接近5
とにかくキラキラしている。店舗ごとに個性を出そうと努力はしているのだろうが千穂には全部同じに見えた。たくさんの人がいて、みんなキラキラしていて、千穂は気後れする。
「ほら千穂、立ち止まってないで」
こっちこっちと優実が手招きする。千穂はぱたぱたと駆け寄りその腕につかまった。そこまで予期していなかった優実は驚いた顔をしたがすぐににやりと笑う。
「千穂はかわいいなー」
「それはいいから!!」
からかわないで!と千穂は怒る。優実は背が高いし、壱華も長身で長い黒髪が目立つが、やはりはぐれるのは怖いので優実の手は掴んだままだ。
「とりあえず靴屋かなー」
この中にあったかなーと優実がうーんと考え始める。
「ねえねえ、あっち行きたい」
千穂が優実の手を引く。優実は千穂が指す先を見る。そこにはアクセサリー売り場があった。優実は笑う。
「いいねー。安いのあるとなおよし」
そう言うとするすると人の多い中を歩いて行ってしまう。しがみついている千穂もなんとか人ごみをうまく進めている。店舗につくと、千穂は目を輝かせた。
「きれいー」
「すごい。こんなにたくさんあるの初めて見たかも」
壱華も心なしか顔を上気させている。そんな二人を見て優実もあかりも楽しそうだ。
「これきれいだね」
「私はこっちのほうが好きよ」
千穂と壱華はもうアクセサリーしか目に入っていない。一つくらい買ってもいいよねと真剣に選び出す。二人はとりあえずネックレスを買うことまでは決定しているらしい。
「私は新しい髪飾りでも買おうかしら」
「私はブレスレットにしようかな」
しれっと学校につけていけるようなやつ。どれなら引っかからないかなーと優実は物色を始める。あかりも置かれている鏡の前で髪飾りを当ててみている。
「これにする!」
千穂が決定した時には店に入ってから30分が経っていた。
※
「買い物楽しいけど、疲れるんだね」
千穂はココアを飲みながらふうと息をついた。ここは喫茶店である。休憩がてらお茶することにしたのだ。優実が背もたれに寄りかかりながら答える。
「まあ、人も多いしね」
「そうね。週末だものね」
あかりもうんうんと頷く。壱華はその隣でぐったりしている。
「壱華も疲れた?」
「自分の物欲と戦うのがこんなに疲れるとは思っていなかったわ」
あははっと優実が笑う。
「そうだよね。要る要らないとかじゃなくてさ、見ると欲しくなるんだよね」
「それも高いし」
壱華は前髪を掻き上げる。端正な顔が露わになる。
「とりあえず、啓太を連れてこなかったのは正解だったわ」
あいつ、絶対我慢できないでもう帰ろうって言い出してるはずだもの。―結局啓太と樹は留守番係となった。啓太が待機。樹はビルの周辺の様子を確認してみると言っていた。ちなみに、この仕事分担は、弟のほうが観察能力が高いことを理由として決定された。
「あら、彼も行きたいって言ってたの?」
「心配だからついていくって」
その時のことを思い出したのか、壱華の顔には引っ込んだ疲労がまた現れた。そっかー啓太食い下がったのかーと千穂は足をぶらぶらさせながら幼馴染最年長の顔を思い出した。
「しつこいんだから」
その言葉に優実は爆弾を放つ。
「それってその人が壱華のこと好きだからじゃなくて?」
壱華はその言葉に目を丸くした。だいぶ素の表情が出てくるようになった。
「啓太が?まさか」
壱華は何やら考え始める。
「確かに周りに同年はいないから、村の中で結婚するなら啓太くらいしかいないけど」
でも、それって好きとは違うじゃない。と壱華は冷めたものである。優実はぶくぶくとアイスティーにストローで息を吹き込みながら言う。
「そうかなー。壱華、超美人じゃん。可愛いし。絶対好かれると思うけどな」
「壱華を好きになる人がいても不思議じゃないけど、それを彼と決定するのは違うわよ」
あかりが助け舟を出す。しかし、壱華は素直にうなずくことはできない。―そんなに褒められると照れる。あと、あかりは優実が壱華を名前呼びしているのに気付いた途端自分もちゃっかり名前呼びしている。
「ねえねえ、千穂はどんな人が好きなの?」
あかりが尋ねる。
「え?」
「だって、みんな気にしてるわよ。千穂につきあっている人いるのかしら、どんな人がタイプなのかしらって」
「どうして?」
「千穂を狙ってるからだよ」
「ええー!!」
優実の言葉に、千穂は驚きの声を上げる。
「はい、大きな声出さない」
ぽんと優実に頭をたたかれる。
「だってー」
