魔力現界
初めまして。もしくはこんにちは。神神神と申します。
タイトルからすればホラーっぽい感じですが、笑えるけどシリアスな作品、という感じにしたいと思っております。
よろしくお願いいたします。
「くそ……まだ追ってくるのか……」
湿度が高い梅雨の季節……少年は激しく雨が降っている中、道路の右端を走りながら自分を追う二つの人影が50m後方にいることを確認してつぶやいた。
(そりゃあそうか……やっと捕まえた研究対象をまんまと逃す奴なんかいないよな……)
少年を追う人影の正体はある科学者だった。いや、正確にはその科学者の使い……部下と言ったところである。
科学者の名は鬼狩狂矢と言う。マッドサイエンティスト、もしくは臓器ブローカーとして裏の世界で名高い人物である。
少年が追われている理由はただ一つ。少年が魔術を使える存在であるから。
つまり、テレビなどでよく見る話と同じように、科学者にとって少年はただの実験対象なのだ。
(どうすればいい……。どうすれば、あいつらから逃げられる……?)
日本の中心都市である東京の端、都市部から隔離されたその場所では、住民に助けを求めることこそ可能ではあるが、その住民を荒事に巻き込んでしまった際の警察などの治安維持組織の対応は他地域よりもはるかに遅い。
もし鬼狩の部下が鬼狩に人を殺すことを許可されているのであれば、住民に助けを求めたところで犠牲者を増やしてしまうだけになる。
そんな理由から、まだ中学1年生になったばかりの少年は誰の助けも借りることができず、一人でその地を逃げ回っていた。
少年は昨日その科学者に捕まったが、さきほどなんとか研究所から逃げ出してきた。
(もう二度とあんな拷問はごめんだ。絶対逃げてやる)
昨日少年が受けた実験のメニューは、拷問と言って相違ないほどの過酷なものであった。
脊髄液を麻酔もなしに抜かれ、脳に電流を流され、身体のどこが一般人と同じでどこが違うのかを調査するために爪をはがされ、腕、足、顔、胴体などの皮膚を一部分ずつ切り取られ、さらには少年が抵抗したため、その代償だと言って眼球を一つ持っていかれた。
(視界がぼやける……目を一つ失ったから脳が困惑しているのか……?)
少年が研究所から脱出し、ここまで逃げて来るまで約2時間かかった。
奴らが少年の脱走に気付いたのはほんの20分ほど前である。
(捕まるのは時間の問題……。おとなしく捕まるしかないのか……?)
「……は……ぶんに……した……を……え」
少年があきらめかけたその時だった。
少年の頭の中に直接語りかけるように何者かが声を発した。
(な……なんだ、今のは?)
少年は頭の中で何度も繰り返されるその声を必死に聴こうとした。
その声はこう言っていた。
「魔力は充分に現界した。魔術を使え」
(……え、どういうことだ? どうすればいいか、わかる)
少年はその言葉の意味を誰かに無理やり理解させられたような気分になった。
「とにかく、魔術であいつらを吹っ飛ばせばいいってことだよな……やってやる!」
少年は急に立ち止まり、素早く踵を返した。そしてそのままさきほど後方にいた鬼狩の部下の方へ突進し、魔術を発動させる。
右手と右脚に魔法陣をまとわせ、魔力を腕と足に集中させる。次の瞬間、少年の右手が光に包まれる。
「捕縛対象が魔術を発動させた!」
少年を追っていた男のうちの一人が叫んだ。だがその情報が鬼狩の部下たちに理解されるのは、かなり遅かったようだ。
少年は鬼狩の部下たちが状況を理解するよりも早く拳を握り、向かって右にいた男を殴った。そして同時に右脚を振り上げ、左の男の頭を蹴った。
男たちは同時に気を失い、言葉もなく地面に倒れた。
「す、すごい……やった……のか?」
自分でこの状況を作り出せたことが信じられない少年は自分の右手を見てそうつぶやいた。
魔力の現界……これから始まる戦いにおいてそれは重要となる出来事だった。
そして、恐らく世界で一番初めに現界した魔術を使ったであろう少年……光を操る魔術を持つその少年の名は、過崎初希といった。
読んでくださりありがとうございます。
初めましての人は初めまして。
あれ、君のことどっかで見たよな人はどうもこんにちは。
神神神と申します。
現在この作品と同時に「マジックギミックス」という作品を執筆しております。この作品はその「マジックギミックス」という作品の過去編にあたる作品です。
しかしこの作品だけ読むという人もあっちの作品だけ読むという人も楽しめる、十分に理解することができる作品に双方していきたいと思っております。
もしよろしければ「マジックギミックス」の方もよろしくお願いいたします。
「担イシ者タチ」はこれから毎日12時に更新していくつもりですので、よかったら毎日見に来てください。
感想や文章の指摘などがありましたら送ってくださると嬉しいです。
ブックマークや評価ももしよろしければお願いいたします。