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赤銅ノ双剣  作者: 死猫ノアンネ
8/12

七章 衝動に任せて




一方、ラスティア村では。



ーーバシュッ


「ほい、離していいぞ」


クロムに言われ、ケイトとシェリーは手を離す。


「先生、それどうするの?」


ネルに貰った怪しげな道具を見てケイトが聞いた。


「とりあえず、なにがあるか確認したい。…シークが色々放り込みやがったからな……」


「あー、じゃあ俺も手伝うよ」


「先生、私…」


クロムはどこか申し訳無さげなシェリーに微笑みかけた。


「村長のところだな?気にせず行け。話が終わったら、いつでもまたネルのとこまで転移してやる」


「ありがとうございます」


二人をその場に残し、彼女は歩きだした。




「ただいま」


瓦礫を片付けていた人達に聞くと、丁度休憩しに家に向かったと言われた。だから寄り道もせず真っ直ぐ家に帰るとおじいちゃんがいた。お茶か何かを淹れているようだ。


「おかえり」


そのお茶と木の香りが身体を包み、家に帰って来たんだなと実感する。


「村のほうは……?」


「亡くなった者たちの弔いを終えたところだ。これから撤去や再建に追われるな」


「そっか」


いつも村のために動いている祖父を、私は助けたかった。『話』というのを聞けば、すぐネルの元へ戻って魔法を教えてもらえる。

しかし逸る気持ちを抑え、まずは報告しようと思った。


「あのね、ネルさんって魔女のところへ行って、ヴァンパイアのこと教えてもらったの。太陽の光に弱いらしくて………」


「それは、いい」


急に遮られた。


「…いつも自分のことを後回しにしおって……そんな笑顔で隠したって無駄だ。話したいことから話せ」


そう言うとおじいちゃんはお茶を二つテーブルに置いた。

おじいちゃんには敵わないなぁ……。

私は苦笑いと共に、さっき飲み込んだ言葉を吐き出す。


「ネルさんが、魔法を教えてくれることになったの」


「……」


黙ってお茶を啜る彼の正面に座り、話を続けた。


「でも、私はまずおじいちゃんに話を聞けって」


「話、か。漠然としているな。許可を求めろということか?」


彼はどこか遠くを見詰める。


「それは教えてくれなくて……あ、伝言を頼まれたの。『自覚すれば発現する』って。なんのことかわか、る……」


彼が急に立ち上がった。おじいちゃんが目に見えて動揺するなんて初めてのことで…。


「お、おじいちゃん…?」


彼は何も言わず、急に窓を閉めた。扉、天窓…かけ布までおろすと、私に座るよう促した。


「その魔女……ネルといったか」


「う、うん」


彼は暫く下を向いていたが……ふと顔を上げた。


「私とお前に、血の繋がりが無いことは随分前に話したな」


「うん。私の両親が預けていったんだよね」


村人の中でも、このことを知っている人は少ない。


「……一つ、嘘をついた。……私はお前の両親から、お前を預けられたわけではない」


「……?」


では、誰に預けられたのだろう……?

おじいちゃんはとても言いづらそうに口を開いた。


「昔、私がハンターをしていたときに……モンスターから預けられた」


……?


「…………も、んすたー?」


理解が追い付かなかった。私は、モンスターから預けられた子供?どういうこと?


「そ、それじゃあ私の両親は……?」


「村長!」


急に入ってきたのは鍛治家のオーガだった。


「どうした」


「また昨日のヴァンパイアが……!今、クロム先生なんかが相手してくれてます!」


「ヴァン、パイア……?……っ!?ま、まだお昼前なのに!」


衝撃が収まると同時に別の驚きがうまれた。

ネルさんの話と違う……!?


「急いで避難させろ!」


おじいちゃんは、私に申し訳無さそうな視線を向けると「逃げろ」とだけ言って、オーガさんと共に走り去っていった。


「……」


おじいちゃんの顔が焼き付いて、私の足を動かしてくれなかった。

…そんな目で見るなら、どうして言ってくれなかったの。

今度は考えるより先に足が動いた。外へ飛び出すと、予想よりも近くで爆発音が聞こえてくる。女子供が反対方向へと逃げて行った。


「シェリー!」


逃げて行く人が私に声をかけた。でも、私は振り向かないで走りだす。


「何処に行くんだ……そっちはヴァンパイアがいるんだよ!」


私は、騒ぎの中心へとひた走った。おじいちゃんも向かったであろう、ヴァンパイアの元へ。後先も考えずただ……攻撃的な自分に身体を預けて。


後で、私はこのことを後悔することになる。




「シェリー!?」


オーガさんの言った通り、そこには先生とケイトがいた。おじいちゃんも……


「なんでここに……逃げたんじゃ……」


ケイトが目を見開いている。


「……」


私が黙って見返すと何かを察したのか、持っていたものを放ってきた。慌てて受けとるとケイトが叫ぶ。


「銃って奴の模型だそうだ!引き金を引くと回復魔法が発射する…援護してくれ!」


頷くと、彼は別のアイテムを持ち、先生の側へ駆けていった。


「ダークブレス」


「ヘルファイア」


先生とヴァンパイアは交戦中だった。ヴァンパイアのほうはマントを被っているが、背格好からして少年のようだ。

……一人?

回りを見渡したが、誰も見当たらない。そこでロゥたちから聞いたヴァンパイアの少女の話を思い出す。

昨日も襲って来たなら先生の存在は知ってるはず……そんな状況に一人で飛び込むかな?


「……先生!」


距離はあったが、先生は気づいてくれた。


「何処かにもう一人いるはずですっ!」


「!!」


私の言葉に、少年も反応した。


「……あーぁ、バレましたねぇ……っと!」


彼は急に先生の腕を掴んだ。


「転移を使えるのは貴方だけじゃないんですよ?」


「……っ!しまっ」


次の瞬間、先生と少年は消えていた。何処に隠れていたのか、代わりのように違うマント姿が飛び出してくる。


「お兄様の策を見抜くなんて……片付けて差し上げます」


どうやら彼女が、昨日ロゥたちを襲った少女のようだ。


「相手してよ、お嬢さん!」


私に向かってこようとした彼女に、ケイトが何かを投げつけた。


ーーキュイン……ゴォオオオオオ


それは少女に当たった瞬間、火柱となって彼女を襲った。……しかしものの数秒で消されてしまう。


「ごほっ……忌々しい小細工です…!」


そのマントはボロボロになっていた。彼女はそれを''大事そうに''纏い直し、今度こそ私に向かってきた。


「逃げてシェリー!」


ケイトの言葉に反応するより速く、少女が私に迫っていた。


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