そんな話聞いたことないよ。とたたかれたところを撫でながら千穂は唇を尖らせる。
「あと、目下の懸案事項は、千穂は二階堂が好きなのか、あるいはタイプなのか、だね」
「えええええ!!!!」
千穂は優実のセリフにまたも叫んでしまう。先ほどよりもよほど大きな声で。
「なんで!なんでそうなるの!!」
千穂は優実に掴み掛らんばかりの勢いで迫る。優実は軽くのけぞりながら説明する。
「だって、千穂男子と話すの得意じゃないでしょ?でも二階堂とは話せてるじゃん。だから男子気にしてるんだよ?千穂は二階堂が好きなのかなって」
「ただ席が隣なだけだよ!!」
千穂は違う違うと首を振る。
「けっこうこそこそ話しているから、怪しいなってみんな思ってるのよ?」
「そんな、こそこそ話とか」
心当たりの合った千穂はもごもごと口すぼみに反論する。しかし、内容はそんな可愛らしいものじゃない。もっと殺伐とした攻防戦のようなものだ。
「でも、彼も千穂以外の女子とそんなに話さないわよ」
「それも席が隣だから!!」
千穂は一生懸命否定する。
「確かに、こっちから話しかけにくい雰囲気はあるよね」
「でも、なぜか周りから思ったより人が引かないのよね」
「なんなんだろう、カリスマってやつなのかな」
「予習目当てのもいそうよね」
優実とあかりの独壇場になってきた。しかしこれはこれでいいと壱華は思う。千穂から伝わってこない二階堂の情報が得られる。
「あんなに寝て、夜寝てないのかな」
優実は首をかしげる。
「さあ、でも、つまらないって言ってたから寝るくらいしかすることないんじゃないかしら」
「そうなのかなー」
「面白いわよね、ずっと寝てるけど教科書とノートは机に出てるし、当てられたら正解答えるし」
くすくすくすとあかりは笑う。
「千穂もそのうち助けてもらうかもね」
「分からないところは壱華ちゃんとあかりちゃんに教えてもらうもん」
千穂は頬を膨らませる。それをつんつんと優実は突っつく。
「まあ、しばらくは隣だろうからお世話になったらいいよ」
「―二階堂、君。ってどんな感じの人なの?」
壱華が尋ねる。
「ん?あいつやっぱり有名?金髪だもんねー」
優実はけらけらと笑う。優実は千穂の頬をつつくのをやめてうーんと考え出す。
「冷たい感じはするけど、受け入れてはくれるんだよね」
「来る者拒まず、去る者追わず。って感じね」
「分かるー」
千穂もうんうんと頷いている。優実とあかりはちょいと視線を合わせると、千穂を見つめた。優実に至ってはにやりと笑っている。
「でも、やっぱり千穂のことは気にしてる気がするなー」
「嘘!」
「嘘言ってどうするの」
くすくすとあかりが笑う。
「千穂が教室出入りする時とか、席立ったり座ったりする時とか、よく見てるわよ」
「前科あるからね~」
掃除棚の件を優実は前科と称した。それにうぐぐと千穂は黙らざるを得なかった。
「心配してくれてるってこと?」
「心配ってほどの熱意は感じないけど、気にはかけてるよね」
「そうなの」
ふむ、と壱華は考え込む。第三者から見た千穂と二階堂の関係はなかなか重要な情報である。
―悪い奴ではないのかしら?
本人自体は。と壱華が考えていると
「壱華は二階堂が気になってるの?」
優実が問いかけてくる。
「え?」
「結構真剣に聞いてるから、気があるのかなって」
優実の言葉に、壱華はうーんと二階堂の姿を思い浮かべる。そして出した結論は
「啓太よりは頼りになりそう?」
「厳しい!」
頑張れ幼馴染!と優実は額に手を当てる。確かに、勉強もできるようだし、運動神経もよさそうだし、霊力に至っては比にならないほどだ。千穂も仕方ない答えだなと思う。
「まあ、まだ判断材料は少ないわよね」
そう言うのはあかりだ。獲物を狙うように、すっと目を細める。
「なんか、いろいろ隠してそう」
ぺろりと小さく唇をなめる。その艶やかさに、千穂は背にゾクリと冷たいものが走ったのが分かった。
「あかりさん、怖いっす」
「あら、ごめんなさい」
あかりはいつも通りの笑顔で優実に笑いかける。しかし、それもつかの間、黒い笑みを見せるのだった。
「でも、彼ってとても探りがいがありそうでしょう?」
「―それは認める。でも、こっちまでは火の粉こないようにやってよね」
「それは心得てるわ」
ぱっとあかりは笑う。それに胡散臭そうに眉根を寄せてから優実は壱華に向かっていった。
「とりあえず、まだ謎はたくさん残ってるってことみたい」
それに壱華は笑うしかできなかった。




