巡り合わせ
「担イシ者タチ」第二話です。
よろしくお願いします。
過崎初希が魔術を発動させてから約1時間が経った。
町の中にいる鬼狩の部下の人数は依然として増え続けていて、ハツキが逃げ切ることができる可能性は徐々に低くなっていく。
止む気配もない雨が降り続ける中、ハツキは走り続け、とある川の河川敷にたどり着いた。ハツキはそこにあった下水道への入り口に隠れ、雨をしのいでいた。
(あいつら、あきらめるつもりはないのかよ……。というか、さっきのは何だ? 魔術を使うときはいつもちょっと使うだけで息切れしてしまうのに、あの声がしてからいくら魔術を使っても全然平気だ……。! また声が聞こえてきたぞ……)
ハツキの頭の中で無機質な声が響く。
「時は来た。魔術師よ、我を求めて争え。我は聖剣。世界のどこかに存在する。我を手にしたものはどんな願いも叶えられるであろう。争え。殺した魔術師の分だけ知識が与えられよう」
声はただ一度そう言って、その後二度と同じことが起こることはなかった。
(争う? 殺した分だけ知識が与えられる? どういうことだ?)
ハツキは聖剣と名乗るその声の主が言った言葉の意味が分からず、ただ困惑した。
その時だった。
「注意勧告! 本部で魔力現界の発生が確認された! 現在都市部では魔術師同士による闘争が勃発している! 繰り返す、各地で魔術師の発生を確認! 警戒せよ!」
無線機ならではのノイズが混じった声が聞こえてきた。
近い。ハツキはそう感じ、周りを見まわした。
そして河川敷のすぐ上の道路を見上げた時、鬼狩の部下の男が一人いるのに気が付いた。
鬼狩の部下たちは皆同じようなゴーグルを装着している。何の用途で装着しているのかは不明だが、それのおかげで即座に鬼狩の部下だと判別できるので、ハツキにとってはありがたかった。
そして、先ほどのノイズ混じりの声は恐らくその男の無線機から発せられたものだろう。
(魔力現界って、さっきのか……。じゃあ、魔術師が現れたってのは……? 僕以外に魔術師がいるってことか? ……とにかく、ここから逃げないとまずい。ばれないように近づいて気絶させよう)
ハツキはそう思い、キョロキョロとあたりを見まわしながら道路に突っ立っている男のところへ静かに近寄った。
その時、
「いたぞ! 捕縛対象ではないが、魔術師だ! 場所は第五ブロックF-12!」
先ほどまで自分がどうすべきなのだろうかと言いたげな様子でキョロキョロしながら突っ立っていた男が、突然無線機を口元に持っていき、そう叫んだ!
ハツキは自分が見つかったのかと思ったが、どうやらそうではないらしく、その男はハツキの方に見向きもせずまっすぐ前を見つめていた。
何があるのかと思い、再び下水道の入り口の陰に隠れて男の見つめる先を慎重に確認した。
そこにいたのは、足を引きずって歩いている少女だった。
ハツキは少女が長い桃色の髪を雨にさらしているせいか、どこか暗い印象を受けた。
(足をけがしているのか……? とても魔術師には見えないけど……)
ハツキがそう思っていると、唐突にガチャッという音がハツキの耳に届いた。
その音の方向……先ほどの男の方へ再び目を向けると、男が少女の方へ拳銃を向けていた。
「おい! そこの女! 静かに地面に伏せろ!」
少女はその声に気づくと諦めたように地面へ膝をついた。
(な……嘘だろ? くそ! 助けないと!)
ハツキは勢いよく立ち上がり、全速力で男の元へと走って行った。だが、ハツキも疲労がたまり、かなり走るスピードが落ち、走り方も音をたてないように意識する余裕がなく、ドタドタと音をたててしまう走り方になっていた。
男はその音に気づき、こちらに振り向くと同時に銃口をハツキに向けてきた。
(くそ、気づかれた! 間に合わない!)
ハツキがそう考えた瞬間、男が引き金を引き、銃口から爆音が発せられ、同時に勢いよく銃弾が飛び出した。
ハツキは銃弾をかわすために身をねじった。
だが、銃弾はハツキの右肩に命中し、ハツキは突然襲ってきた強い痛みのせいで体勢を崩しそうになる。
が、痛みを堪え、体勢を崩すまいと足を地面にめり込ませるように強く踏み込み、無理やり体を男の方へ持っていく。
(正面から攻撃してもこの状況を打開することはできない。魔術も疲労のせいで使えない……。このまま背後に回って河川敷に落とすしかない!)
ハツキは何とか2発目の弾丸が発射される直前に男の元へたどり着き、同時に体を右斜め方向へと持っていき、男の背後へ回ろうとした。
男は銃撃の2発目が命中せずに河川敷の芝生に吸い込まれたことを認識するや否や自分の背後に回り込もうとするハツキを銃身で殴ろうとした。
しかしハツキは男の拳銃の銃身が自分の体に触れるより前に男の後ろへ回り込み、そのまま足で地面を思い切り蹴って全身の体重を男にぶつけた。
ハツキはそのまま道路に倒れこみ、男は後ろに吹っ飛んで河川敷の芝生へ転がっていった。
ハツキが下を確認すると、男はピクリとも動かなかった。気絶しているようだ。
「よかった……。……くそ、撃たれちゃったか……。ね、ねえ、君、大丈夫?」
ハツキは男の気絶を確認した後、銃弾を受けた右肩をおさえて少女に近づき、話しかけた。
「え……あ、うん……。助けてくれたんだ……ありがとうございます……」
「無事なら良かった。とにかく別の場所へ行こう。ここにいたらすぐに奴らの増援がくる。足をけがしてるの? ほら、肩かすよ」
ハツキは少女の手を握り、自分の血が付かないように右肩ではなく左肩に回した。
「ごめんなさい。何度もありがとうございます……って……え……? もしかして……ハツキ?」
少女はか細い声で自分を助けてくれた少年の名前をつぶやいた。
「え……? あ……いのり、なのか?」
ハツキは心の底から驚いた。
なぜなら、先ほど鬼狩の部下に魔術師だと言われた少女、その少女が、自分の幼馴染である霧科祈であったからだ。
読んでいただきありがとうございました。
今回は少し長い話になってしまいましたが、サブタイトルの通り、運命の巡り合わせの話です。ハツキの幼馴染が登場しました。なぜ離れ離れになったかは明日の投稿で明らかになります。
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