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4. 接近1

 はてさてどうしたものかと啓太は頭を抱えていた。千穂と壱華からの報告が意味することを考えに考えていた。


1、千穂が狙われた

2、二階堂が助けてくれた

3、二階堂だけが千穂の危険に反応した

Q、二階堂は敵か味方か無関係か


啓太は指折り同じ情報をぐるぐると頭の中でこねくり回す。

「あ~」

ぐしゃぐしゃと頭を掻いて考えることを放棄する。ぼさっと頭を机に乗せ青空を見上げる。


「啓ちゃーん」

「一人で何百面相してんだー」


ぐりぐりとクラスメイトに頭にこぶしを当てられる。それを痛いと払いながらも視線はまだ青空を見つめたまま。


「こりゃだめだ」

話しかけてきた二人は顔を見合わせ肩をすくめた。そして啓太に倣って空を見上げる。


「いい天気だなー」

「ここ最近晴れだよな。いつになったら雨降るんだろ」

「やめろよ。いったん来たら梅雨に入ってずっと雨になりそうだ」

そうなったらたまらないと軽く癖のある髪の毛を引っ張る。

「お前、癖毛の敵は湿気だって言ってたもんな」

頭の向きを変えて、啓太は癖毛のクラスメイト大滝泰知おおたきたいちを見上げる。それに大滝はにこっと人懐っこい笑顔を見せる。


「なんだ、啓ちゃん話聞いてるじゃん」


がたがたと啓太の前の席に座っておしゃべりモードに入る。それにめんどくさそうにため息をついたのは清水弥太郎しみずやたろうだ。


「長くなりそうだな」


泰知の話が、と清水は少しげっそりとした顔を見せる。だったら席を外せばいいのにと啓太は思うが、この二人はセットだとお互い認識しているらしい。ずっと一緒にいる。そして啓太は二人に気に入られたらしく、三人でつるんでいる。


―そう言えば、千穂も三人だって言ってたっけ。


と啓太は小さな幼馴染の顔を思い浮かべる。昨日は少しご機嫌斜めで、二階堂がいかに自分を邪険に扱ったかを懸命に語っていた。と言っても、ちょっと小さいとか言われたかなんかだったと思うが。


―まあ、小さいが千穂の地雷だからな。


そこは空気を読めと、会話したこともない二階堂に内心突っ込んでおく。


―あれ?壱華、ちゃんと友達いんのか?


もう一人の幼馴染の交友関係はどうなっていたかと思い出そうとしてめぼしい名前が出てこなかった啓太は突然不安になる。そういえば樹の交友関係も知らない。しかし、樹はうまくやっているだろう。あの弟は器用だ。問題なのは壱華だ。器用に見える不器用のため、損をしやすい。


「そういえばさー、啓ちゃんの幼馴染の可愛い方が昨日怪我したってうわさが飛んできたよ?」


あれ本当?と大滝が首をかしげてくる。啓太はその質問に現実に引き戻される。頭は持ち上げないままに横に振って否と答える。


「怪我はしてない。しそうにはなったけど」

「そうなんだー」

じゃあ、いいけど。

「金髪の編入生が助けたのがどうのとも聞いてる」

案外こいつも噂話好きだよなと啓太は清水を見上げる。


「二階堂な。助けてもらったって、ついでに保健室にも運んでもらったって」

「なにそれ役得!」

いいなー俺もあの子抱っこしたい~と年中彼女が欲しいと騒いでいる大滝はバタバタと机をたたく。

「啓ちゃんって何気すごいよね。幼馴染可愛い子ときれいな子どっちもいてさ」

ぶすっと机に伏してきたので、啓太は身を起こしてよけた。


「啓ちゃんはどっちが好きなの?」

「俺は壱華が―」

あ、と思った時には遅く、大滝は今度は楽しそうにバタバタと机をたたきだす。

「あのきれいな子のほうが好みなのか!」

意外だな~可愛い子のほうが好みなんだと思ってた!!わーわーと大滝はひとり楽しそうだ。それにげんなりと啓太はため息をつく。


「あの子、競争率高そうだよな」

すごい目立つ、と清水も参加を忘れない。

「だから面倒なんだよ」

目立つの得意じゃないのにさ。と啓太は足を組む。

「そうなんだ。いつもきりっとしてるからな、慣れたものなのかと思ってた」

「そんなわけないだろ、どうしていいかわからないから無視してるだけだ」


こんなに人数が多い組織に属したことなどないのだ。たくさんの人間から好奇と羨望の視線を突然向けられるようになり、壱華は戸惑っている。


―それに合わせて千穂の誕生日と二階堂だもんな。


「もつかな」

あいつ。と啓太は両手で顔を覆う。

「―とりあえず、お前も大変なんだな」

ぽんと清水に肩をたたかれる。

「大変なことなんてこれっぽちもないと思ってたのかよ」

「予習全然してないし、遊んでるだけかと思ってた」

「俺だって考えてんだよ」

気が付けば最年長だったんだよ。メンツの中で。とは言わない。ギリと歯をかみしめる。


―貴輝が死んだから。


その思いはどうやってもぬぐいきれない。貴輝がいれば、二階堂に対してもこんなに悩まなくてよかった。敵か味方かなんて考えなくてよかった。敵として認定してしまえばよかった。でも、貴輝がいないから期待してしまう。彼に、貴輝の代役を。


「あ~」


ちくしょうと啓太は唸る。それに大滝と清水は目を合わせて、それぞれ頭と肩をぽんぽんと叩くのだった。



『何か、困ってることあるの?』

それが、二階堂が千穂に尋ねたかったことのようだ。

『それって、俺がいれば解決されたりするの?』

―そうね。

壱華は胸中で答える。

―あなたが私たちの味方で、黄金の剣の持ち主となって戦ってくれれば助かるわ


つと、伏せた瞼のせいで長いまつ毛が濃く影を落とす。カリカリとシャーペンがノートを走る音が教室を満たしている。かり、と壱華はシャーペンの頭をかじった。


―イライラする。


 なぜ彼はこの学園に来た。父親がそう命じたからだと言うが、ならばその父親の考えはなんなんだ。なぜ彼は自分の息子を編入させた。


別に、この学園に通うことがステータスならそれでいい。じゃあ、なぜ彼は入学試験ではなく編入試験を受けさせたのか。彼は知っているのだろうか、自分の息子が異常なほど強力な霊力を持っていると。それとも、能力者であることは偶然なのか。


「ステータスって言ったって、前の学校のほうがよほどいいじゃない」


そう小さく愚痴る。どう考えたって、二階堂の父親は、自分の息子が強い霊力を持っていると知っていて、千穂と関わらせるために彼を編入させたと考えることが一番しっくりくるのだ。


「あ~」


肘をついて額を乗せる。かつかつと左指が机をたたく。壱華の苛立ちは、彼女を一層目立たせる。ちらちらと視線が彼女に飛ぶが、それに壱華は気づかない。

 

考えることを放棄して、壱華は外に視線を向けた。外は苛立つほどに青く空が広がっていた。



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