接近7
啓太はいつも通り報告を受けようと千穂と壱華の部屋に行った。が、先客がいた。
「あれ、どういうことなんだろう」
「親が千穂のことを知ってるみたいとは千穂から聞いたわよね」
「てか、え?千穂が心配だから息子を編入させたってこと?」
「なんか、そんな感じよね」
「嘘~」
「そうよね~。だって、前の学校東光よ?そこやめさせてまでって相当じゃない?」
「超頭いいじゃん。そこやめてきてんの?意味不明」
「千穂、本当に二階堂のお父さんのこと何も知らないの?」
「知らないよー」
何度も言ってるじゃん~、と千穂はローテーブルの上に伸びる。
これが世に言うマシンガントークでありガールズトークというものか。とその入る隙間の見つからないスピードに、啓太は呆然となる。あと、ローテーブルに広げられている菓子の減るスピードもすごい。呆然と立ち尽くしていると、長身の少女が啓太に気づいた。
「あ、啓太さんだ」
「え?俺知ってるの?」
「この前の放課後会ったじゃないですか」
「この前の?」
「幼馴染大集合の時」
にぱっとその少女は笑った。それで啓太は合点がいく。そうだ、放課後襲撃を受けた後、千穂に飛びついてきたのはこの子だったかもしれないと思い出す。
「・・・それで、千穂のお友達が何でここに」
「ああ!それなんですけど!」
超意味不明で!という切り出し方がそもそも超意味不明だ。啓太はついていけなくて困った顔をする。それを読んだ大人びた少女が長身の少女に待ったをかける。
「とりあえず、座ってもらった方がいいんじゃない?」
「・・・確かに」
「啓太はいつもここに座ってるの」
と言って、千穂は立ち上がり長身の少女の隣に座りなおす。
いつもの席を開けられて、一人だけソファに座るのも気が引けたがとりあえず啓太は定位置に座る。
「えーと、啓太さん、うちのクラスに編入してきた二階堂って金髪の奴知ってます?」
「優実、その前に自己紹介でしょう?ごめんなさい、騒がしくて。私、本川あかりって言います。千穂と同じクラスなんです」
にこっとあかりと名乗った少女は笑った。大滝が好きそうなタイプだなと啓太は思った。
「で、こっちのおしゃべりが山田優実で、優実も同じクラスです」
「もう好きなように言ってくれ」
優実だと紹介された少女はあかりの紹介に不服を示したものの、ポテトチップスを手に取って口に入れて訂正はしなかった。
「ああ、今日一緒に出掛けたのは知ってるよ」
啓太はうんと一つ頷いた。
「そうそう、一緒に出掛けたんですよ、私たち」
優実はごくりとポテトチップスを飲み込んで説明を再開した。
「で、帰りに二階堂に会って。あ、二階堂は知ってるんでしたっけ?」
「知ってる」
壱華が温かいお茶の入った湯呑を持ってきてくれたので、それにお礼を言って受け取りながら啓太は優実に是と答えた。
「じゃあ、話速いや。で、そいつなんですけど、東光っていう超頭いい名門校からここに編入してきたんですけど、その理由が、千穂を助けるためらしくて」
「は?」
「ってなるじゃないですか?本当は買い物終わったら解散する予定だったんですけど、ちょっと熱おさまらなくて」
「お菓子買って押しかけちゃいました」
あかりが見事にまとめる。啓太は、は?の顔のまま固まっている。それを見て、優実がうんうんと頷く。
「やっぱそうなりますよね~」
私もびっくりしたんですよーと腕を組んでいる。
「千穂が困ってたら助けてあげてって言い使って来てるみたいなんです」
「だから、ああやって千穂のことよく見てるのかな」
本当かな~と優実は頭を抱えてテーブルに伏してしまう。それを見てあかりが壱華に話しかける。
「あ、壱華、今のうちに食べないと全部優実が食べちゃうわよ」
「え、困る」
私もお金出したんだからと壱華はチョコクッキーに手を伸ばす、その自然なやり取りに、啓太は現実に引き戻される。
「あれ?壱華も仲良かったっけ?」
その問いに、優実が復活する。
「今日仲良くなりました!」
