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  接近4

 あんなに壱華と樹が協力してくれたと言うのに、結局金曜の放課後になっても二階堂は特別千穂に接触はしてこなかった。肩透かしを食らったようで、千穂は少しむくれている。


―せっかく暗記したのに!


とお怒りの理由は残念だが。しかし、むくれ顔もすぐに笑顔になる。ビルの一階で、優実が駆け寄ってきたからだ。


「やほー」


のん気に手を振りながら合流する。優実は半そでのシャツにショートパンツで、足元はスニーカーだ。腰にパーカーが巻かれている。優実らしい服装だと思う。優実はにやっと笑いながら千穂の後ろにいる壱華に話しかけた。


「一緒に遊ぶのは初めましてだね」

「そうね」


壱華は余所行きの顔で笑った。それに、優実はにぱっと笑う。

「一応あらためて。山田優実って言います。よろしく」

手を差し出されて、壱華は一瞬戸惑った顔を見せたが、すぐに普段の顔に戻ると優実の手を取った。

「飯島壱華よ。よろしく」

「知ってるよ~」

私、飯島さんの名前フルネーム漢字で書ける自信ある!とのたまう優実に、壱華は少々引きつり気味である。


「だから、気を付けないとあなた捕まっちゃうわよ?」


ぬっと優実の後ろから顔を出したのはあかりだ。それに、うわっと身をよじって優実は後ろを確認する。

「びっくりするじゃん」

「びっくりしたのはこっちよ~」

まったく、と息を吐き出しながらあかりは優実の隣に並ぶ。


「集合場所に来てみたら、クラスメイトが変態発言してるんだもの」

「え~!!」


変態?!変態かな!!?と優実は助けを求めて千穂と壱華の顔を見る。千穂と壱華は顔を見合わせて首をひねった。答えは出なかったので、壱華が困った笑顔でとりあえず言った。


「・・・ちょっと、驚きはしたかな?」

「ほらみなさい」

えーえー!!とわめいている優実を余所に、あかりはにこっと千穂と壱華に笑いかけた。

「まあ、優実は置いておいて、行きましょうか」

 やっぱりあかりは怖いと千穂は思った。



 人が多い。千穂は普通に歩くことが出来なかった。止まったと思えば進み。かと思えば右に避け、左に小走りする。そんな千穂を見かねて、あかりが笑顔で手を差し出した。


「手、繋いでおきましょうか」

「うん!」


いつはぐれるかたまったものじゃないと思っていた千穂は、喜んであかりの手を掴んだ。

「飯島さんは―」

それを見て、優実も壱華に手を差し出そうとする。しかし、冷たい笑顔に察してすぐに手を引っ込めた。

「―冗談は置いといて」

優実はそう言ってこの場を回避した。優実はじっと壱華を見つめながら器用に歩いていく。


「あの―」


何かしら。壱華はいづらくて、そう問いかけた。優実は不思議そうな顔で心の内を明かす。

「本当に飯島さんと出かけられるなんて思ってなかったなーと思って」

「え?」

今度は壱華が不思議そうな顔をする番だった。しかし、心当たりのある壱華の顔からはすぐにその表情は消える。―浮いている自覚はある。笑顔でごまかしてつまはじきにされることは避けているけれど、千穂のように格別誰かと仲がいいわけではない。少し俯き加減になった壱華に、優実は畳み掛けるように続ける。


「有名だもん。飯島さん美人だから目立つし。みんな飯島さんと友達になりたいけどうまくいかないって」

「―そう」


有名なのね、と胸中でつぶやく。まったく先が思いやられる。自分の、ただの女子高生としての未来が。暗鬱とした気分になる壱華の隣で、優実はどこまでもご機嫌だ。

「だから自慢できるなーと思って」

私、飯島さんと遊んだんだぞーって。ひゅーと言いながら片腕を突き上げる優実に、壱華はたまらず小さく噴き出した。


「そんなの大げさよ。私、そんなにすごい人じゃないわ」

くすくすと笑っていると、優実が固まっているのに気が付く。変なことでも言ったかと困惑する壱華の肩を、優実はガッと掴んだ。

「その顔良いよ!やっと普通に笑ってくれた!!」

やっぱりそっちの方が可愛いよ!と優実はがくがくと壱華を揺さぶる。その勢いでぎゅっと壱華に抱き着く。


「飯島さんめっちゃかわいい!」


テンションマックスの優実を止められるのはもはやあかりしかいるまい。そしてそれを確実に実行するのがあかりである。

「いで!」

ぼすっと頭にチョップを食らう。

「公衆の面前で何やってるの!」

酔っぱらった大学生でもあるまいし!!!とあかりが優実をいさめる。優実はいたたと頭をさすりながら壱華から体を離した。突然抱きしめられた壱華はまだ固まっている。


「ほら、飯島さん驚いて動けなくなってるじゃない」

「ごめんね~別にそこまで驚かせるつもりなかったんだよ?」


眉をハの字にして謝る優実に、壱華はまた噴き出した。

「あなた、変な人ね」

そう笑う。顔にかかってしまった長い黒髪を耳にかけながら、壱華は笑うのだ。

「こんなに引っ付くなんて、千穂ともしないわ」

「確かに」

千穂は頷いた。優実はとにかくスキンシップが好きだ。よく抱き着いてくるし、触ってくる。


「本当」


変な人。そう柔らかく笑う壱華は、普段の壱華よりよほど年相応の少女に見えた。それに、あわわと優実が震える。


「抱きしめちゃダメかな」

「およしなさい」


あかりが珍しく腕を伸ばしそれ以上優実が前に進めないようにする。それに、残念そうにあかりを見ながら優実はため息をついた。


「あきらめる」

「よろしい」


あかりが腕を下す。

「行きましょう?」

そう先を促すあかりの手に、千穂は自然に手を伸ばす。それを見て、優実はにまっと笑った。

「ね、手くらいならよくない?」

いたずらっ子のような笑顔に壱華は小さく頷いた。伸ばされた手を優実はぐっと力強く引く。

「わっ!」

「速くしないとはぐれちゃう」


慌てる壱華に優実はただただ笑いかける。

「ねえ、優実って呼んでよ。私も壱華って呼ぶからさ」

その言葉に、なぜか胸がギュッと詰まる。何かが、剥がれ落ちそうになるのを感じる。それを耐えて、壱華は笑った。

「もう少しゆっくり歩いてもらわないとこけちゃうわ。優実」

―はじけんばかりの笑顔が返ってきた。

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