物体変換魔術
「担イシ者タチ」第五話です。
よろしくお願いします。
静寂。誰も一言も喋らず、なにも音をたてないという状況。
東京の都心から少し離れたところにある、とある廃墟の一階の入り口近く。
ハツキは積まれたダンボールの陰に隠れ、鈴は部屋の入り口の陰に隠れていた。
無音と無言が交差して、今何かが音をたてればどれだけ耳が悪い老人でもその音が聞こえてしまうのではなかろうか、というほど静かだった。
(どのタイミングで行くか……下手に動けば返り討ちにされる……。かといって待っていたら増援が来る……。鈴にサインするタイミングも重要になってくるしな)
戦いの流れは、ハツキが鈴にサインしてから二人同時に動いて集中して攻撃を浴びせる、という流れを予定している。
(ハツキのサインがいつ来るか見ておかないと……。それにしても、ハツキとまた会えるなんて……。想像もしてなかったな……。もう二度と会えないと思ってたし。はあ……相変わらず凛々しい顔……かっこいいなあ……)
鈴はハツキの顔を見ながら再会の感動とハツキへの好意で小さい胸をいっぱいにしていた。
(誰が小さい胸よ……失礼な地の文ね……)
鈴がメタいことを思っていると、ハツキが手の甲をこちらに向けて人差し指を振り下げて鬼狩の部下の男の方を指した。
(来た! ハツキの後に続いて集中攻撃すればいいんだよね!)
ハツキが勢いよくダンボールの陰から飛び出し、全力疾走で男の元へ駆けていく。
鈴もそれに続いて足音を消しながら男の元へ駆けていく。
「! コンタクト!」
男が叫ぶ。
だが、その言葉が他の鬼狩の部下に届くよりも、ハツキが男のすぐ前に来る方が早かった。
ハツキは魔術を発動させ、同時に腕に魔法陣を纏った。そして魔法陣は光と化し、結果的にハツキは光を腕に纏った。
(すごい……これがハツキの魔術……光を操ったり固形化したりできる魔術……)
鈴はハツキの魔術を始めて見て少し感動したような感覚を覚えた。
「私も頑張らないと」
鈴は玄関の枠を右手でつかみ、魔術を発動させた。
すると、玄関の枠が消え去り、かわりに鈴の左手に柄も刃も玄関の枠と同じ物質でできた薙刀が現れた。
鈴は薙刀を握り、ハツキの横に並んだ。
「鈴、周り、見てみて」
「え、周り……?」
鈴が周りを見まわすと、そこには異様な光景が広がっていた。
左右に約十人。ごく普通の道路に足を付けている白衣の男達。全員同じゴーグルをかけていて、視線は完全にこちらを向いて一致している。
「ははは、これはすごいね……」
「鈴、薙刀で戦うのか」
「ちょっとだけ習っていたことがあってね。ハツキも武器が要るんだったら言ってくれたら創るよ」
「了解。ありがとう」
完全に挟み撃ちという状況で、大勢の敵と対峙している背中合わせの二人。
二人は会話もそこそこに、自分たちの周りの敵に焦点を合わせ、全力で駆け出した。
「でやあ!」
鈴が叫びながら一番手前にいた敵の胴体を切りつけた。
切られた男はぐあッ! と声をあげて倒れ、続いて次に切られた男が叫びながら倒れた。
「くそ! 撃て! 撃て!」
銃声が何発も響くが、その間鈴とハツキの苦痛に耐えかねた叫びは周りには響かなかった。
(相手の居場所を利用してできるだけ銃を撃たれないようにする……対多人数での立ち回り方はそんな感じだったはず……)
鈴は昔、ある人物から戦闘の際の立ち回り方を教わったことがある。薙刀の使い方もその人物から教わったものであった。
しかし、教わっただけの鈴にとって実戦は少し厳しかったのだろう。撃たれた銃弾が鈴に当たりかけた。が、
「く、避けられないなら、防げばいいだけ!」
鈴は魔術を発動させ、瞬時に薙刀を大盾に変えた。
盾は銃弾をはじき、鈴は被弾を防いだ。
「これで、終わり!」
戦闘開始からしばらくして、鈴は十人いた鬼狩の部下を全て倒し終えた。
「こっちも終わった。お疲れ、鈴」
少し余裕の様子でハツキが鈴に近づいて話しかけた。
「すごいね、ハツキ、武器なしでここまでできるなんて……」
「まあ、僕の場合、魔術が戦いに特化してるからだと思うけど……。それより、祈たちを呼んで早くここを出発しよう。多分今よりももっと多い人数がこっちに来る。そうなったらさすがに対処できないだろ」
「そうだね。行こう」
鈴がそう言うと、ハツキは周囲の警戒のためその場に残り、鈴は祈たちを呼びに行った。
読んでくださり、ありがとうございました。
今回も少し短く、あまり続きへの繋がりが薄い結果となりましたが、ここから! ハツキ達の戦争がはじまりますので乞うご期待です!
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