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誤解は事件を招く元

投稿が遅くなってしまいすみませんでした

「怪我はない……です?」


小さな声で少し怯えながらそう言う少女は、手に持っていた小刀のようなものを腰に掛かっていた鞘に収める。


「あ、あぁ……ありがとな、助かったよ」


「い、いえっ! 対したことはしてないですからっ……」


「そんなことないぞ? あのままじゃ、下手したら俺は死んでたしな」


そう……あのままだったら間違いなくデビルフラワーに食われてあの世に行っていただろう……本当に間一髪だった。


「それなら……よかったですっ」


まるで自分の事のように嬉しそうな顔で微笑む少女。その優しさに、この世界に来て初めてまともな子に出会ったような、そんな感じがした。


「ところで……えっと、なぜあなたはこんな森にいたんですか? この森は危険区域の003番に登録されていた筈なんですけど……」


「へ?」


危険区域……その言葉少しゾッとする。つまりここは、このおかしな世界の中でも危険とされている場所だということだ。なんで意味もわからず最初に訪れた場所がこんな場所になってしまったのか、自分の運命を恨まずにはいられない気分だった。


「あ……いや、これには深いわけがあってな」


「深いわけ……です?」


コテンっと、首を傾げる黒髪褐色少女。その仕草は少し小動物のようで癒されている自分がいるが……今はそんな姿に癒されている場合ではない。


「あぁ……俺は昨日、いきなりこのおかしな場所に放り込まれたんだ」


「ほ、放り込まれた…です?」


「あぁ……これも全部あの女のせいだ……」


「あの女……?」


あの女……俺をあんな危険生物の前で置き去りにしていった女。この世界に慣れるためとか言っていたが……慣れる前にあんなこと続けてたら死んじまうっ! それに俺の前から居なくなる前、少し笑ってなかったか!


「あ、あの……」


「あぁ!?……あ」


「ひぅ!?」


褐色少女はカッとなって大きな声を出してしまったのが怖かったのか、ブルブルと震えながら茂みに隠れてしまった。その姿を見た俺はすぐに後悔した……やっちまったな……と、せっかく助けてくれた子に向かって威嚇じみたことをしてしまった。


「ご、ごめんっ……こんなこと言うつもりじゃなかったんだっ! ちょっと虫の居所が悪くて……」


「お、怒こってないんです……か?」


「もちろんっ! 君に怒る理由なんてないしな」


そう言うと、恐る恐る茂みから顔を出す少女。茂みから出てきてくれない辺りは、やっぱりまだ警戒しているみたいだった。本当に申し訳ないことをしてしまった……お菓子をあげたら機嫌直してくれたりはしないだろうか。まぁ、お菓子なんて持ってないけど。


「初対面の少女を泣かすなんて、貴方は随分と鬼畜なんですね」


「こ、この声は!」


聞き覚えがありすぎる声が聞こえてくる。この声の主に会ったら一言文句でも言ってやろうかと思っていた張本人。その張本人は木の上からさっと着地して、わざとらしい口調で俺に笑顔を向けてくる。


「いやいや……貴方にそんな性癖があったなんて、人は見かけによりませんね」


やれやれと言うように首を横に振る女。なぜだろう……こんなことをしていても見た目が綺麗だから絵になってしまう。……とんでもなく腹立たしいことこの上ない。


「違うからな! 俺は泣かせるつもりなんて微塵もなかったぞ!!」


「またまた、冗談がお上手ですね」


口に手を当ててくすっと笑う女。コイツ、絶対に分かって言ってることが丸分かりだった。


「ち、違いますっ! アインが勝手に勘違いしてしまっただけですからっ!」


顔を真っ赤にしながら目をつぶり、大声で俺を擁護してくれる褐色少女。あぁ……本当に助かる。というか、ここに来て二人目が本当にこの子でよかった。もしもまたこの女みたいな奴だったら俺は間違いなく心労がとんでもない事になっていたことだろう。


