焦燥6
うーんと全員が頭を抱えていた。
「見られてるってことなのかな」
樹が先陣を切る。
「どこから?」
壱華が深めようとしていく。
「透視能力があるのか、妖の目を介して見ているのか」
樹が指折り可能性を上げてみる。
議題はずばり「どこから壱華が怪我をしたと漏れたのか」である。千穂からの連絡に、3人は頭を悩ませていた。
「方法はいいよ、とりあえず、俺たちは見張られてるんだよ」
考えるのやめた、とでもいう勢いで樹が言う。
「まあ、確かにそうよね」
見られてるのね。と壱華は目を細める。
「見られてるって、今も?」
「知らないよ」
いつも通りのきょとんとした啓太の質問に、喜びといらだちを感じながら樹は投げ捨てるように答えた。
「いつもだったら話さない人が話しかけてきてびっくりした」
千穂は思い出し思いだし好きにしゃべる。
「優実ちゃんが言うにはね、壱華ちゃんのクラスの男子がそう気にしてて、私に確認取れないかってうちのクラスの男子に話を持ってきたんじゃないかって」
「なんで?」
「廊下でA組とB組の男子がこそこそしてて、その中のB組の奴が私に話しかけてきたのを見たから」
壱華はA組で千穂はB組である。
「それを信じるなら、言いだしっぺは壱華のクラスにいるってこと?」
樹はこんこんとダイニングテーブルを指先でたたく。
「私のクラスに敵がいるってこと?」
少なくとも、妖を中に手引きしたやつがいるってこと?壱華が目を細める。
「意図をもって、中に入れたと考えたほうが筋は通るよね?だったら、中に入れるだけじゃなくて、そいつらを統制してるんじゃないかな?」
樹は仮定を話し始める。
「妖の中にだって強い弱いがあるんだ。全員千穂が欲しいだろうけど、弱い奴は千穂を強い奴に譲るしかない。でも、あれは総攻撃だった」
「妖なり、人間なり、千穂を狙って大量の妖を操っているやつがいると」
壱華はローテーブルの上にあるマグカップに手を伸ばした。
「俺、今までその説でいるんだと思ってた」
「・・・・意識合わせしてなかったねって思って」
「なるほどね」
啓太は壱華とソファに収まっている。それを少し妬ましげに樹は見る。
「全然、誰が何考えてるのか分からないよね」
千穂は床で三角座りをしている。
「力ないから外してるけど、千穂の友達だって怪しいんだよ?」
樹の言葉に、千穂はむっと顔をしかめた。
「・・・・それは言い出したらきりがないよ」
ぐるぐるとカーペットの上で指を回す。
「何か思い当たる節あるの?」
「別に?ただ、優実ちゃんみたいに引っ付いてくる人は初めてだなって思っただけ」
あかりちゃんも、ちょーっと怖いなと思ってるだけ。
「ふーん」
椅子に座っている樹は千穂を見下ろしながら納得いったのかいっていないのか分からない反応を見せた。
「二階堂は、今日はどうだったの?」
樹にそう問われて、千穂はどうしようと固まった。固まった時点で何かがあったことは全員に伝わってしまう。千穂はおずおずと口を開いた。
「壱華ちゃんが怪我したの本当かって聞かれて、上手に答えられなかったら助けてくれた」
「壱華が怪我したの知ってそうだった?」
千穂は首を横に振る。
「知ってはなかった。あとから怪我したの?って訊かれたから」
「・・・・・怪我したって答えたの?」
「・・・・・答えました」
樹の追及に、千穂はどんどん小さくなっていく。樹はああとため息をついた。千穂はそれにバッと顔を上げた。
「だって!仕方ないもん!なんか言っちゃうんだもん!」
「その『なんか』に気を付けてほしいの!!」
樹も負けじと言い返す。
「だって、だって、いつも助けてくれるから、いい人な気がしちゃうじゃん!」
「それが罠だったらやばいよってことなの!!」
その言葉に、千穂は視線を落として、ぶつぶつと抗議した。
「だったら、もっと嫌な感じするもん。嫌な感じはしないもん」
ぶつぶつぶつぶつぶつぶつ・・・・・。膨れる年上の少女に、樹は尋ねてみた。
「じゃあ、嫌な感じする人はいるの?」
千穂は、苦虫をかみつぶしたような顔をする。
「いない」
樹はずるずると椅子の上を滑り落ちる。床に足はついたけれど、背もたれに頭が当たっていて首が痛そうだ。
「怪しい奴いないってこと?」
「少なくとも千穂の周りではってことだろう?」
いいことじゃん、と啓太。それに千穂は振り返る。
「だよね!」
私の友達に悪い人いないよ!!うるうると訴える。
「食えなさそうなのはいたけど」
「それは黙ってて!」
考えないようにしてるんだから!
「考えてよ!」
樹の叫びは届かない。
「漏れる、ってどこから漏れるのかしら」
壱華が話を戻す。
「話してるところを聞かれてるってこと?例えば今盗聴されてるとか?それとも術を使ってここを見てるの?それとも、携帯から情報が抜かれてるってこと?」
それに、樹がしぱしぱとまばたきをする。
「俺は、術で見られてるんだと思ってた」
「盗聴器とか仕掛けられてる可能性もあるのか」
気づけば考え方って固まってるもんだなと啓太は笑う。
「可能性は排除していきましょう?」
壱華は千穂を見た。千穂は首をかしげる。
「ということで、ちょっと彼を召喚しましょうよ」
それが誰を指すのか察して、樹は顔をしかめる。
「事情知ってるんでしょ?じゃあ、もういいじゃない」
そう言い切る壱華は涼しい顔をしていた。




