質屋と報道とやばいこと
「担イシ者タチ」第七話です。
よろしくお願いします。
「お兄ちゃん、どこか稼げる場所があるの? わたしもう疲れたよー……」
「ああ……まずはちょっとでももとになるお金が必要だ。質屋に行こう。そこで何かを売る。もう少しで到着するから我慢してくれ」
ハツキと梓はできるだけ早く食料を買うために足取りを速くした。
ハツキが今向かっているところ……梓も知らないその場所は、どうやら少し遠いところにあるようで、先ほどハツキが鈴に電話で、6時は過ぎるかもしれない、と言っていた。
(お兄ちゃん、どこに行くつもりなんだろう……。パチンコとか、最近合法化されたカジノとか……? けど、そんな感じのところって、大人じゃないといけないんだよね……。お兄ちゃんはどう見たって高校生以上には見えないし……。どうするつもりなんだろう……)
梓がそう思っていると、ハツキが突然口を開いた。
「ここだよ、質屋。鬼狩から逃げていた時はよくここでお世話になっていたんだ……。行こうか」
「う、うん……」
鈴たちと別れてから歩くこと約1時間。恐らくもう杉並区ではないであろう場所。
ハツキが指を指してここだと言った質屋は、かなり古風な感じで、どこか恐怖を感じるような外観になっていた。
そして、その質屋の後ろにはカジノやパチンコなどが多く設置してあり、明るいが、質屋の周りはかなり暗く、店自体の外観と相まって、梓はより一層恐怖を感じていた。
「ねえ、お兄ちゃん、大丈夫なの? ここ……」
「さっきも言ったように、ここは僕が鬼狩から逃げていたころ……って言っても、もう一か月ぐらい前になるけど、孤児院に一回顔を出そうと思った時に、鬼狩に見つかりそうになってさ……その時に、よくここに来てお金や食料をもらっていたんだ。匿ってもらったこともあったしね。……またここに匿ってもらえるなら隠れる場所を探す必要もないんだけど……」
ハツキはそう言うと、迷いもなくその恐怖的な外観の質屋の扉の前まで進んだ。
扉は引き戸であり、段差を二つ上ったところにあった。小柄な梓には少し高い段差であり、大きく足を上げないと上れないほどであった。
「お兄ちゃん……ちょっと、速いよ……きゃあっ!」
梓がハツキの後ろについて段差の前に立ち、一段上がり、もう一段上がろうとしたとき、躓いてしまった。
「おっと……!」
咄嗟にハツキが手を差しだし、梓の手をつかむ。
勢いよく段差から後ろに転げ落ちそうになっていた梓の体が急に静止し、慣性の法則で梓の黒く、短めの前髪から、猫の顔を模った髪留めが宙に放り出された。
「わっ! あ、ありがとう、お兄ちゃん……。あ! 髪留めが……」
梓はハツキに体勢を立て直してもらい、段差をおりて髪留めを拾い、また前髪をそれで留めた。
「そういえば、母さんに貰った髪留め……まだ持ってたのか。もうほかのに変えたのかと思ったよ」
「確かに貰ってからもう大分経つけど、お母さんの形見みたいなものだもん。ほかのに変えるわけないよ。最近留め具が緩んできちゃって髪から外れやすくなっちゃったけど……。それより、早く行こ。お兄ちゃん、手繋いどいて……」
「ったく、しょうがないな」
ハツキはまだ小学五年生の妹の手を握り、引っ張って段差を上る手伝いをした。
「さて、久しぶりに稼ぐか……」
ハツキはそう言うと、恐らく昔ながらの典型的な質屋であろうその店の扉を開け、中に入った。
「祈、さっきの交差点の場所、覚えてる?」
「ううん、忘れた」
ハツキ達が質屋に来る三十分ほど後のこと。
先ほどハツキ達と別れた交差点が杉並区の中心より東側にある交差点だということを確認した二人は、ハツキから連絡が来るまでその交差点の近くで情報収集をしていた。
が、二人は情報を集めているうちに、少し遠くに来すぎてしまったらしく、先ほどの交差点の位置を全く覚えていなかった。
「ど、どうするの? 交差点の場所わからなかったら私たちやばいよ……ずっとここで迷子のまま……?」
「お、落ち着いて、祈……。とりあえず……そう、ここはまだ杉並区。きっと杉並区。まだ何か希望はある。今その希望を考えよう。そうだな……バーストなんちゃらって言ったら思考速度が1000倍に加速するとか、アクセル・ワー……」
「鈴こそ落ち着いて! それ小説の話だから! この小説でその話したらやばいから!」
二人は完全にテンパっていた。
そんな時、偶然鈴の視界に入った電気屋のテレビでは、その二人、及び今は杉並区にはいない別の二人組にとって、悪い情報が放映されていた。
「今朝、日本及び世界中に魔術師と呼ばれる存在が多数存在したことが明らかになりました。発表をしたのは政府がその存在を秘匿してきた魔術師研究会という機関であり、その情報によると、魔術師はテロリストのような大量殺戮を普通の人ではありえないような方法で繰り返す化け物であるそうです」
緊急のニュースであろうか、鈴が昨日何の気なしに見たテレビの番組表には、そんなニュースがこの時間帯にあるなど、書いてはいなかった。
ましてや、魔術師が人ならざるものであるという報道なども……。
「祈、本当にやばい状況みたい……。私たち、化け物だってさ……。不死身ってわけじゃないけど」
鈴は、昔見た不死身の少年が化け物扱いされ、政府に捕まって研究をされるという作品を連想し、これから自分たちの身に起きることを想像して恐怖した。
読んでくださり、ありがとうございました。
今回はハツキ組が質屋に行って鈴組が報道を見てやばいーってなったっていう話でした。正直、アクセル・ワー……はなかなか危なかったです。著作権的にやばかったです。
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