「へぇ〜……貴女はアインっていうんですね」


「へ? あ、はいっ! アインはアインシル・デルカって言いますっ!」


「デルカ……?」


デルカという言葉を聞いて、目を細める女。どこかで聞き覚えでもあったんだろうか。そんな表情も一瞬でどこかにいってしまい、また元の表情に戻る。どうしたのか少し気になり……声を掛けようとした時。


「あっ……そ、そういえば先程も聞きましたけど、お二人はどうしてこんなところにいらっしゃったんです?」


「ん? あぁ……それは」


「この男に生まれたままの姿を見られたあげく……夜を共にし、そして今に至ります」


「ふぇぇぇ!?」


「ちょ!? 確かにある意味間違ってはいないけどその言い方だと誤解されるだろうがっ!!」


女がとんでもないことを言ったせいで、アインちゃんが顔を真っ赤にして驚いていた。女の方をチラッとみると、アインちゃんの方を見ながらニヤニヤしていた。つまりは、アインちゃんのこの表情を見るために俺は犠牲にされたのか……? 確かにこの表情は可愛いとは思うが、さらっと俺が警戒されそうなことはない言わないでほしい。


「違うからな! 俺とこいつは確かにいろいろあったけど、清らかな関係だからっ!!」


「だ、大丈夫ですっ! アイン、誰にもいいませんからっ! 」


「だから違うって!」


俺が近づくと後ずさっていくアインちゃん。完全に警戒されてしまった。ここはなんとしてと弁解しないと……


「さっきの言葉は出鱈目だからっ、生まれたままの姿を見たのは不可抗力だし、寝てたのは俺が気絶してた時にこの女が勝手に同じ場所で寝てただけだからっ!」


「わかってますっ、アインは全部わかってますから〜!!」


「絶対にわかってないよね!? ちょっと待ってぇぇぇ!!」


何をわかっているのか、顔を真っ赤にしたまま走り出すアインちゃん。この感じだと絶対にわかっていないことしかわからないので、絶対にお話を聞いてもらわないといけない……というわけで、今度は俺がアインちゃんを追いかける側になったのだった。


「少女を追いかける男……一発で捕まるレベルですね」


「誰のせいだ誰のっ!!」


ドラゴンやデビルフラワーからなんとか逃げてきたが、今度は追いかける側になっている。しかし、なぜかアインちゃんにはまったく追いつくことができない。


「アインちゃん足早くないか!? まったく追いつけないんだけど!!」


「まぁ……それはそうでしょうね」


ボソッとそういう女。その表情は今までに見たことがないような顔をしていた。


「お前何か知ってるのか?」


女はチラッと目だけ俺の方に向けた後、直ぐに前に向き直り。


「さぁ……それよりも今はアインさんに追いついて、貴方が変態鬼畜野郎だという真実を公共の場で言われるのを阻止しないといけないでしょう?」


「真実じゃないからな!?」


でも確かに、こうなったのは完全に女のせいだが、頬っておいたら間違いなく女が言った通りの結末になってしまうだろう。変態鬼畜野郎とか……不名誉にも程がある。


「ん……? なんか音が聞こえるんだが」


走っていてふと気がついたが、何処かで聞いたことがあるような音が聞こえてきた。水が流れる音……そういう言い方がしっくり来るであろう音がした。


「貴方も気がつきましたか……確か、この先には川があったはずですから、その音だと思いますよ」


「川? そうか……川でアインちゃんが止まってくれれば誤解を解く時間が取れるかもしれないっ!」


俺は少しの希望を見出し、アインちゃんを追いかける。そんな希望はある意味裏切られる事になる。それも……予想をしていなかった最悪な形に。



**



「もぉ〜! 何やってるんだろう……アインはぁ!」


アインは今、走っている。何故こうなったのか……理由は明らかなものだった。先程初めてあった二人のお話を聞いてパニックになって走り出してしまったのだ。綺麗な女の人が冗談を言っていたことに気づいたのは走り出してから少し経ってからで、でも今更止まるのもなんだか恥ずかしくなってしまい、未だに止まれずにいた。