びしっと敬礼ポーズを決められる。騒がしい子だなと啓太は思った。が、とにかく持っている情報は全開示がスタンスなようなので助かるなとも思っている。
「そうなんだ」
啓太はひとまずお茶を飲んだ。落ち着こうと話題をずらす。
「買い物は楽しかった?」
「そりゃもう!」
優実はキラキラと瞳を輝かせる。
「千穂、超かわいいワンピース買ったんだよね」
その言葉に、千穂もほくほくと笑う。
「ちょっと奮発しちゃった~」
えへへ~と頬が緩んでいるのを見ると相当気に入って買ったらしいことが分かる。
「でも、帰りがけは面倒だったわね」
はあ~とあかりが悩ましげに息を吐く。それに啓太は視線を千穂と優実からあかりに移す。
「もっと、スマートにエスコートしてくれる人もいるのよ?」
「あかりさん、なんすかそのナンパ慣れてます発言」
「あら?声かけられたことなぁい?」
「ないよ!初めてだよ!てか絶対私一人だったら声かけられてないし!!」
ダン!と優実はテーブルをたたいた。しかしそんなことより引っかかった言葉が啓太にはある。
「ナンパ?」
「そうです」
優実が頷く。
「えと、初対面なのに突然遊びに誘ってくるやつ?」
「今日は喫茶店だった」
千穂が修正する。
「いや、そこは気にしなくていいよ」
優実が千穂の修正を修正する。その漫才にも啓太は呆然としたままだ。
「・・・意外でした?」
あかりが顔を覗き込む。それに啓太は痛そうに目を閉じると頭を抱えた。
「予想外だった」
そうか、それがあるのかーとぶつぶつ言っている。沈んでいる啓太をどうしようかと4人が顔を見合わせていると、バタンと扉が開いた。
「兄ちゃん、風呂たまったよ・・・て、何やってるの?」
ソファに座り込み頭を抱えている兄に、樹は冷たい声で尋ねた。
「お客さん?」
樹は諦めて壱華に目標を変える。
「そうよ」
壱華は涼しい顔でお茶を飲む。目は少しずらすように窓際を見ているけれど。
「怪しい」
「みんなで歩いてたらナンパされましたって報告したら固まっちゃった」
「え!すごいじゃん!!」
「すごくないよ~大変だったよ~」
千穂が足をバタバタさせる。
「それめっちゃ聞きたいけど、風呂冷めるから兄ちゃん回収するね」
しっかり者樹はそう言って啓太の腕を引っ張る。案外啓太は簡単に動いた。よろよろと樹に腕を引かれて啓太は部屋を去って行った。
「・・・・大丈夫かな」
優実はよろよろとした背にそうこぼした。しかし、すぐに元気を取り戻すとばっと壱華に向き直る。
「てかさ!あんなに驚いてたのってやっぱり壱華のこと好きだからじゃないかな!!!」
「あら、千穂の可能性はないの?」
「そっちは考えてなかったな~」
そうか、それもあり得るのか~と今度は優実が頭を抱える。チョコクッキーに手を伸ばしながら千穂を見る。
「でも、啓太さんと千穂ってよりは、啓太さんと壱華ってのが私にはしっくりくるんだよね」
「同意」
千穂も頷く。優実はにぱっと笑う。
「千穂もそう思うんだ」
「うん。啓太と壱華ちゃんはなんかセット」
「昔から?」
「うん」
千穂はあかりにも頷いて見せる。
「じゃあ、千穂は誰とセットなの?」
それはからかいを含んだ冗談だったのだろう。しかし、その問いに千穂は固まる。壱華もピクリと反応した。異様な空気に地雷だったかなとあかりも判断する。
「あ、私はね」
貴ちゃんのお嫁さんになるものだと思ってたんだ。もう、いないんだけど―
「私にはいないかな」
千穂はどうにか笑った。
「そうなの」
あかりはそう言ってこの話を打ち切った。
「えーと何の話してたんだっけ」
優実が話の筋を戻そうとする。
「二階堂の編入理由だったわね」
「ああ、それそれ」
優実はそれだと手を振った。
「結局よく分からないよね」
「突撃しちゃう?」
本人を。とあかりは黒い笑みを浮かべた。いつもと変わらない笑顔のようなのに、黒いとはっきりとわかる。
「部屋は?」
「分かってるから言ってるんじゃない」
ああ、この人は恐ろしい。そんな空気が部屋中を覆ったけれど、あかりは笑顔のままだった。




