あまりに今の守りは手薄に見えた。

「怖いよ」

きゅっと膝を抱える。温かい湯船に浸かっているというのに、指の先が小刻みに揺れる。その震えに恐怖が増幅する。

「ひっ―」

嗚咽おえつが零れようとしたその時―


 ―シャン―


鈴のが聞こえた。それはいったいどこから聞こえたのか。しかし、清浄なその音は、じんわりと恐怖を溶かし、凍える心を解きほぐした。千穂は大きく滞っていた空気を吐き出した。涙が一筋零れた。―一筋ひとすじしか零れなかった。体から力が抜ける。手の震えは止まり、熱を取り戻し始める。

「―あなたは、だあれ?」

そのおとを鳴らす、私に大丈夫だと言うあなたはだあれ?

 その問いに、答えられる者はここにはいない。


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