「男の人もちゃんと、誤解してるって言ってくれてたのに……」


走りながら、自分の早とちりな性格を呪う。もっとしっかり落ち着いて話を聞いていればこんな事にはならなかったのに……アインはダメな子だ……こんなんだからアインは……


「え……?」


そんなことを考えていた時、アインの見ていた景色が変わった。視点が低くなって、足から冷たい何かに沈んでいく感覚に襲われた。


「ごぼっ!?」


自分が水の中に入っていたことに、息ができないという現象に陥って初めて気づいた。今思い返せば、ここら辺には川があったことは知っていた……なのにそこにたどり着いていたことさえ気づかなかった。


「ごぼっごぶっ!?」


アインは本当に馬鹿だ。なんて落ち着きのない子なんだろう。そんな感じで自分を心の中で罵倒する。そんなことをしていると、水を飲んでしまい、息苦しくなってしまった。そこでさらに思い出す、アインは泳げなかったんだ……。


「がぼっ!ごぼごぼっ!?」


あぁ……アインはこのまま死んでしまうのかもしれない。こんなことで……自分の不注意で。アインにはやらなきゃいけないことがあるのに……目的が……あるのに。


「………!!」


意識を失う直前、誰かの声が聞こえた気がした。それと同時に……なにか暖かいものに包まれた。何かはわからなかったけど、その暖かさに私は……こんな状況にも関わらず安心してしまった。



**



走り続けて何分か経った後、予想外の出来事に見舞われていた。


「おいっ! アインちゃんが落ちたぞ!?」


そう……全力疾走で走っていたアインちゃんが川に到達しても止まることなく、そのまま川に落ちてしまったのだ。何が起こったのか、正直俺にはわからなかった。止まると思って油断していたから……こんな事があるとは思っていなかったから。


「そんなことないって決めつけて……油断するのは俺の悪い癖だな……くそっ!」


川に落ちていったアインちゃんは吹き上がってくることはなかった。流石の俺も、これがどんな状況なのかくらいは予想できた……アインちゃんはきっと、泳げないんだ。俺が予想した最悪の結果……なることはないだろうと高を括っていたのに。


「おいっ!」


「なんですか?」


こんな状況にもかかわらず、女は落ち着いていた。そんな姿を腹立たしく思いながらも、冷静でいられる女の姿を少し羨ましく思っている自分もいた。でも今はそんなことを考えている暇はない。


「俺がアインちゃんを引き上げる! お前は……」


「グルァァァァ!!」


「なっ!?」


「まさかまた再会するとは……好かれてますね、貴方」


最悪とはまさにこういうことを言うのだろうか。いきなり目の前に現れたのは……この世界にきて初めて出会ったモンスターの、黒いドラゴンだった。あれからずっと俺を……俺達を探し続けてきたのか。どれだけ執念深いんだと心の中でドラゴンに向かって文句を言う。


「自分を食う気満々のドラゴンに好かれたって嬉しくないってぇの!!」


これは流石に絶対絶命だ……アインちゃんを助けたいが、ドラゴンがそんな暇を与えてくれるとは思えない。くそっ……どうすりゃあいいんだっ!


「仕方ないですね……」


「え……?」


女が俺とドラゴンの間に割って入る。


「お、お前……なにを」


「ドラゴンのたかが一匹、私の敵ではありませんから。だから貴方は、アインさんを救出してください」


「だ、だが……」


「早くしてください……アインが溺れて死んでしまってもいいんですか?」


またもやこいつは、こんなにも冷静な顔でさらりと言う。本当に、こいつの言っていることが真実であると思わせられる。こいつが正しいのだと、何故かそう思ってしまう。いや……そう思わせる何かがコイツにはあるのかもしれない。


「……わかった、まかせたぞっ!」


ドラゴンを俺は女に任せて、俺は川に飛び込んだ。背中の方から女の声が聞こえたが、何を言っていたのか……俺はわからなかった。



**



水に飛び込むような音が聞こえてくる。どうやら彼はアインさんの救出に向かったようだ。


「まったく……彼は面倒くさい人ですね」


彼がいれば間違いなくツッコミを入れられていたであろう言葉を口にする。彼のツッコミはキレがあってやりやすい……たった数時間しか話していないけれど、それは事実だった。


「彼はこれからどう変わっていくのか……どう成長していくのか……楽しみではありますね」


「グルァァァァァァァ!!」


咆哮を響かせながら近づいてくるドラゴンを見る。私も確かにこのドラゴンはしつこいと感じる。これが男なら間違いなく嫌われるタイプだろう……そう思いながら付けているマフラーを少し緩める。


「『私』が頑張るなら……私も、少し動かないとダメですかね」


「グォォォォ!!」


「さぁ……私と、終焉の音楽を奏でましょう」


そして私は、久々に感じるこの高揚感を胸に。ニヤリと笑った。



**



泳いだのは何年ぶりだろう。ふと、アインちゃんを助けに行く途中に思う……それくらい水の中に入って泳ぐという行為が久しぶりだった。だがしかし、そんなことに懐かしさを感じている暇はない。


ここの川は見た目以上に流れが速く、泳いでいるのか……流されているのかも分からなくなるほど急流だった。そのせいもあってか、そう簡単にアインちゃんには落ち着くことは出来なかった。泳いで近づいてもその分、アインちゃんは流されていってしまう。


「ぷはっ! くそったれっ!」


息継ぎをして、また泳ぎ始める。このままじゃ追いつけない……それ以前に、このまま助けるのが遅くなればアインちゃんを無事に助けられるかわからなくなる。


そんなの……ごめんだ。あの子は死んじゃだめだ……俺はそう思った。アインちゃんの瞳はとても綺麗だった……俺とは比べ物にならないくらい。だからこそ……


「ぷはっ……はぁ……あの子は死んじゃダメなんだよっ!!」


身体にもう一度力を込め、おもいっきり息を吸い込み、泳ぐ。少しでも手が届けば、後は引き寄せてなんとかして助け出す。後……ちょっと、もうちょっとで届く。そして俺は全力で手を伸ばした。


「よしっ!」


アインちゃんの服に手が届き、そのままアインちゃんの身体を俺の方へ引き寄せて抱きしめる。そして、息ができるように顔が出た状態で浮かぶようにする。アインちゃんは気は失っているものの、しっかりと息はしていた。


「なんとか、間に合ったみたいだな……だけどまだ、これからどうやって川から出るか……」


一難去ってまた一難、川が急流なのは変わらないので……そう簡単には陸まで泳いでいくのは無理だろう。なんてことを考えていると、嫌な予感がする音が聞こえてきた。


「な、何だこの音……」


水がどこか高いところから落ちているような、そんな感じの音。えっと……テレビとかで時々聞く音で、俺は直接見に行ったこともあるかもしれない。でも俺は今起ころうとしていることが、それとは別物であることを願った。


「けど……たぶん、俺の予想通りみたいだな」


俺達が浮かんでいるところから少しのところ、川の先が見えないところがあった。そしてそこに近づくにつれて大きくなっていく轟音。ここまできたらもう現実逃避なんてものは無意味で、これほどの出来事の連続に、俺はカラ笑いをしてしまった。


「滝、かよ……マジ勘弁してくれ」


その時、俺は場違いも甚だしいが……こんなことを思い出していた。あの女と初めて会う前、変な機械音が聞こえた時……その機械音が言っていた言葉。『ルナティックヘノテンソウ』……今ならこの言葉の意味がよくわかる。


そう……この世界はきっと、ルナティックなのだ。何もかもがルナティック。……理不尽で、狂気じみてる世界。俺は……とんでもない世界にきてしまったのかもしれない。


「ふざけんなこの野郎ぉぉぉ!!」


この世界の理不尽さに怒りを覚え、抱いた気持ちのほんの一部を言葉にする。そんな無意味なことをして、俺達はそのままなされるがまま……滝に飲み込まれていった。それから先のことは覚えていない……

今回は視点変更が多く出て、誰が誰の視点か分かりにくいなんてこともあったと思いますが、ここまで読んでいただきありがとうございました。


次回も宜しくお願いします

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